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第107話 迷宮(ダンジョン)攻略⑦ テルヴオルド・ジェミニ

「どこ、ここ?」


 私の目の前に広がっていたのは、遺跡の内部とは到底思えない光景だった。

 天井はない。代わりに、高く抜けた空と陽光が広がっている。


 足元には、苔がむした岩と草が敷き詰められ、

 周囲には見通しの良い森が、まるで囲うように広がっていた。


(……どういうこと。転移先は、森?)


 明らかに“別の場所”。

 だが、なぜわざわざ“こんな開けた場所”に?

 迷宮主どころか、敵の気配さえもない。


(まさか、幻覚……精神干渉系とか? でも――)


 ふと視線を森の奥へと向けたそのときだった。


 枝をかすめるように、白い鳥が一羽、飛び立っていく。

 続けて、茂みから兎のような小動物が跳ねて逃げていくのが見えた。


(違う。これは“幻”じゃない。確実に、どこかに存在している場所だ)


 肌を撫でる風。木々の葉が揺れる音。

 足裏に伝わる土の感触すら、現実そのものだった。


(先生が“意図的に”ここへ移動させた?)


「ギルバート様ーっ! ここどこですかー!? どうすればいいんですかーっ!?」


 声を張り上げてみたものの、返ってきたのは――風の音だけだった。


 私の声は、あっけなく森の中へと流されていく。

 当然ながら、返事なんてあるわけもない。


(まぁ……聞いちゃうの、ある意味ズルだもんね)、

(とはいえ、ぜんっぜん意図が読めないんだけど……なにこれ?)


 誰かに指示を仰ぎたくなる気持ちを押し込みながら、首をひねりつつも、立ち止まっているわけにもいかない。


「……とりあえず、進もっかな」


 私は周囲に注意を払いながら、

 ゆっくりと、しかし確実に前へと歩みを進めた。


 しばらく歩いていると、周囲の景色に少しずつ変化が現れ始めた。


 進んでいるのは、たしかに“森の中心”のはず。

 なのに、草木の密度は減っていき、代わりに、むき出しの地面が目立つようになってくる。


 足元を見やると、土は乾き、ひび割れている。草すらろくに生えていない。

 なんとなく嫌な予感がして、私は足を止め、静かに耳を澄ませた。


 鳥の鳴き声もしない。魔獣モンスターの気配はない。

 さらに数歩、慎重に歩を進める。


 すると土だけの景色に、ぽっかりと広がる空間が現れた。

 そこには、森とはあまりにも不釣り合いな陥没した地形“クレーター”が出現した。


 その中央――


 地面に半ば斜めに埋もれるようにして、装甲めいた黒い人型の機械――魔造工兵ゴーレムが無言で佇んでいた。


 全身を覆うのは、漆黒の金属装甲。

 つやのないその質感は、焼き締めた鋼のように光を吸い込み、どこか冷たく、重々しい。

 全体のシルエットは、まるで“要塞”を圧縮したような異様な迫力をまとっていた。


(なんだか……小さな、黒いお城みたい。昔見た変形ロボみたいな)


 顔には表情がない。

 仮面のように無機質な面の奥に、目だけが魔石でかたどられている。


(はは〜ん、そういうことか。最後の相手はこいつってわけね。)


 あれはおそらく、ストラトス先生の魔造工兵ゴーレム

 強化型の試験用だろう。見た目はちょっとイカツイけど


 小さく息が漏れる。


 たぶん、私の“苦手ポイント”をついてくる言わば対美少女カナリアちゃん仕様。

 弱点を克服させて、成長させようって魂胆なわけだ。

 ほんと、教育熱心な先生たちなんだから。


 ――まるでノアみたいに調子に乗ってきたな私。ここで気を引き締めないと。


 ……にしても、ちょっとは凝ってくるかと思ったけど――

 案外、わかりやすいご指導で助かるかもね。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 空中庭園ギルバートレアー迷宮ダンジョン最奥の間。

 魔導円環で浮かぶ観測水晶の中に、ノアとカナリアの姿が映し出されていた。


 水晶の中――

 ノアが振るう風の魔力が、暴風となって迷宮主エビル・ウーズを包み込み、

 第四層の“エレメンタル層”を、竜巻の刃が切り刻んでいく。


 敵の抵抗はある。だが、ノアはもう攻略は済んでいる。と、いわんばかりに

 魔法を繰り出している。


「ノアは予想通りだな。問題なく、迷宮主を踏破するだろう」


 ギルバートが、腕を組んだまま静かに言った。

 その目は、揺るぎのない確信を宿していた。


「だが、今回の目的はそこではない。」


 制御盤の前で、ドワーフの神官が深々とため息をつく。


「……ギルバート殿。本当に、起動させるのか?」


 ストラトスの声音は、珍しく硬かった。

 その視線の先――水晶板に投影されていたのは、意気揚々と準備運動をするカナリアの姿だった。


「気乗りせんのだが。あの娘はまだ、子供だぞ」


 ギルバートは返答もせず、手を動かしながら魔法陣を起動する。

 淡い波紋のような魔力が盤面に広がり、中央に浮かぶ魔眼が、脈打つように静かに明滅を始めた。


「……確かめねばならん。この空中庭園で、カナリアの“力の真偽”を測るには……これしか方法がない」


「だが、“アレ”は……」


「ストラトス。お前が調整したはずだ。“本来の力”の半分も出せない仕様にしてある。そうだろう?」


 ギルバートの声に、わずかに重さが混じる。

 

