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アルとメリアの怪異奇譚  作者: 阿本くま(もちまる/榎本モネ)
事実は流言より奇なるもの
33/36

ローラス警官の休日①

 ロッド伯爵との出会いから数日後。

 付き纏いの恐怖からすっかり解放された私は、ロウソク作りに使うラベンダーを買いに街に出ていた。


 もうそろそろラベンダーが収穫できない季節がやってくる。今のうちにたくさん仕入れておきたい。


 そんなことを考えながら歩いていると、前方に見知った人影を見つけた。以前お世話になったローラス警官だ。服装から見るに、どうも今日はお休みらしい。


 せっかくだから以前お世話になったお礼を伝えようか。


 そう思い声を掛けようとした時、ローラス警官が1人ではないことに気がついた。

 ローラス警官より少し背の低い金髪の女性。

 2人は身を寄せるようにして路地裏に消えていく。


 私の脳裏には先日会ったバーベナ姉さんの姿が浮かんだ。


『あのね、あの時お世話になったローラス警官にデートに誘われているの。お受けするか悩んでいるのよね』


 バーベナ姉さんをデートに誘っておきながら、他の女性とデート?


 バーベナ姉さんは身寄りのない私達兄弟に親切にしてくれる大切な人だ。バーベナ姉さんには幸せになってもらいたい。


 以前バーベナ姉さんはこうも言っていた。


『メリアちゃん、仕事ができる男が私生活でも良い男とは限らないのよ』

『どういう男性が好みかって?そうねぇ、浮気男は嫌ね。浮気っていうのは……うーん、他の女性とデートすることかしら』


 エマちゃん失踪事件では私達の話を信じてくれて頼りにもなったローラス警官だが、私生活では浮気男という可能性が出てきた。


 バーベナ姉さんはデートの誘いに乗るか悩んでいるとは言っていたが、あれは満更でもなさそう、いやかなり乗り気だったと思う。


 でもローラス警官がバーベナ姉さんをデートに誘いながら他の女性とデートするような浮気男だとしたら?


 私は真実を確かめるべく、ローラス警官が2人で消えていった路地裏に入っていった。


 ローラス警官と女性の姿はもう随分と小さくなっており、慌てて跡を追う。だが相手は警官だ。追跡がバレないように慎重に近づかなければならない。


 バレないようにしながらも見失わないように尾行していき、少し街並みから遠かった頃、2人は半分屋根が崩れ落ちた廃墟のような建物の中へと入っていった。


 中にまで入ればさすがにバレてしまいそう……。


 建物の外から様子が伺えないかと考えていた時、子どもの怒鳴り声が聞こえてきた。


「はなせこの野郎!!!」

「それは聞けねえな」

「くそっ!!てめえら、嵌めやがったな!!殺してやる!!!」

「おお、おお、物騒だな。今楽にしてやるからな」

「やめろー!!!!」


 何事か確認しようとした時に見つけた窓から中を覗けば、部屋の中央を心配そうに見つめる小さな子ども達が数人と、小さな男の子を床に抑えつけたローラス警官の姿が見えた

。そして2人の前に本を片手に持ち佇んでいるのは……。


「リリウム!!たのむ!!」

「ああ。そのまま抑えておけ」


 男性の声?

 金髪の女性かと思っていた人物は懐から何かの小瓶を取り出し、ローラス警官が取り押さえている子どもに小瓶の中の液体を振り掛ける。


「ぐあああああ!!やめろー!!!やめてくれー!!!」


 液体をかけられた子どもは苦しそうにじたばたと暴れ出した。

 ローラス警官は「うあっ」とか「すげえ馬鹿力だな」とか言いながらも懸命に子どもを抑えている。

 

「汝、名は何という」

「誰が名乗るか!!」


 男の子がそう叫ぶと、金髪の男性(リリウムさん?)はどこからか十字架を取り出し男の子に近づけて行く。


「や、やめろ!!ダグラ!!!俺の名前はダグラだ!!」

「ダグラ、その身体はお前のものではない。今すぐ出て行け」

「嫌だ!!これは俺のものだ!!誰が出て行くものか!!」

「では強制的に出ていってもらおう」


 そう言うとリリウムは本を開き、何かを唱えながら十字架を男の子に近づけていく。

 十字架が近づく程に男の子の叫び声は激しさを増す。


 なんて声なの?!まるで断末魔の叫びだ。


 あまりの声に慌てて耳を塞ぐ。


 しばらく叫び声が続いたが、十字架が男の子の頭に触れた瞬間、男の子は気を失ったように動かなくなった。

 ローラス警官がリリウムに何か言ったかと思うと男の子の上から降りて男の子を抱き上げた。

 その様子を見てそっと耳を塞いでいた手を下ろす。


「もう大丈夫だ、悪魔は出ていったぞ」

「ほんと?!もうダンはもとに戻ったの?!」

「ああ」

「よかった!!」


 部屋の中で心配そうにしていた子ども達が一斉にローラス警官に抱えられている男の子の元に駆け寄って行く。


 この光景、見覚えがある。いや、頭に描いたことがあると言った方が正しいのかもしれない。


 お父さんの残した本に描かれていたシーン。

 悪魔に取り憑かれた女性が聖書と聖水、十字架を手にした人物に救われた場面に出てきた人こそ。


「本物のエクソシストだ!!」

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