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第104話 迷宮(ダンジョン)攻略④ 迷宮主(ボス)部屋

「手順を説明するね。……私は、知識として覚えてるだけだから。実際の契約魔法は、ノアがやってよね?」


 そう言うと、ノアの顔がぱあっと明るくなった。


「うん、任せて!」


「じゃあ――まずは、自分の“聖印”を魂からこの子に投影するイメージで。そこに属性の魔力をこめて、浮かび上がらせる。ノアの場合は……属性環が“全属性”だから、少し複雑だけど……いける?」


「問題ない」


 ノアは言葉を短く切ると、静かに目を閉じた。

 次の瞬間、彼の胸元に――輝く“聖印”が、ふわりと空中へ浮かび上がっていた。


「……あとは、その聖印をモンスター側が見れば、こちらの意図は伝わるはず。

 契約の意思があるなら、向こうから“契約陣”を出して、応じてくると思う」


 淡々と説明しながらも、私の視線は、小さく震えるモフモフのコウモリに向いていた。


(意志を示す力が……この子に、まだ残ってるなら)


 ノアは小さくしゃがみ込み、小さな体にそっと語りかけた。


「……僕は、君を救いたい。まだ苦しいかもしれないけど――応じてくれるかな?」


 その声は、まるで子守唄のように優しく、あたたかかった。


 ふるふると、小さな体が震える。

「……キュ、モ……」と、かすれた声。


 次の瞬間。


 小さなコウモリの額に、淡い光の紋が浮かび上がった。

 空中に紡がれたそれは、複雑に絡み合う魔法陣。

 残された力をすべて振り絞るようにして――“契約陣”が顕現した。


 同時に、ノアの胸元に浮かぶ“聖印”が、ひときわ強く輝く。

 二つの魔法陣が、空中でぴたりと重なり――

 ……共鳴するように、静かな光を放った。


 陣が重なり、静かな光が満ちたその瞬間


 ーーードクン!


「……ウッ……!」


 ノアが短くうめき声を漏らし、視界を失ったようにふらりと膝をついた。

 そのまま、前のめりに崩れるように倒れこむ。


「ノアっ!?」


 私は駆け寄る。

 全身の力が抜けたようにぐったりしているノアの肩に手をかけようとした、そのとき――


 ノアが、震える腕を持ち上げ、私に手のひらを向けて差し出した。


「……だいじょうぶ、だから……」


 その顔にはまだ青さが残っていたけれど、

 瞳だけはまっすぐに、決して揺らいでいなかった。


 ノアは深く息を吐いたあと、ゆっくりと顔を上げた。


「……一瞬、この子の意識が、僕の中に入ってきた」


 その声はかすかに震えていたけれど、はっきりとした響きを持っていた。


「どうやら――ここに来るまでに、何か大きな呪いに触れたらしい。モンスター特有の呪いみたいでじわじわと生命力を奪われてたんだ」


 私は息をのむ。

 やっぱり、ただの“傷”じゃなかった。


「でも……たぶん、僕と契約を結んだことで、この子が“モンスター”としてじゃなく、“人間の一部”として作用し解呪されたんだとおもう。もう僕も問題ないよ」


 意識を失いかけていたコウモリの瞳が、ぱっと見開かれた。

 そして真っ直ぐに、ノアを見つめる。


「……これで、もう大丈夫だよ」


 ノアの声に応えるように、コウモリは嬉しげに羽を広げ、明るい声で鳴いた。


「キュモッ!」


 そのまま、宙をくるりと舞うように一周すると、

 ふわりとノアの肩へ降り立つ。


 小さな体がすり寄るように、ノアの頬へ頭をこつんとこすりつけた。


「キュモッ、キュモモ~!」


 さっきまでの弱々しい声とはまるで別人――いや、こぼ場合、別羽べつばだった。とでも言おうか。声音は元気と喜びに満ち、すっかりノアに甘えている様子だった。


 ノアは少し頬を赤らめながらも、やさしくその小さな背を撫でる。


「……ほんとに、懐いちゃったな」


 私は刀を軽く握り直し、肩をすくめた。

(テイム契約は“従属”の証でもある。……罠の心配は、取り越し苦労だったな)


