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アルとメリアの怪異奇譚  作者: 阿本くま(もちまる/榎本モネ)
パリの都
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消えた子ども②後編 -変な匂い-



 私たちは早速、ポールくんから教えてもらった順路を進みながら証言を集めていくことにした。


 家を出て順路のとおりに大通りに出ると、道すがら出会う人たちにエマちゃんの特徴を伝え、昨日見かけた人はいないか探していく。しかし、誰に声をかけても「さあ」「みてないよ」と返され、思うような証言は得られない。

 そこから細い路地裏に入ると、途端に人通りは少なくなる。しかし、昨日ポールくんと遊んだという子ども達にも遭遇することはできた。みんないなくなってしまったエマちゃんを心配して探しているらしい。ただ、彼らは失踪時にいたわけではないため、エマちゃん失踪につながる手掛かりは何も得られなかった。


「アル、どうしよう。人目が少な過ぎるよ。聞き込みにならない」

「まいったな……。今通ってきた順路に子どもが隠れるような場所もない。一体どこでどうやって消えたんだ」


 そうこうしているうちに、ポールくんがエマちゃんの最後の声を聞いたという辺りについた。すると何やら見覚えのある人影が見えたので思わず声を上げる。


「ジョン!久しぶり!こんなところで何してるの?」

「あ!メリアねえちゃん!」


 久しぶりに会ったジョンは、こちらを振り向くとパッと顔を輝かせて走り寄ってきた。


「アルにいちゃんも久しぶり!2人こそ何してるの?」

「人探しだ。ジョン、もしかして昨日もこの辺りを通ったりしたか?」

「人探し?うん、通ったよ!ここ、遊び場に向かうにはいい近道なんだ」


 なるほど、ポールくん達だけじゃなくて、子ども達の抜け道というか、遊び場までの近道って認識されてるんだ。

 

「ねえジョン、昨日エマちゃんっていう女の子見かけなかった?4歳の女の子なんだけど」

「エマちゃん?もしかしてポールの妹の?何回か遊んだことある子だけど見てないな。

 人探しって、エマちゃん?」


 ジョンの疑問に「うん、そうなの」と頷いて返す。


「じゃあさ、何か昨日、この辺りでいつもと変わったことはなかった?」

「いつもと変わったこと?うーん……」


 少しの間考えるような仕草をしていたジョンが「あ」と声を上げたので「なになに!?」と前のめりに続きを促す。


「あっいや大したことないし、全然関係ないかもしれないんだけど」

「何でもいい、どんなことでも話してくれ」


 アルも食い気味に続きを促した。


「あ、うん。あのね、ここら辺で昨日、変な匂いのする紙を拾ったんだよ」

「変な匂いのする紙?」

「うん、あんまり嗅いだことがない匂いがする紙だから、なんだろう?って気になって拾ってみたけど、なんか嫌な感じがして元に戻した」

「「それ、どこにあった?」」


 アルと2人してジョンに詰め寄ると、驚いた様子で若干引きながら「えっと、あっち」と言って、紙があった場所に案内してくれた。


 紙があったというのは、ポールくんが教えてくれた順路から左脇道に入る角の辺り。飲み屋の裏口があり、木箱が積み重なっている部分に、はみ出すようにして置いてあったという。

 その高さはというと、だいたい80cmくらいのところ。4歳の女の子の目に留まる可能性は十分あり得る。


「エマちゃんがジョンと同じように変な匂いのする紙に気がついて足を止めたとして、それが失踪と繋がるかな?」

「そうだな……変な匂いの紙……失踪」


 「うーん」と2人して頭を悩ませていると、裏口がガチャっと開く音がして、中から飲み屋の主人と思われるガタイのいい男の人が木箱を持ち上げながら出てきた。


「おい、ちょっとどいてくれ。そこに積み上げるから。危ないぞ」


 慌てて3人で木箱から離れると、おじさんは持っていた木箱をドンっと、その上に重ねた。木箱を下してふう…と息を吐いているおじさんに、ここで働いているのであれば何か見ていないかと思い、声をかけてみる。


「あの!昨日もここで働いてましたか?」

「ん?そうだが」

「昨日、14時ぐらいに女の子を見ませんでしたか? ブロンドヘアの4歳の女の子なんですけど…」

「女の子?4歳くらい?どうだったかな……昨日は特に忙しかったし、あまり周りは見てなかったしなぁ」


 おじさんは腕を組んで顎髭を摩りながら、眉間に皺を寄せ「うーん」と上を見ている。その逞しい二の腕は、例のアルと仲のいい筋肉自慢の門番さんと張り合うかもしれない、と思いながら、おじさんが頭を悩ませているのを見守る。


「あっいたな、そういえば。昨日ここ開けたとき、ちょうど女の子が何か持ってあっちに走っていったはずだ。

 俺にも娘がいるからよ、昔はあんな服着てたっけなぁと思ったんだよな」


 そう言っておじさんが指さしたのは、私たちが来た道。つまりサラさん家に向かう道だった。


「どんなものを持っていたか、覚えてませんか?」

「うーん、一瞬だったからよく覚えてねえが、赤いものだった気が」

「赤いもの?」


 アルの問いかけにそう答えると、「もういいか、仕事があるからよ」といっておじさんは店に戻って行った。


「赤いものって一体なんなんだろう?」

「うーん、赤いものと言えば、りんご!僕りんご好きなんだよね」

「ジョンの好きな食べ物を聞いてるんじゃないんだが」


 アルに呆れ顔で見られたジョンは「えへへ」と笑う。でも、なにか喉に詰まったような表情をして首を傾げた。


「赤…赤かぁ……うーん、なんか忘れているような……」


 再び唸りだしたジョンは、再び「あ」と言ったかと思うと、思わぬ爆弾を落とした。


「そういえば、あの変な匂いの紙も赤かったな」

「お前、なんでそれを先に言わないんだよ!」


 赤い変な匂いの紙。間違いない、エマちゃんはそれを持っていたんだ。






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