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19 暗殺一家

 結局、私たちは姉エレインと会ってから、すぐに離宮へと戻ることにした。


 ウィリアムにとっては公的な予定のない、本当に久しぶりな自由な外出時間だったのだけれど、私が二度ほど号泣してしまうという事態があったせいか、彼自身が疲れたから帰ろうと言い出して帰ることにしたのだ。


 ウィリアムが、言い出した……というより『言ってくれた』が、正しいのかもしれない。


 ウィリアムは知能指数が高くて、洞察力に長けている。それに、その人に気が付かせぬように優しさを発揮するのも、優秀な姉エレインに良く似ていた。


 ことさらに自分の行為をアピールすることなく、人を真に思うウィリアムの優しさも彼女譲りのようだ。


「まあ、姉上の件は、これで一安心だな……暗殺されるかもしれないと思って居れば、あの人なら並大抵の方法では暗殺されまい」


「そうですね……ご本人にこうして知らせることが出来るとは、私も思っておりませんでした」


 ソファに深く腰掛けていたウィリアムは私の淹れた紅茶を飲んで、ほっと安心したように頭に手を置いて天を仰いでいた。


 エレインがキャンディスとウィリアムを苦しめている黒幕だと、物語序盤では思われてしまっていたのは、取り巻きである悪役令嬢モニカを操ってウィリアムを虐めているように周囲から見えていたせいだ。


 主役二人を勘違いさせるに十分な理由が、そこには揃いすぎていた。


 それに、エレインだって母ともう一人の弟のことを考えれば、表向きウィリアムを庇うことが出来なかった。彼女が考えなしに庇ってしまえばウィリアムを良く思わない母の意向で弟の処遇が、より悪くなってしまう可能性だってあった。


 誤解されていると知りながら、エレインは嫌な気持ちを抱えたまま、じりじりと我慢するしかなかったに違いない。


 邪魔者エレインを殺し内輪で争うこととなる王族から王位を簒奪しようと動くダスレイン大臣が、そこからも暗躍し王家同士を争わせ、一応は継承権を持つ公爵である自分が王になるつもりだ。


 ……そんな彼が、少々上手く行かないからと、エレイン暗殺を簡単に諦めるだろうか。


「……エレイン様自身がダスレイン大臣に警戒し、そして、彼女がより身辺の警護を固めれば安心……ではあるのですが、私にはひとつだけ……懸念点があります。ウィリアム様」


「何。懸念点があるだと……?」


 ウィリアムは私の言葉を聞いて、不思議そうに首を傾げていた。


「ええ。シュレジエン王国には、王家をも暗殺することが出来る、有名な暗殺一家が居ます」


「ああ……そういえば……俺も、この前に、本で読んだな。なんでも、世界でも有名な暗殺一家だとか」


 暗殺者ファミリーオブライエン一家。


 代々暗殺を生業とする彼らは法外な金品を要求されるけれど、その道では名を知られた優秀な暗殺者ファミリー。


 生ける伝説になってしまうほどの、非常に優秀な暗殺者なのだ。


 この時点で起こる……エレイン暗殺には、オブライエン一家は使われていないはず。


 けれど、警戒心を強くした彼女に業を煮やした、ダスレイン大臣がオブライエン一家にエレイン暗殺を頼まないとは言い切れない。


 それに……小説を読み未来を知る私は、知っているのだ。


 ダスレイン大臣はオブライエン一家を雇って、物語中盤には頼もしい味方を増やし着々と力を付けてきた王太子ウィリアムを暗殺しようと企てる。


 キャンディスとウィリアムは何人かの味方を失いつつも、オブライエン一家を撃退することになるのだけど、それでもあまりに犠牲が多すぎた……とても、悲しい出来事だったのだ。


 いえ。私がそれも防いでしまうのだけれど。


「ええ。私たちから話を聞いたエレイン様は、おそらく暗殺を防ぐために、警護を増やされると思います。ですが、オブライエン一家を雇われたら、それを防ぐことは困難でしょう」


「ああ……それはそうだろうが、オブライエン一家は非常に気難しくて、依頼人を選ぶとは聞いているが」


 ウィリアムは私はダスレイン大臣がオブライエン一家を雇うことが出来るという前提で話しているのが、理解することが出来ないらしい。


 ……しかし、私はここではないIFストーリーの中で、ダスレイン大臣が、生半可な条件では動かぬ彼らを担ぎ出せたことを知っている。


「ウィリアム様。ダスレイン大臣は、非常に狡猾で弱い振りも出来ますし、人心掌握術に長けています。難しいからと、彼が出来ないと決めつける訳にはいきません」


「それは……確かに、モニカの言う通りだ……では、俺たちが先んじて彼らを雇えば良いのではないか? そうなれば、ダスレイン大臣は彼らを雇えまい。雇い主の敵になるのだからな。利益相反というやつだ」


 私はウィリアムの言葉を聞いて、思わずポカンとした。


 暗殺一家を自分が雇うなんて考えたこともなかったけれど、ウィリアムの言う通り、彼らがこちらを先に雇ってしまえば、雇われることはないだろう。


 けれど……。


「……ですが、あの……ダスレイン大臣を暗殺してしまうと……その、あまり良くないかと」


 ダスレイン大臣は公爵位にあり、大きな権力を振るうことの出来る大臣なのだ。


 そんな彼を、暗殺した……暗殺してしまった過去が何かのきっかけで露見してしまえば、いずれ王になるだろうウィリアムが失脚するほどの大きなマイナス要因になってしまう。


「いやいや……暗殺一家だとて、暗殺だけを請け負っている訳ではあるまい。俺たちの警護を頼めば良いのだ。厳重に警備された王族を暗殺するよりも、彼らには楽な依頼になるのではないか?」


「……え? あ。エレイン様や私たちの警護を、オブライエン一家が……? それが出来れば、絶対に頼もしいと思います……けど……」


 ウィリアムは私などには到底思いつかないような素晴らしい案を、こうして提案してくれた。流石、出来すぎてしまうヒーローだわ。


 ……そうよ。


 敵の味方になるはずの強敵を、先にこちら側に引き込んでおけば……?


 もし、オブライエン一家が味方になってくれるのならば、彼らほど心強い味方はいないと言っても過言ではないわよ……。


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