終わりの始まり
なんでこんなことになっちゃったんだろ
俺は平凡な人間だった
成績も普通、運動も人並み、特別な才能なんかも持ってない、なにもかもが平凡で、普通な人間だった
そんな俺にも、好きな人ができた
一目惚れだった
彼女は、俺が毎日通学に使っていた電車に乗っていた
同じ車両の、同じ席に
そして、彼女は降車する一駅前で席を立っていた
ある時、その娘が痴漢に遭っていた
俺はいても立っても居られなくなり、その娘を引っ張り、次の駅で降りた
そしてすぐに、俺は彼女に謝罪した
「勝手に引っ張ってごめん」「迷惑だったよね」と
しかし、彼女は首を横に振り、「助けてくれてありがとうございます」と俺にお礼の言葉を言った
そして、名前を聞かれた
夜野海星
俺の名は、夜野海星
そして、その娘も名乗った
木谷神奈
彼女の名前は、木谷神奈
痴漢の件が終わり、その翌日
また彼女は同じ車両の同じ席に座っていた
そこから、俺は彼女と会話を始めるようになった
「好きな食べ物は?」「趣味はある?」「学校は楽しい?」みたいな、他愛のない会話だ
俺が乗車する駅から数えて五駅で彼女は降りるため、あまり長い時間会話をすることは出来なかった
だが、俺はそれでも楽しかった
彼女──神奈と話す、これ以上楽しいことはなかった
そして、幸せだった
最初は、お互い苗字で呼びあっていたが、いつしか距離が近くなり、神奈、海星、と名前で呼び合うようになった
ある日、神奈に食事に誘われた
別に習い事とかやっているわけじゃなかったから、すぐに大丈夫と返答し、連絡先を交換した
そして、神奈との食事の日
ショッピングモールで買い物を楽しんだ後、ご飯を食べた
時刻は夜の十時
夜の街を適当にぶらぶらしていたら、偶然、ラブホテルを見つけた
俺はそんなとこに興味はなかったが、雰囲気が雰囲気だったのか、それにあてられたのかはわからないが、なんとなくそんな気分になり、ホテルの中に入った
そこからはもう覚えてない
ただ一つ、忘れられない快楽が身体を襲ったことは覚えてる
そして、目が覚めると
世界は崩壊していた
建物はボロボロに崩れ、あちこちで悲鳴が聞こえる
俺が呆然としていると、神奈が大声で叫んだ
「海星!海星!」
そこで俺の意識ははっきりした
「神奈……」
「これ……なに?」
「わかんない……」
「いた!生存者だ!」
遠くの方で声が聞こえた
その声のしたほうに、俺と神奈は振り向いた
「大丈夫?」
「はい……あの、これは?」
「私達もわかんないの、ひとまず、あのモールに行くよ!あそこなら暫くは持ちこたえられる!」
俺達を助けた?人と一緒に、モールに向かった
彼女の名前は、江川花梨、自衛隊の総長らしい
「あの、人が居ないんですけど……」
神奈が質問した
「人ならいるじゃない、足元に」
そう言われ、俺と神奈は下を向く
「誰もいないですよ……」
「いるじゃない、その灰が、人よ」
「私達は今、亡骸を踏んで走ってるの」
「え……!」
驚きのあまり、声が出なかった
「運が良かったわね、生き残れるなんて」
「あのモールの中なら、人はいる、今二回のフードコートにいると思うから、そこに行って」
「は、はい!」
「わかりました!」
「おい、江川」
また声が聞こえた
「生存者か?」
「神谷特別指揮官!お疲れ様です!」
「はい、この二人が生存者です」
「そうか、ならこの子らも連れて行ってやってくれ、儂はもう少し見て回る」
「えっと、貴方は?」
我慢ならずに質問した
「儂か?儂は神谷茂蔵、ただのしがないジジイじゃよ」
「江川、四人は大変だろうが、頼んだぞ」
「はい!」
江川さんは敬礼した
「えっと、大丈夫?」
江川さんは、神谷さんが連れてきた子達に聞いた
「うん……」
「名前を教えてくれないかな」
「紫乃桃……十三歳……」
「……紫乃霞、同じく十三歳よ」
どうやら双子らしい
「私は江川花梨、好きに呼んでちょうだい」
「俺は夜野海星」
「私は木谷神奈、よろしくね、桃ちゃん、霞ちゃん」
流石神奈だ、こんな状況でも、この子達に心配をかけないように明るく振舞っている
「じゃあ行こっか」
「うん……」
俺達は走りだした
だが、すぐに異変にぶつかった
「痛っ……!」
「霞ちゃん?どうしたの?どこか痛む?」
「……霞、さっき足……怪我してた」
「えっ!?」
「……私も少し、怪我した」
「平気です……これくらい……」
「ダメよ!怪我は早く処置しないと」
「なら、俺が抱っこして連れてってやる」
俺は言った
なんでだろう
俺はそんなキャラじゃなかったはずなのに
「霞ちゃん、夜野さんに」
「海星でいいですよ、すみませんけど、桃ちゃんお願いできます?」
「勿論よ、頑張りましょう、海星」
「はい」
俺達はゆっくり歩いた
霞ちゃんの傷を刺激しないように
「にしても、なんでこんなことになったんですかね」
「さあ……でも……」
「この円盤は気になるわね、UFOかなにかかしら」
「まさか、漫画の世界じゃないですし」
「でも、漫画みたいなこと、起きてるよね」
「……確かにそうだな」
「そういえば、二人はどんな関係なんだ?恋人か?」
「あー……なんて言うんでしょ」
俺は言葉に詰まった
友達にしては距離が近いし、恋人と言うには少し違う気がする
「……セフレ?ですかね」
神奈が言った
まさか神奈がそんなことを言うとは思ってなかったから驚いた
でも、それが一番しっくり来た
セフレ
友達以上恋人未満
うん、しっくりくる
「じゃ、私はもう少し探索を進めるから」
「またね……花梨さん……」
「うん、バイバイ」
江川さんは、俺達とは反対の方向に走っていった
「にしても、そこら中に骨が転がってるね」
「うん……俺達が寝てるときに……なにがあったんだろ……」
「でも……なにも気が付かずに死ねた人は……幸せだと思うよ」か
「え?」
霞ちゃんが、よくわからないことを呟いた
「だって、気づかずに死んだ人は、なんの苦しみもなく死ねたってことでしょ?」
「それは……そうなんだけど……」
「でも……きっと死んじゃった人達も……もう少し生きたかったんじゃないかな……」
「たしかにね…」
「じゃあ夜野さんは、逃げられない、逃げようのない虐待にあっても、同じことを言えるの?」
「え……」
「お母さんには毎日のように身体を叩かれて、お父さんには身体を触られて……それで行為まで求められて……指示に従わないと叩かれるから、従ったらお母さんからビッチだって言われて……また叩かれて……」
「これでも、さっきと同じこと、言える?
霞ちゃんのその発言を聞き、さっきの呟きの意味を理解した
「……ごめん……」
「軽率に意見言っちゃって……」
「別に、もういいよ」
「お母さんもお父さんも、死んじゃったんだから」