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アルとメリアの怪異奇譚  作者: 阿本くま(もちまる/榎本モネ)
パリの都
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消えた子ども②前編 -順路-



 バーベナ姉さんとサラさんと分かれた私たちは、急ぎサラさんの家へと向かっていた。


 サラさんから聞いた話によると、昨日の日中、太陽が高く登ってからしばらく経ち、日差しの暑さが少し和らいだころ、留守番をしていたエマちゃんとポールくんは遊びに行くために家を出たらしい。


 一緒に着いてきていたはずのエマちゃんがいないとポールくんが気が付いたのは、友人たちとの遊び場に着いたとき。気が変わって家に帰ったんだろうと思ったポールくんはそのまま空がオレンジ色に染まり始めるまで友人たちと遊び、家に帰るとエマちゃんがいなかったと。


 今の時期、日差しが和らぐ時間は大体14時ごろ。エマちゃん家から遊び場までどれくらいの距離があるかはわからないが、せいぜい歩いて15分内の場所ではないだろうか?


 私たちがサラさんの家に向かっているのは、ポールくんの話を聞くためだ。ポールくんは今日家から出ないようにサラさんから言われているらしい。

 アルいわく「大人の話は大人が聞いてる。俺たちは子どもに聞こう」ということで、まずは直近でエマちゃんと会った最後の人物であるポールくんの話を聞きに向かっているのだ。


「ここだな」


 サラさんから聞いた自宅に辿り着いた。サラさんの家は集合住宅の1階、103号室。

 走ってきたために乱れている息を整え、汗を拭いながら103号室のプレートを探し歩く。


「あった!ここだ!」


 ドアの前に着くとドアを叩き、できるだけ怖がらせないように意識しながら話しかける。


「ポールくん、お母さんの友達のメリアとアルです!エマちゃんのことで話を聞かせて欲しいの!」


 しばらくするとガチャっという音がして、ギィっと音を立てながらドアが少し開き、恐る恐るといった様子の男の子がドアの隙間から顔を見せた。


「ほんとうにママの友達なの?」

「うん!ほらこれ見て」

 

 信用してもらうためにと、サラさんにサッと描いてもらった絵を差し出す。何かあった時のためにと、いつも持ち歩いているメモ帳に、サラさんが描いたとわかる絵を描いてもらったのだ。


 ポールくんは私が差し出した紙をサッと受け取るとジーッと絵を見つめ、「ママの絵だ」とポツリと呟いた。描かれているのは、子ども達のお気に入りだという雄鶏がダンスしている絵だ。


「これで信用してもらえたかな?話を聞かせてもらえる?」


 ポールくんの顔から緊張が和らいだのを感じて、すかさず話しかける。すると私とアルの顔を見てコクリと頷き、ギーっとドアを大きく開いて中に入れてくれた。



※※※



 部屋は私たちの住んでいる部屋と同じくらいの広さ。壁には子どもが描いたと思われる絵がたくさん飾られている。テーブルには使いかけの食器が3人分置かれたままになっていた。


「エマちゃんを探すために、昨日のことを聞きたいんだ。覚えてることを全部聞かせてくれないか?」


 ポールくんはアルを見上げるとコクリと頷き、言葉を時々詰まらせながら、昨日のことを話してくれた。


 内容はサラさんから聞いていたのとほとんど変わらなかった。でも、家から遊び場までの順路を聞くことができたのは大きい。エマちゃんが失踪した場所や状況を掴むために、重要なポイントだ。


「話を聞かせてくれてありがとうポールくん!エマちゃんを見つけられるように頑張るからね!」


 そう言って頭を撫でてからドアに向かって足を向けたとき、「おねえちゃん!」とガシッと腕を掴まれた。振り向くとポールくんが目に涙を浮かべながらこちらを見上げている。


「どうしたの?」


 身を屈めて目線を合わせる。ポールくんは「あの、えっと」と、私を引き留めながらも、口ごもり、目線を彷徨わせ、何かを悩んでいるようだった。

 その様子に何か心に溜めていることがあるのかもしれない、としばらく見守る。すると、意を決したようにばっと顔を上げ、涙で揺らぐ瞳を私に向けた。


「あそびにいくときね、ぼく早く友達とあそびたくてね、『おにいちゃんまってよ!』ってエマが言ったのを無視したんだ。そのときにエマをまっててあげればよかった。そのあとエマの声がきこえなくなったのに、気にしなかった…。

 あそびばでエマがいないってわかってからも、すぐかえればエマをみつけられた、かも。



 ぼくが、ぼくのせいで……エマが、エマが…!ぼくのせいだ……!!」


 話しながらヒックヒックと、しゃくり声を上げ、苦しそうに、痛いほどの後悔の気持ちを伝えてくる様子に、こちらまで胸が締め付けられるように痛んだ。

 

「ポールくん、ポールくんは街中を探してこのくらいの大きさの落とし物を見つけることはできる?」


 ポールくんの話に対しての返答はせずに、親指と人差し指で丸を作って見せる。ポールくんはヒックヒックと肩を揺らし、鼻を啜りながら「ううん」と首を横に振った。


「そんな小さいもの、みつけるなんてむりだよ」

「そうだよね、見つけられるわけないって思うよね。

でもね、私たちはそれを何度も見つけたことがあるんだよ」


 そう言ってアルに視線をやる。するとアルも大きく頷き私の後に続いてくれた。


「ああ、俺たちは貴族から探し物を頼まれるくらい、失せ物探しがうまいんだ。こんな小さなものでも見つけられる俺たちが、エマちゃんを見つけられないわけがない」


 アルの言葉に、ポールくんの涙に濡れた目が見開かれ、キラキラと光ったのを感じた。たとえるならそう、希望を見つけたといったように。


「ほんと?ほんとにおにいちゃんたちはこんな小さなものでも見つけられるの?」

「ああ」


 もう一度アルが大きく頷いてみせると、ポールくんは私の腕を放し、ガバッと頭を下げて叫ぶように切実な声をあげる。


「おねがいします!エマを、エマを見つけてください!ぼくがあげられるものならなんでもあげるから!できることはなんでもするから!お願いします!」


 必死に頭を下げるポールくんの肩をそっと両手で掴み上体を起こさせて、ポールくんと目を合わせると、殊更明るい調子で、自信満々に見える笑顔で答える。


「もちろんだよ!絶対にエマちゃんを見つけるからね!だからポールくんはここで待ってて!

エマちゃんが帰ってきたときに『おかえり!』って言えるように」

「そうだな、エマちゃんは必ず見つけ出す。約束だ」


 そう言って2人で微笑みかけると、ポールくんは眉尻を下げ、クシャッと顔を崩した。


「そのためにも、さっき言ってたところの場所を、もう少し詳しく教えてくれないか?エマちゃんにまってよ!って最後に声かけられた場所」


 涙を腕で拭いながら「わかった」と、だいたいの場所を教えてくれた。それを聞きながら、家から遊び場までの順路をメモした箇所にカリカリと追記していく。

 「終わったよ」と言う意味を込めてアルを見ると、アルは頷きポールくんに向き直る。


「ありがとう、大切なことを話してくれて。じゃあ俺たちは今からエマちゃんを見つけに行くから、エマちゃんの帰りを待っててくれ」

「うん、わかった!おにいちゃん、おねえちゃん、エマのこと、よろしくおねがいします!」


 そう言って再び小さな頭を精一杯下げるポールくんのためにも、絶対にエマちゃんを見つけ出すという気持ちを強くし、家を後にした。




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