「マルシスからも報告があがっている。“魔法の影響を受けない可能性がある”……とな。あの子は、間違いなく“特異”だ」


 しばしの沈黙ののち、ストラトスは水晶板を見つめながら、小さく息を吐いた。

 口調はあくまで冷静なまま――だが、その眼差しには、警戒と覚悟が色濃くにじんでいる。


「理解はした。だが――私が“危険”と判断したときは、即座に緊急停止をかけさせていただきますぞ」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 謎のクレーター地帯


 私は軽く準備運動を終えると、すっと息を整えた。


 剣を抜き、静かに構えを取る。


 さっきからアイツの足元に浮かぶ魔法陣と、あの魔造工兵ゴーレムに漂う魔力の流れ――

 どうやら、そろそろ“来る”みたい。

 さてさて、アデル先生のときのゴーレムは正直物足りないくらいだったから、今度は少しくらい楽しませてくれないと困るんだけど?


 ゴゴゴゴ……。


 低く、くぐもった音が大地を這い、周囲の土が静かに揺れ始める。


(……動いた?)


 地中から、鈍く重たい金属音が鳴り響く。

 その中心――半ば地面に埋もれていた“それ”が、ゆっくりと身を起こすように地中から引き上がっていった。


 ぱっと見で、三メートル近くはあるだろうか。

 装甲の厚みも相まって、その姿はまるで“動く建造物”みたいだった。

 森の中に突然、鉄塊の砦が落ちてきたような――そんな異質さがあった。


 魔造工兵ゴーレム

 ストラトス先生が開発した、魔力駆動式の模擬戦闘兵器……のはず。


 ゴーレムは上半身を持ち上げると、長い両腕をぐいと地面に伸ばし、

 杭を打ち込むようにして、大地に“腕”を突き刺した。

 そのまま、少し前傾姿勢のまま、動きを止める。


 まるで地脈と一体化するように、脚部の装甲が変形し始めた。

 両脚は中央で合わさり一本の支柱に変わり、そのままゴリゴリと音を立てて地中へと沈んでいく。


 完全な“固定モード”への移行。

 あれじゃ狙ってくれって言ってるようなものだ。


 その瞬間――

 頭部に埋め込まれた魔石が淡く脈動し、機械的な音声が再生された。


 《起動シークエンス、準備開始。》

 《存在地域の属性濃度、および空気成分より――“女神の大陸”と判定。》

 《地層情報から換算……出撃照射より、約八〇〇年程度経過。》


 《マザーとの交信……失敗。……再送信……失敗。……継続モードへ移行。》


 《ボディ環境チェック、開始。》

 《出力エラー:百分の三〇に強制固定。》

 《ブースト機能……実行試行……失敗。――想定外の改変により、不可と断定。》


 ゴーレムは淡々と状況を読み上げ続けていた。

 その抑揚のない口調が、かえって不気味で……まるで“人の言葉”を機械が真似しているように感じた。


 え、なに……なにこのゴーレム。

 八百年前って、一体何の話?

 ストラトス先生のゴーレムじゃなかったの、こいつ……?


 想像していた“訓練用”とは、どう見ても別物。

 もし本当にそんな昔に造られたものなら――


 言いようのない違和感に、刀を握る手に力が入る。


 《自己修復機能――コード実行中……失敗。》

 《コード認識エラー確認。……再変換、試行……失敗。》


 金属的な音声が、淡々と“異常”を報告していた。

 それでも、ゴーレムの瞳――魔石の眼は、黙ったまま、じわじわと光を強めていく。


(……コード変換失敗?)


 言葉の意味はわかる。けれど、どこか引っかかる。

 魔法世界の用語じゃない。まるで転生する前、あっちの世界のAIプログラムみたいだ。


 胸の奥で、じわりと不安がよぎる。

 ――嫌な予感がする。


 その瞬間、ゴーレムの全身に淡い光が走った。

 装甲の継ぎ目から魔力の粒子があふれ、ひび割れたような光が全身を走る。

 息をのむほどに、出力が上がっていくのがわかった。


 《既存コードでの修復を不可能と判断。新コードの生成を開始》

 《兵器所持の生命体を確認――第1級殲滅対象コードD:該当確率0%》

 《第2級殲滅対象コードH:該当確率100%》


(なに……何なのコイツ。気味が悪い)


 《心拍数の上昇を確認。言語理解による当端末の行動予測を試行中と推察》

 《音声システムのシャットダウン……失敗。……再実行……失敗》


 《大戦時における迎撃シークエンスを開始》


 その瞬間、ゴーレムのボディ内部に刻まれた回路のようなラインが、一斉に蒼白い光を走らせた。

 魔力が爆発的に流れ込み、関節の接合部からは蒸気のような白煙が噴き出す。

 その装甲体が、今まさに戦闘兵器として“覚醒”していくのがわかった。


 《テルヴオルド・ジェミニ。――対象を、排除する》


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