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第101話 迷宮(ダンジョン)攻略① 初戦闘 VS オークパーティ

戦闘は3人称視点にしています。

「えっ!? ここが……迷宮ダンジョン?」

『そう、モンスターたちの巣窟さ』


 脳に反響するギルバートの声が、まるで天井から降ってくるように響いた。


 ハースベル村の外れにも洞窟型の迷宮ダンジョンの入口はあった。けれど立ち入り禁止になっていて、一度も入ったことはない。

 普段は国や教会が管理していて、危険と判断されれば探索隊や討伐隊が派遣される――まさに“近づいてはいけない場所”。


(……なのに今、私たちはその中に足を踏み入れている)


 どこからともなく漂う気配、背筋に刺さるような視線、ぞくりとするほど生々しい殺気。……どうやら、ここは本物らしい。


『さて、私は最奥で待つ。授業の内容をちゃんと覚えていれば、攻略は難しくはないはずだ。では、またな』


 その声が消えると、辺りには再び静寂が落ちた。

 ノア、初めてで怖がってないかな……?心配になって隣を振り向くと――


「やっぱり、お宝とかあるのかなぁ。楽しみ~!」


 ノアが目を輝かせていた。怖がるどころか、ワクワクでいっぱいみたいだった。


 いやいや、怖がるとこでしょ……ってツッコミかけたけど――


(……むふふ、実は私もちょっと楽しみなんだよね。グフフ……!)


 自然と口元がゆるんでしまう。


 ──その頃。


 最奥の部屋、水晶を見やりながら二人を観察していた賢者ギルバートは、小さくため息をついた。


「二人とも……不適にニヤついておる。着地の際、頭でも打ったかの?」




 ノアの腰に巻いたポーチが一瞬輝き、一枚の羊皮紙がふわりと飛び出した。

 うっすらと光を帯びてノアの手元に舞い落ちる。淡い魔法文字が封のように表面を覆っていた。


 ノアがおそるおそる触れ、魔力を込める。


 ぱらっと弾けた魔法文字は星の欠片のように宙に散り、やがて消えていった。

 中身が姿をあらわす。


「これ……なんだろ? 真っさらなのに、青い点がふたつ……? ほかは全部、もやがかかってる」


 ふっ……やれやれ、これだから素人は困るんだよね。

 ちょっとカッコつけたい気分になって、私はわざと顎を上げた。


「これはきっと――迷宮地図ダンジョンマップだよ。青い点は私たち。もやがかってるところは“未踏破区域”。つまり、まだ足を踏み入れていない場所だね」


「おお! ねえさんも初めてなのに、なんかベテラン冒険者みたい!」


 ノアが輝いた目で言うので、「ほ、本で見たことあったから」と言って思わず咳払いでごまかした。


 その時、地図の表面に赤い点が二つ、じわりと浮かび上がった。

 しかも、それが明らかにこちらに向かって――近づいてくる。


 通路の奥から、肌を刺すような殺気と冷たい視線。

 それが確かに、“倒すべき存在”の到来を告げていた。


 ノアが剣を構え、鋭く息を吐く。

「……姉さん」


「わかってる」

 私も刀を抜き放ち、両足をしっかりと石床に踏み込む。

 高鳴る鼓動が、戦いの始まりを告げていた。


「何ダ……女ノ匂イ、ダト 思ッタラ……マダガキ ジャネェカ」

「雄ガキノ方ハ、スリ潰シテ――鍋ノ具材ニスルゾォ!」


 通路の奥から、重々しい二つの足音が響く。

 現れたのは巨躯のオーク。


 一体は岩をも粉砕しそうな巨大な棍棒を肩に担ぎ、獣じみた咆哮を上げる。

 もう一体は、骨ばった腕に湾曲した剣を握りしめた痩せ型の剣士。

 ぎらついた眼光が、真っ直ぐこちらを射抜いていた。


 石畳を震わせるような重圧感と、肌を切り裂くような殺気。

 ――“最初の敵”にして、容赦はなしない。


「雌ガキハ……殺スナヨォ!」


 その瞬間、私とノアは一瞬で戦闘態勢に入った。

 巨躯のオークが獣じみた唸りを上げ、こん棒を振りかざしながら突進してくる。


「来るっ!」


 ノアが即座に詠唱を走らせ、足元から土が隆起。

 分厚い壁が轟音とともに立ち上がり、私たちの前に障壁を築いた。


 ――ドンッ!!


 跳びかかってきたオークの顎に、勢いのまま魔法の土壁に直撃する。


「ぐおっ……!」


 鈍い音とともに巨体がよろめき、意識が飛びかけるように白目がむく。


 だが――。


「オラァッ!」


 怒号とともに、オークは力任せにこん棒を振り下ろした。


 ――ドゴンッ!!


 土壁が粉々に砕け、破片が飛び散る。


(ノアの壁を砕いた……! ただの雑魚じゃないってわけね!)


