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アルとメリアの怪異奇譚  作者: 阿本くま(もちまる/榎本モネ)
事実は流言より奇なるもの
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夢見る女の子③



「いやあ、まさか君たちの方から声をかけてくれるなんてね。嬉しいよ」

「ロッド伯爵、お越しくださりありがとうございます!!こちらをどうぞ!!」

「プラリーヌか!気が効くねメリアちゃん。ありがたくいただくよ」


 できるだけ伯爵の助けを借りたくなかったんだがな。


「それで?か弱い少女達の命がかかっているっていう話だったけど、詳しく教えてもらえるかな?」

「はい!正確にはショックを受けてるのは1人で、もう1人は自分のピンチに全く気がついていない可能性が……」

「待てメリア、俺が話すから…」


 話がとっ散らかりそうだったため、俺から詳しく今回起きている出来事について伯爵に説明することにした。


 少女に起きた異変。

 エクソシストが見つけた悪魔の痕跡。

 中身が入れ替わった少女達に迫る命の危機。

 少女達を救える方法と、そのためにロッド伯爵に仰ぎたい協力の内容。


 全て聞き終えた伯爵は「なるほど」と呟くと使い魔のサーバンさんに何やら耳打ちをしてから俺達に向き直った。


「話はわかった。そこの子爵とはちょっとした顔見知りでもあるからね、協力するのはやぶさかではないよ。ただ無償で、というわけにはいかないなあ。アル君の美味しい血をいただきたい」


 やっぱりな。そういうと思ったから伯爵には頼みたくなかったんだ。


「何か変なことが起きたりしないんですか?」


 ヴァンパイアに血を吸われると、吸われた人間もヴァンパイアになることがあるらしいが。


「やろうと思わなければ、何も起きないよ。やろうと思わなければね」


 …2人の少女の命がかかっている以上背に腹はかえられないか。


「わかった」

「アル!!」


 俺の腕を掴んで心配そうにしているメリアには悪いが、2人の命を救うためだ。そのためには伯爵が要求するものを差し出さないといけない。


「血を飲まれても死ぬわけではないんですよね?」

「ああ。一気に飲んでしまうとふらつくことはあるけどね、そこは気を使うよ。じゃあ先に少しだけもらおうかな」


 ヴァンパイアが血を吸うといったら、首か……。

 想像すると鳥肌が立った。


「ではアル君、手をこちらに」

「手ですか?」


 言われた通りにおそるおそる手を差し出すと、伯爵は俺の左手の人差し指に歯を立てた。


「……っ!!」


 指先がチクリと痛み、吸われる感覚がなんとも気持ち悪くて、全身の毛がぞわぞわと逆立った。


「……はい、ご馳走様。残りは解決してからでいいよ」

「アル!!大丈夫なの?!」

「あ、ああ。指先がヒリヒリするくらいで身体はなんともない」

「よかったー!!」


 いまだに痛いほど鳥肌が立っているがな。


「じゃあ早速行動に移るとするよ。上手くいったらサーバンを送るから」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします!!」



※※※



 伯爵は約束通りすぐに行動を起こしてくれた。

 どうやったのか、その日のうちに子爵に話を伝えて無事に協力を取り付けてくれたのだ。


 俺たちが伯爵にお願いした内容はこうだ。

 まず伯爵から子爵にサーシャ嬢が平民と中身が入れ替わっていることを説明してもらう。一見無理がありそうだが、恐らくここは問題ないと考えていた。あまりにも性格が違う娘の様子に、娘を溺愛しているという子爵夫妻が何も気が付かないはずがないからだ。


 子爵が入れ替わりの事実を信じてさえくれれば、あとは元通りにする方法を伝える。

 『知り合いのエクソシストが内密に処理してくれる』という言葉を添えて。


 エクソシストが屋敷に入るのを誰かに見られることで懸念される子爵家への悪評を防ぐために、サーシャ嬢を伯爵家に呼び寄せ、そこでエクソシストに2人を元通りにしてもらう、という作戦を伝えると、子爵は2つ返事で同意してくれたそうだ。


 余談だが、エクソシストが伯爵家に出入りことによる悪評は伯爵には関係ないらしい。多方面で交流のある伯爵は、むしろエクソシストとも仲が良いとアピールできる良い機会になると喜んでいた。

 そこで心配になったのが、ヴァンパイアがエクソシストに会って大丈夫なのか?ということだ。だがそれも問題なかった。エクソシストは悪魔と戦う者であって、伯爵のようなヴァンパイアにその力は通じないという。このことは伯爵から聞かされて初めて知った。


「ということで、無事約束を取り付けたとのことでございます!!」

「よかった!!伯爵に『ありがとうございました』とお伝えください!!サーバンさんも、伯爵からの伝言をお持ちいただきありがとうございます!!」

「いえいえ、私めの仕事をしたまででございますから」

「ここまでスムーズに事が進めるとはな。ロッド伯爵に頼んでよかった」


 指はまだ痛むけど。


 サーバンさんが帰った後、今度は取り急ぎノアにルイドへの伝言を託す。


「お願いね、ノア!!いつもありがとう!!またご褒美を用意して待っているからね!!」

「ニャー」


 ノアを見送ると、ルイドからの返事を待たず、俺は夜の付き添いの支度をさっさと済ませ、外に出た。

 俺が深夜に家に帰ってきたときにはルイドからの返事が机の上に置いてあった。


 月明かりの元で開いたメモには作戦決行日についての了承と、協力へのお礼が書かれていた。


 決行日は明日。

 作戦が上手くいくことを祈りながら、俺はメリアの隣で静かに眠りについた。

 


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