ローラス警官の休日②
「誰だ?!ってお前、メリアじゃねえか。何やってんだこんな所で」
「あっえっと、あれー?ちょっと道に迷っちゃったかなー?」
しまった、思わず叫んでしまった。
でも仕方ないのではないだろうか?私達が以前手こずった悪魔を払えるエクソシストの悪魔祓いを目撃できたのだ。叫ぶなという方が酷だろう。
「ったく、しょーがねえな。家の近くまで連れてってやるよ。ちょっと待ってな」
「ありがとうございます!!」
「おう」
ローラス警官はそう言うと、ダンと呼ばれた男の子を抱えてベッドのような所に運んでそっと下ろした。
「ダンはいつ目を覚ますの?」
「今回はあの程度で払える低級の悪魔でしたからね。すぐにでも目覚めるでしょう。ほら」
リリウムさんが女の子にそう答えた直後、男の子が目を覚ましたようだった。
「ダン!!あたしがわかる?!」
「え?なに?イブ?なんで泣いてるんだよ」
「よがっだー!!」
「お前心配しただろ!!」
「ダンだー!!ほんとに戻ってるよ!!」
次々に子ども達に抱きつかれてダンは困惑しているようだった。
悪魔に取り憑かれていたことも全く覚えていないらしい。
「エクソシストのお兄ちゃんありがとう!!ローラス警官も、俺たちの話聞いてくれてありがとうな!!」
「ああ、また来るからな。悪さもほどほどにしろよ」
「それは約束できねえな」
「おい!!」
子ども達の笑い声が響く。
先程までの緊迫した雰囲気が消え去り、陽の光が優しく彼らを包んでいた。
それからローラス警官は子ども達に別れを告げると、私に目配せをしてリリウムさんと一緒に出入り口に向かって行く。
私も急いで出入り口に回り込み2人と合流した。
「リリウム、こいつはメリアだ。この前ある事件の解決に一役買ってくれたんだ」
リリウムさんの若葉色の瞳と目が合う。
「初めましてリリウムさん!私はメリアです!」
「初めまして、私はリリウムと申します」
それから私たちは歩きながら色んなことを話した。
やはりリリウムさんはエクソシストで、今日はあの子ども達の仲間のダン君の悪魔祓いにやってきたらしい。
あの子ども達は孤児で、よく盗みをしてはローラス警官に補導されているようだ。孤児院に行くように勧めても頑なに拒否し、補導する日々を送っていた中、ある日を境にあのダンの様子がおかしくなったらしい。
子ども達から助けを求められたローラス警官が孤児達の根城に様子を見に行くと、確かにそこにはいつもの様子と違ったダンがいた。
ダンは孤児グループの中でも大人しく、おっとりとした性格だったようなのだが、すっかり気性が荒くなり、仲間に人を殺してお金を盗むように唆すようになってしまっていた。
「職務上、そういったことには心当たりがあってな」
「急に人が変わったようになって犯罪を犯すような場合には、その人に悪魔が憑いている可能性があるんです」
事件を解決する中で悪魔憑きが疑われるケースでは、警官がエクソシストに連絡して悪魔祓いを依頼することがあるらしい。
悪魔憑きによる事件の場合は、悪魔さえ祓えば罪が軽くなる可能性もある。
「でもそれならどうして私服なんですか?」
「職務でエクソシストを派遣してもらってってなると色々面倒なんだよ。あと孤児っていうのがまた問題でな。孤児のためにエクソシストを派遣しろって言っても上が首を縦に振らねえんだよ」
「そんな、ひどい!!」
「だよな?!」
2人でプンプン怒っているとリリウムさんがクスリと笑った。
「あれ?でもそれならどうしてリリウムさんは悪魔祓いに?」
「ローラスに頼まれたんですよ」
「俺たちは幼馴染なんだよ。こういう正攻法がとれねえ時に助けてもらってんだ」
「お互い様ですからね」
そうこうしている間に見慣れた場所に戻って来れた。
「そういえばメリアの家ってどこだ?」
「あっちの方です!パン屋さんの近くで、あっでも私買い物まだしてなかったんだった!!」
大事な用事をすっかり忘れてた。
「何買う予定だったんだ?」
「ラベンダーです!!そろそろ買えなくなっちゃうので」
アルのランタン持ちで使うロウソクにラベンダーを使っていることを話すと、2人は興味深そうに聞いてくれた。
「ということで、ここまでで大丈夫です!!ありがとうございました!!」
「手伝わなくて大丈夫か?」
「はい!!」
「そうか。じゃあ気をつけて帰れよ。好奇心もほどほどにな」
どうやら尾行はバレていたらしい。
「はい、気をつけます…」
「ああ、またな」
2人と別れた後、予定通りラベンダーを大量に購入して家に帰ると、ちょうど同じように帰宅したところらしいバーベナ姉さんと出くわした。
「あらメリアちゃん、おかえりなさい。すごい量のラベンダーね」
「バーベナ姉さん、ただいま!そろそろ買えなくなっちゃうから」
「少しずつ日差しが和らいできているものね」
じゃあ、と別れるところで思い直しバーベナ姉さんを呼び止める。
「バーベナ姉さん!あのね、例のデートのお誘いだけど、どうするか決めた?」
「それがねえ、ちょっと悩んでいるの。この歳になると、一歩を踏み出す勇気がねえ」
バーベナ姉さんはそう言うと、少し寂しそうに微笑んだ。
大人には色んな事情があるのかもしれない。バーベナ姉さんにも、私にはわからない複雑な事情があるのかも。でも、バーベナ姉さんはローラス警官の誘いを憎からず思っているのは間違いないと思う。それなら私がすることはひとつだけ。
「姉さん、それなら私が背中を押してあげる!デートしてきて!もし途中で嫌になったら帰ってくればいいんだから!」
「メリアちゃん…確かにそうね。一歩踏み出してみないと何も始まらないわよね。ありがとう、お受けするってお伝えするわ」
バーベナ姉さんはどこか吹っ切れたような晴れやかな顔で微笑んだ。
「デートしたらお話し聞かせてね!」
「ふふ、わかったわ」