 私は刀の柄を強く握り直した。


 石片が四方に飛び散り、辺りの視界を一瞬覆う。

 その影に紛れて、カナリアは一気に駆け抜けた。


 巨躯のオークの死角へと回り込み、刀を抜き放つ。


「はあっ!」


 横一閃――首を跳ね飛ばさんと鋭い軌跡を描く。

 刃が肉を裂き、血煙が舞い上がる――かに見えた、その瞬間。


 ――ガキィィンッ!!


 鋼と鋼が激突する甲高い音が響き渡った。

 火花の向こうに、ぎらついた瞳。


「俺ヲ……忘レテナイカ」


 細身のオーク剣士が、曲刀を振り抜きながらカナリアの刃を受け止めた。


 巨躯の影に潜み、まるで待ち伏せしていたかのように的確な迎撃だった。


「ガキノ腕力ダ……コノママ 受ケ流シテ 鳩尾ミゾオチニ入レテ……気絶サセテ……ウヘヘッ」


 舌なめずりをしながら力を込めるオーク剣士。

 だが――鍔迫つばぜり合いの最中、その顔がみるみる歪んでいった。


 受け流してやるつもりだった。だが刃同士の支点が全くずらせない。

 いや、それどころか――カナリアの剣圧に押し込まれ、曲刀の逆刃がじりじりと自らの首筋へと食い込んでいく。


「グっ……ナ、何ダ、コノ チカラ……!」


 視線が交錯した刹那、カナリアの瞳は怒りも声もなく――ただ自分の首を狙う無心の色。

 その“結果を前提にした眼差し”に、オーク剣士の背筋が凍りついた。


「ヒ、ヒイイィィ……!」


 恐怖と混乱に満ちた叫びも虚しく、限界は唐突に訪れた。


 ――バキィィィンッ!


 甲高い破砕音とともに曲刀が折れ飛ぶ。

 その瞬間、解き放たれた刃が横一閃に振り抜かれ――オーク剣士の首を、鮮烈に跳ね飛ばした。


 血煙が宙を舞い、細身の影は石床に崩れ落ちた。


「ナ、ナンダト……!」


 仲間の首が宙を舞った光景に、巨躯のオークが動揺し、こん棒を取り落としそうになる。


 その瞬間――。


「俺を……忘れてないか」


 低く響いたノアの声。空気が一変し、冷気があたりを覆った。


 詠唱はない。ただ、指先に宿した魔力が瞬時に形を取る。


 ――ズドンッ!!


 無詠唱の氷槍アイシクルランスが矢のごとく放たれる。

 鋭い氷の槍が巨躯オークの脳天を貫き、もう1本は心臓を串刺しした。

 巨体がびくりと痙攣し、やがて膝を折り、崩れ落ちた。


「……獣型や亜人族は“脳”と“心臓”を狙え、だよね」


 淡々と呟くその声に、普段のノアとは違う冷徹さが宿っていた。


「姉さん、最後のコイツはどうする?」


「ふーん……潜伏の魔法を使ってると、地図に表示されないんだね」



 そう告げた瞬間、先ほどの一味と思しき暗殺者アサシン風のオークが暗闇から姿をあらわした。

 二人に一矢報いようと、短刀を振り下ろさんとしたその瞬間――。


 双子の鋭い視線が、同時に突き刺さる。


「……ッ!」


 息を呑んだオークの全身がびくりと硬直した。

 短刀を振り下ろすどころか、握る手すら震え出す。


「ウ、ウグアァァァァ!」


 悲鳴にも似た叫びをあげ、オークは踵を返す。

 恐怖に駆られるように通路を駆け抜け、闇の奥へと姿を消していった。


 ノアはすぐに片手を掲げ、氷槍を浮かべる。


「追う? 今なら仕留められるよ」


 だがカナリアはその腕をすっと下ろさせ、首を横に振った。


「いいよ。あいつは、もう戦意を失った。ただの獣と同じ。放っておこう」


 ノアは一瞬迷ったが、やがて氷槍を霧散させる。


 グルルルル――


 周囲の闇の奥から、無数の赤く光る視線を感じ取った。

 その気配に、ノアが小さく呟く。


「……魔狼だ。たくさんいる」


 確かに複数の気配がこちらを窺っている。だが、群れは襲いかかってこない。

 ――どうやら、実力の差を理解しているらしい。


 となると狙いは……背後で倒れたオークたちかな。

 悲しいけれど、弱肉強食はどこの世界でも共通の掟らしい。


「……とりあえず、マッピ――いや、地図を埋めながら進もうか」

「うん!」


 背後から聞こえてくるのは、肉が裂け、骨が砕かれる生々しい狼たちの宴。

 私とノアは顔を見合わせ、意識して振り返らないようにした。


 迷宮ダンジョンでの初戦闘の高鳴る鼓動の余韻を残したまま、二人は迷宮の奥深くへと潜っていった。

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