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07 真犯人

「……おい。笑うな。これは、決して笑い事ではないぞ。それに、姉上の命を救うとはなんと不穏な……一体何の話なんだ」


 興奮して涙目になってしまっているウィリアムから、半目でじろりと睨まれて、私は慌てて口に手を置いた。


 ……しまった。


 もう既に不幸ではなくはっきりと自分の意志を私に訴えたウィリアムが、あまりに可愛くて笑ってしまったけれど、これは現状ではないIFがあることを知っている、私にしかわからないことだもの。


 自分のことを笑われて、馬鹿にされたと思ってしまっても、無理はない。


「ウィリアム様。笑ってしまって、ごめんなさい……これは、その……あの、ええとですね……どう言えば良いか」


 ウィリアムを可愛いと思ったからつい笑ってしまったなどと正直に言えず、なんと言って誤魔化そうかしらと悩んでいたら、彼は一国を背負う王太子らしく腕を組んで高圧的に言った。


「言いたいことは、はっきりと言え。お前は本当に、必要なことは何も言わない。あのメイドについてもだ! あの女とくっつけようという魂胆だったというのは、見え見えで理解しているが、俺には全くその気はない。本人の許可も得ずにあのようなことを……! 今後は、一切ないようにしてくれ」


 やっぱり、ウィリアムが怒っていると、黒猫がシャーッと威嚇しているように見える……どうしてかしら。あの纏まらないくせっ毛が、なめらかな猫の毛のように、あまりに手触りが良すぎてしまうせいかしら。


 ウィリアムが纏う空気が、人慣れのしない、孤独な野良猫のようだからかもしれない。


「はい。ウィリアム様……もちろんですわ」


 面白くなさそうな表情で腕を組むウィリアムに、私は微笑んで頷いた。


 今年晴れて成人となる王太子ウィリアムは、母が亡くなってから、婚約者モニカ以外の人とは、ろくに話したことがない。


 そんな悪役令嬢モニカからは、終わりなく蔑むような言葉を投げつけられていた。


 そして、中身がすっかりと変わり一人だけ事務的ではない日常会話の出来る私一人だけを、特別視をしてしまうのも無理のないことだわ。


 ウィリアムだってこれからいろんな人と話して世間を知れば、恋愛相手の選択を間違ったと思い直すこともあるだろうし……。


 その時、不意にチクンと胸が痛んだ気がして、私は両手で慌てて押さえた。


 何かしら……? 心疾患の初期症状かしら……?


 病気は早期発見が大事だし、医者に早めに相談するべきよね。


 私はウィリアムを残して死ぬ訳には、いかないのだから。


「もう一度聞くが、姉上に命の危険があるとは、一体何がどうなってそうなるのだ。王位継承権を持つ俺や弟のジョセフならば、暗殺の危険があると言われても、まだ理解も出来るだろうが、それを通り越して姉上が狙われてしまうなど……正直に言えば、俺にはあまり考えにくいのだが」


 流石は薄幸であること以外は弱点がないと言っても過言ではない、優秀な王子様ウィリアム。


 頭脳派王子様ヒーローらしく洞察力が高く誰からも教えられずとも、自分の立場王家の状況なども理解をしているらしい。


 ……そう。


 ウィリアムの言う通り、エレイン様は現王の長子ではあるものの、女性なのでシュレジエン王国の古くからの伝統で王位継承権を持たれない。


 だから、彼女の血を引いた子が継承権を持つこともない。王女は政略結婚をする道具としか、見られていない状況なのだ。


 しかも、エレイン様は何か政治的な思惑なのか本人の希望なのかは、私にはわからないものの、結婚適齢期に既に突入しているというのに、これまでに婚約者が居たことがない。


 それは、王族の血を引く王女だというのに、現在は、はっきりとした後ろ盾がないということを意味していた。


「実は……近い未来、エレイン様はダスレイン大臣にいくつかの罪を着せられて、暗殺されてしまうのです。それは、彼女を犯人に仕立てるためのもので、王位継承権は関係ありません」


 その時に、ウィリアムは目を大きく見開き『信じられない』と言わんばかりの表情で口に手を当てた。


「なんという……! ダスレイン大臣……俺には良い顔を見せておいて……姉上を暗殺するだと……?」


 ここでウィリアムが裏切られた驚きの表情を見せるのも、小説を何度も通しで読んだ熱心な読者の私には理解出来る。


 ダスレイン大臣は王族の濃い血統を受け継ぐ公爵位にあり、たとえ順位は低くとも継承権を持っている。好々爺のような外見を持ち、物腰は柔和で優しそう。権力欲なども見せることはない。


 政治的な派閥などにも近寄らず敵を作るようなタイプには到底見えないけれど、相当に腹黒く、裏では酷いことばかりをしていた。


 そして、彼は生まれてから不遇の身にあった王太子ウィリアムには、同情をする好意的な態度を見せていた。


 だからこそ、ウィリアムは物語序盤で、致命的なミスを犯してしまうこことなる。


 幽閉されている自分には優しく、現王たちのやりようを批判したダスレイン大臣の甘い言葉を信じて、悪役令嬢モニカを取り巻きに置く姉エレインが自分を虐げている主犯だと思い込んでしまうのだ。


 そして……エレインが暗殺されてしまった時も『これまで積み重ねた悪事が、自分の身に返って来ただけだろう』と、自らを守ろうとしてくれた亡き姉を嘲るような事を口にしてしまう。


 そして……真実を知ったウィリアムが深く後悔するのは、まだまだ先の話だった。


 いえいえ。そんな未来を知っている私がここに居るからには、そんな流れにはこの先は絶対にならないけれど。

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