普通
「リーダーって……え?」
頭の中に?マークが大量生産された
俺がリーダー?わけがわからない
「えっと……それはなぜですか?」
「別に、儂のカンじゃ」
「勘って……」
「儂はもう老耄じゃ、全盛期のような統率力は、今の儂にはない」
「じゃから、まだまだ若い夜野に頼みたいのじゃ」
「お前には、田村宮のような大柄なやつに立ち向かっていく勇気も、優しい心も持っている」
「どれも、儂にはないものじゃ」
そんなことはない、優しい心なら、俺よりも神奈の方持ってる
それに……
「……まずは、俺に声をかけてもらってありがとうございます」
「でも、俺はリーダーになれる器じゃないです」
そう、俺は器じゃない
普通なやつに、リーダーなんかが務まるわけがない
俺よりも来夢の方がリーダーの素質があると思うし、度胸なら零ちゃんに勝る者はいないと思う
「そうか……」
俺みたいな普通なやつが、リーダーになっていいわけがない
普通なやつは、普通に生きるべきなんだ
「『器じゃない』とお前はさっき言ったが、儂は、そんなことはないと思うぞ」
「なら、貴方の目は相当腐っています」
「こんなことを言うのは、すごく申し訳ないのですが……」
「貴方の人を選ぶ目はおかしい」
「だってそうでしょう?なんでこんなやつにリーダーなんかが務まると思ったんですか?」
「ふっ、笑っちゃいますよ」
「俺は普通でいいんです、普通で」
しばらくの間、沈黙が続いた
少し言いすぎたかなと思いつつ、俺は、視線を神谷さんに向け続けた
「……わかった」
「なら、儂は他の奴をあたる、お前ももう戻ってもいい」
「感謝します、そして幸運を願います」
俺は屋上から立ち去った
よかった
これでよかったんだ
そう、思っていた
目の前に立っていたのは、目に涙を浮かべていた神奈だった
「……なんで、断ったの?」
「聞いてたんだ」
俺は冷たく切り返した
「質問に答えて」
「なにをそんなに怒ってるの?」
煽り
そう、これは恐らく煽りだ
俺が神奈に向ける、初めての煽り
「なんで、断ったの?」
「俺にリーダーなんて務まらないよ」
「だから、なんで?」
俺は質問に答えるつもりはなかった
神奈に話しても関係の無いことだからだ
俺は断りたかったから断った、ただそれだけの理由、これ以上なにもいらないはずだ
なのになぜ、こいつはそこまで深堀してくる?
『断った』それだけの話に、なぜこいつはそこまで付き纏う?
わからない
神奈はなぜ、俺に期待をする?
俺は普通の人間だ
普通の人間がリーダーなんかになれるわけがない、そう思ったから断っただけなのに
なのに、なぜ?
「……ねえ、聞いてる?」
「それ、そんなに重要かな」
「俺は断りたかったから断った、それだけ」
「お前も皆の元に戻れよ、じゃあな」
「ちょっと、まっ……」
俺は神奈の静止を振り切り、俺が帰るべき場所へ帰った
この時から、俺の中の『なにか』が壊れ始めた
その『なにか』がなにかはわからないが
ここが俺の人生の分岐点だった