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18 姉の真意

 感情が昂ぶり過ぎて泣いてしまっていたけれど、時間をかけてようやく落ち着けた私たち三人は、とりあえず涙を拭き、エレインに促されるままに応接用のソファへと腰掛けることにした。


 王族の姫の部屋は、信じられないほどに豪華だった……本来ならば、王太子ウィリアムだって、こんな部屋で日々を過ごしていただろうと思うと心が痛む。


「姉上。信じられないと思いますが……ダスレイン大臣が、黒幕なのです。王位簒奪を」


 ウィリアムはこれは真っ先に伝えねばと思っていたのか、エレインにダスレイン大臣のことを伝えた。


 私もこれは早めに伝えねばと思っていたけれど、エレインは非常に警戒心が強い。下手に伝えると、私が遠ざけられる可能性もあった。


 しかし、愛する弟ウィリアムの言葉となれば、用心深いエレインも話が違ってくるだろう。


「え。ダスレイン公爵が……黒幕ですって? 王家を陥れようとしても、あの人の継承権はかなり下の方でしょう? 王位簒奪となると、かなりの人数を殺すことになってしまうけれど……ああ」


 エレインはそう言って非常に驚いた表情を見せていたけれど、私たちが何も言わずに大きく頷いたのを見てから、頭を手で押さえて息をついた。


 切り替えが早い。


 これまでにそんなことを考えもしなかったであろうエレインは、私たち二人が口を揃えてそう言うならば、確率が高いのだと踏んだろう。


 沈着冷静で頭脳明晰。自分を律し遠い先にある目的のためには、自分の欲求などは抑えることが出来る。


 この方が男子ならばと誰もが思い、エレインだってそういう言葉を、これまでに嫌になるくらい聞いていたはずだ。


 けれど、シュレジエン王国は女王が許されない。


 ……ダスレイン大臣が、ウィリアムを閉じ込めて、王族ならびに自分より高い継承権を持つ者を殺そうと計画していることを、エレインはここで知った。


 彼女が油断して暗殺される確率は、ここで減らすことが出来る。


 ダスレイン大臣は彼女も欺けるほどに、上手くやっていた。人畜無害な演技で、なかなか尻尾を握らせなかった。


 ……けれど、私たちはここで真実を伝えることが出来た。


「そうね。もし、そうだったとすれば、理解出来ることが、たくさんあるわね……ああ。そうなの。あの人が私や家族を、誤解をさせて酷く苦しめたのね……」


 エレインは無表情のまま、目を細めてそう言った。


 誰が自分の敵であるか不確定であれば、彼女にも出来ることが少なかったはずだ。


 けれど、今は敵が誰であるか、特定出来た。


「あの……エレイン様。貴女には、暗殺の危険があります。というのも、王族に亀裂を入れるためです。それに、不遇にあったウィリアム様をどうにかして庇おうとされていることも、おそらく……」


 ダスレイン大臣は自分の思い通りにはならないエレインに、それまでの罪をなすりつけて殺した。そして、ウィリアムには、それを理由にすり寄ろうとした。


 自分にとっての邪魔者であるエレインの死を、自分勝手に利用するだけ利用してしまう、とんでもない外道だったのだ。


「ああ。そうね……私さえ排除すれば、ウィリアムを形だけでも守るものが居なくなり、お父様もお母様も、そして、ジョセフだって操作しやすい。ふふふ。そうなのね……まあ。ダスレイン公爵が」


 余裕を持ってお茶を飲んだエレインは、艶やかに微笑み、対面に座っている私たち二人を見た。


「私のことは貴方たち二人は、心配しなくても良いわ。敵が誰かわかれば、私だって対処もしようがあるというもの。貴方たちは仲睦まじい婚約者同士の姿を、城中に振り撒きなさい」


 エレイン側にも何か考えがあるのか、そう言って微笑んだ……聡明な彼女のすることならば間違いないと思うし、そういった思惑に口を挟む権利は私にはない。


 始終見張っていないとハラハラさせてしまう、キャンディスさんとはまったく違うのだ。どっしりと安心感のある言葉だった。


「あの……姉上」


 それまでエレインの様子を窺いつつ、黙っていたウィリアムは、真面目な表情で姉を呼んだ。


「あら。なにかしら? ウィリアム。これからは、モニカと一緒ならば外出しても良いのだから、いつでも遊びにいらっしゃい……本当に都合の良いことに、貴方の婚約者は私に近しい貴族令嬢だから」


 エレインはモニカは自分の取り巻きなのだから、いつ自分の近くに来てもおかしくないと言いたいようだ。


 それに、私同伴での外出のみ許されている弟も、共に来ていてもおかしくないだろうと。


「はい。前々から気になっていたのです。姉上はいつ輿入れをしてもおかしくない年齢です。縁談だって降るようにあるでしょう。けれど、未だに婚約者も決めようとしない……もしかしたら、それは僕を守るためだったのではないですか」


 真摯な眼差しを彼女に向けたウィリアムは、成人年齢を過ぎた王女エレインに婚約者が居ないことを、ずっと気にしていたようだ。


 そして、エレインはふうと息をついた。


「……貴方には、嘘をつきたくないわ。ウィリアム。私の大事な弟だから。けれど、別に気にする必要もないわ。私がしたくてしたことだから……さ。二人とも、そろそろ行きなさい。私はこの後、予定があるの」


 明確な肯定もしなかったけれど、ウィリアムの質問に否定もしなかったエレインは、明るく微笑んで私たちに退室を促した。


 彼女も王女で、遊んで暮らしている訳でもなく、それなりに公務がある。


 ……だから、別に部屋を追い出された訳ではないと、わかっている……けれど。


「だから……お前が泣くなよ」


「……っごめんなさい……」


 呆れたように言ったウィリアムは、パリッと糊の利いた、白いハンカチを差し出した。


 ああ……泣きたいのは彼の方だろうに、私が代わりに泣いてしまった。


 なんて優しいの……エレイン。彼女は本当に、不遇の弟のことを、ずっと心配してくれていた姉だった。


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