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36 拘束(Side Candice)

 えー! やだ……もう、赤い夕日も良い効果で、凄く感動的なんだけど!!


 さすが『君と見る夕焼け』の世界……舞台設定わかってるぅ。


 ウィリアムから頼まれて、彼にモニカの求婚(プロポーズ)指導を引き受けていた私は、二人が寄り添う姿を見て感動していた。


 本来ならモニカが居る位置には私、キャンディスが居たはずだということも気にならない。


 何故かというと『君と見る夕焼け』のヒーローウィリアムは、誠実で一途な男……と言えば、聞こえは良いかもしれないけれど、とにかく一度人を好きになってしまうと、猪突猛進になってしまうのだ。


 フィクションとして楽しむ分は良い。だって、他人事だとキュンキュンしているだけで終われるもの。


 けれど、実在の人物として彼の行動を見ると、ウィリアムの容姿が異常に良いことで加点要素があったとしても、自分にあの温度感の執着を向けられるのはお互いに好きという両想い要素があってギリギリ耐えられる程度かなと思う。


 つまり、本来であれば結ばれるはずだった王子様、ウィリアムに対して未練は一ミリもないと言って良い。モニカである山下さんは私の大事な先輩だし……私の恋の相手は、サブヒーローの誰かにしようと思うの。


 キャンディスはヒロイン要素が物凄く強いヒロインなので、性格も良ければ心ばえも良い。しかも、容姿が良いとなれば恋愛市場で無双することは間違いないのよ。


 すっごく嬉しい。それって、私のことだもの。ヒロインだけあって外見だけは、異常に褒められる。


 サブヒーローは二人居て、どちらもとっても格好良い。ウィリアム一途なキャンディスは振り向きもしないはずだけれど、今の私なら全然振り向ける。


 はー……早く私も恋したいなー……せっかく、大好きな小説の中に生まれ変わったもの。


 あ! ウィリアム……求婚した後はモニカを抱きしめろって言っておいたのに、感極まって泣いてしまったから、部屋に戻ろうと声を掛けて肩を抱いて歩き始めた。


 そんな二人の後ろ姿を見て、なんだかときめいた……私も早く恋しよう!


 パッと背後を振り向いたら、ツインテールで無表情の女の子が私をじっと見つめていた……まるで、何か妙なことをしでかさないか見張っているかのようだった。


「き……キッテン……こんにちは」


 しまった。時間的にはこんばんはだったかもしれない。


「キャンディス様。王太子様をこのように隠し見るなど、牢屋に入れられてもおかしくありません。今後はしないようにお願いします」


 あわあわと慌てていた私に、可愛らしいメイド服を着た彼女は目を細めて警告をした。


「え」


 そして、キッテンは自分の役目は終えたとばかりにそそくさと去って行った。


 なっ……何。あの幼い女の子がウィリアムとエレインを警護するために雇われたオブライエン一家の一人であることは知っているけれど、あんな風に言わなくても良いじゃないの。


 私がウィリアムとモニカを害するなんて、ありえないわよ!


 二人が居ないと私は、離宮に侵入しようとした罪で処罰されるところだったのよ。いわば命の恩人よ。それに、モニカである山下さんは私にとってとても大事な人なのだ。


「もーっ……あんな言い方しなくても良いのに……」


 ぶつぶつ呟きつつ、私が離宮から出れば、もう赤い夕日は沈み夜が近付いていた。


 これで、『君と見る夕焼け』は、実質ハッピーエンドよ。まだまだ苦難は続くはずだけれど、ラスボスであるダスレイン大臣は失脚し、もう悪巧みは出来そうにない。


 あとは王や王妃にあるウィリアムへの誤解を解いてしまえば、誰もが喜ぶような大団円になるはず……それは、時間を掛けなければいけないだろうけれど、姉エレインが生きて居るし有能なモニカが上手くやるはずだわ。


 時間の問題よ。


「……すみません。あの……お名前を教えてもらって良いですか?」


「え? あ……」


 そこに居たのは、サブヒーローのデヴィッド・グラハムだった。黒髪に赤い目。腰には魔石が付いた剣。それは、彼が魔剣士であることを示している。


 デヴィットは王立騎士団に副団長として所属しているのだけど、たまに城に訪れる描写が確かにあったかもしれない……。


 やっ……やだ。もうっ……もしかして、ここで私はデヴィッドと恋に落ちるの……? 事前に言ってよ。鏡も見ずに離宮に出て来てしまったじゃない。


 これで、私も……異世界で恋愛出来るのね……!


「? あの」


 思わぬ出会いに驚き黙ったままで彼のことをじっと見つめていると、デヴィッドは不思議そうに首を傾げた。


 実物も格好良すぎて……これは、好きになってしまうわ。


 私の運命の人は、デヴィッドだったのね!


「……あ! キャンディス・ウィリアムズです……この城で女官として働いていて……」


 私は口を押さえて、出来るだけ可愛く答えた。大丈夫よ。可愛いは正義のはず。


 けれど、先ほどまで好意的に見えたデヴィッドは私を見て、不審げな目線を向けた。


「怪しいですね。先ほど、王太子殿下の離宮の方向から来たように思いますし……申し訳ありませんが、身柄を拘束させていただきます」


「はい?」


 私は冷たく言い放たれたデヴィッドの言葉を聞いて耳を疑った。なっ……何? 私ただ、廊下を歩いて来ただけなんだけど……!!


「城で王族に仕える女官のはずなのに、礼儀作法も出来ていないし、初対面の僕に対する態度も気安すぎる。あまりにも怪しいので……」


 近付いたデヴィッドは、驚いて固まった私の両手を手早く縄で縛り拘束した。


「えっ……私、何もしていません!」


「尋問室でゆっくりお話しをお聞きします」


 うっ、嘘でしょう……尋問室で芽生える恋なんて、聞いたことないよぉ~!! 世界を探せばあるかもしれないけど、主流ではないのは確実だよ~!!


 デヴィッド、こんなキャラだっけ? ううん。私がキャンディスじゃないから!? 確かに、キャンディスって礼儀作法も完璧で女官長からの覚えもめでたかったはず!


 やっ……やましたさっ……違う、今はモニカだったー!!! お願い、助けて~!!!


 涙目の私は縄で縛られて尋問室まで連れて行かれながら、今ウィリアムとラブラブなはずのモニカを心の中で精一杯呼んだ。




こちらの作品『仕事の出来る悪役令嬢、薄幸王子様を幸せにアップグレードしておきました。』が、コミカライズされることになりました!

詳細は後日で、また順次情報解禁になります!

詳しくは活動報告にて。

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