「名前は……とりあえず“キュモ”でいいかな。ここを出てから、ゆっくり決めよう」

 ノアがそう微笑むと、キュモは嬉しそうに羽をぱたぱたと鳴らした。


 想定外のこともあったけど――先へ進もう。

 さーて、一体どの道を行こうか。


 迷宮ダンジョンは複雑さを増し、分かれ道や迂回路も多い。

 それに、いかにも“罠っぽい”扉もちらほらと目につく。


 ……そんな時だった。


 次の瞬間、キュモがすいっと先頭に飛び出した。

 まるで「任せて」とでも言うように、軽やかに迷路のような通路を進んでいく。


 私とノアがその後を追いかけると、不思議なことにモンスターどころか気配さえまったくない。

 むしろ、すれ違うように魔物の群れが別の通路へと移動していき、私たちの進む道は、驚くほど静かだった。


「……まさか、迷宮ダンジョン内の構造を把握してるの?」


 思わずそう呟くと、ノアは肩にとまった小さな仲間を見て笑った。


「頼れるガイドだね。……ほんと、助かるよ」


 コウモリの導きに従い進むうち、迷路のように入り組んでいた通路は、次第にまっすぐに伸びていった。

 敵影はなく、ただ足音と水滴の音だけが静かに響く。


「……ほんとに、一度も襲われなかったね」


 ノアが小声で驚きを洩らす。


「ノアと違って、トラップも仕掛けも完璧に見抜いてたしね?」

「それ、言わない約束でしょー!」


 恥ずかしそうにすねたノアに、思わず吹き出してしまった。


 私は、新しく加わった小さな仲間に、そっと声をかける。


「ありがとうね、キュモ」


 肩にとまっていたコウモリは、誇らしげに胸を張るように「キュモモ~」と羽を広げた。

 やがて、迷宮地図ダンジョンマップが示していた最奥へと、私たちはたどり着いた。


 だが、そこにあったのは――私たちの前に、巨大な石扉が二つ、並び立つ。


 古代文字が刻まれた重厚な門。

 魔力が淡く脈動し、閉ざされた空間の奥からは、圧倒的な気配がにじみ出ている。


「……ここが、ボスの部屋?」


 私は無意識に柄を握りしめ、ノアは隣で警戒するようにマップを確認している。


「でも……扉が、二つ?」


 試しに二人で片方の扉を押してみたが――びくともしない。


「……もしかして、同時じゃないとダメなやつ?」

「いっせーのーで、いってみよう」


 声を合わせ、左右の扉に同時に力をこめる。

 すると――


 ずずず……ッ。


 鈍い音とともに、扉がゆっくりと反応し始めた。

 どうやらこの扉、**“同時に、別々の部屋へ入らなければ開かない”**仕組みのようだった。


 なるほど――最終試練のボス部屋は、共闘ではなく個人戦。

 互いの不利をカバーし合うのではなく、

 不利な状況に対してどう対処するかを見ている、ということだろう。


「……間違いない。ここが、ボス部屋だ」


 私はもう一度柄を握りしめ、ノアは深呼吸して、緊張と高揚をないまぜにした笑みを浮かべる。


「行こう、ねえさん」


 そして突然、ノアが挑発するような口調で笑う。


「悪いけど、僕が先にクリアして――お宝ゲットはぜんぶ僕のものってことで、よろしく」


「なっ?!」


 思わず声をあげる私の横で、ノアは得意げにコウモリを撫でる。


「キュモ!」


 ドヤ顔で返事をするその様子に、私は目を細めた。


(……こいつら、さっそく二対一で徒党を組んだな)


 と、肩をすくめつつ刀を握り直す私。

 だが、次の瞬間、にやりと唇の端を吊り上げて――


「私が先にクリアして、誰がこの群れのボスなのか……新入りのキュモにも、わからせてあげないとね?」


「姉さん、こわいよ……!?」


 ノアが青ざめた声でツッコミを入れた横で、

 肩に乗っていたコウモリも小さく震え、「キ、キュモモッ……」と怯えた声を漏らす。


 いつも通りの軽口を交わしながら、私たち双子は互いに顔を見合わせ、

 そして同時に、目の前の扉へと手を伸ばした。


 ──ギィィ……。


 鈍く重い音を立てて、左右の扉がそれぞれゆっくりと開いていく。

 その奥からは、魔力の圧がほのかに滲み出しており、背筋がわずかに震えた。


 さて、鬼が出るか蛇が出るか。

 ……まさか生きているうちに、この言葉を言う日が本当にくるとは――

 そんな事を思い浮かべながら、一歩、足を踏み入れる。


 ……ん?


 行き止まり。

 ただの、がらんとした石の小部屋。何もない。


 拍子抜けしかけたそのときだった。

 足元の床が、淡く光を帯びはじめる。


 魔法? いや、これは……


「転移陣……!」


 即座に察したときには、すでに魔力の流れが起動していた。

 目を開けていられないほどの、まばゆい光が部屋全体を包み込む。

 光が収まったとき――そこは、もう別の場所だった。


「……どこ、ここ?」


 そこは、遺跡の内部とは思えない光景が広がっていた。

明日も更新予定です!


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