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アルとメリアの怪異奇譚  作者: 阿本くま(もちまる/榎本モネ)
パリの都
23/36

不思議な婚約者⑩ -曇天-



 アンドレ様が鏡から解放された日から2週間ほどが過ぎた。


 あの後、事態を目撃してしまった(というよりもアルが巻き込んだ)ルイドに簡単に事情を話した後、一体何が起きていたのか、アンドレ様とルイド、私の間ですり合わせを行った。ルイドはとりあえず、よくわからないが黙って話を聞いていた。

 そして、やはりアンドレ様は1ヶ月以上前から鏡に閉じ込められていたらしい。キース伯爵家に眠っていた姿見を偶然見つけ出したときに、気がつけば鏡の中に吸い込まれていたという。そして、自分そっくりの偽物が鏡の外にいて、自分を見て笑っていた。

 何が起きたのかわからなかったが、外に出ようと必死に鏡を叩く日々。でも、誰にも見つけてもらえず、時々姿見を磨きに来る偽物だけしか目にできなかったそうだ。


 そんな中で、鏡の前に見知らぬメイドが現れた。それが私。


 状況のすり合わせが終わった後、改めてルイーズ様への説明をどうするのか、アンドレ様のご意向をうかがった。

 その結果、ルイーズ様には鏡のナニカによって成り変わりが起きていたことは伏せることに決まった。やはりアンドレ様としても、人間ではないナニカに成り代わられていたというのは外聞が悪く、また不要な恐怖を婚約者に与えたくないという。


 「必ず改めてお礼をさせてもらうよ。本当に2人ともありがとう」そう言って優しく微笑んだアンドレ様。1ヶ月以上、食事もなしに鏡に閉じ込められていたにも関わらず、アンドレ様は特に衰弱している様子はなかった。その後、念のために医者に診察してもらった際も極めて健康体と言われたそうだ。


 そんな後日談を記したメッセージとともに後日、私たちに信じられないほどのお礼(主にお菓子や日もちする食料品などの消え物、そして洋服など)を贈ってくれた。そして、アル宛てには個別のメッセージが来てた…らしい。その内容については、アルが教えてくれないので、私にはわからないけど。もともとアルはアンドレ様と顔見知りだし、何か個別の言葉をかけられたんだろう。


 そんなやり取りを思い出しながら、今日は久しぶりにアルと2人で買い物をしている。


「結局、あれは何だったんだろうね?」


 アルといろいろ話したけど、やはりあれは悪魔ではなかったのではないか、という話になった。でも、じゃあ悪魔じゃないなら何なのか、と図書館でまた調べたけど、それらしい情報は見つけられなかった。結局、あれは何だったのか。

 すっかり風邪の症状も落ち着いたアルにそう問いかけると、アルはちらりと私に目を向けた後、ふいっとまた前を向いた。


「さあな……。俺たちだって、人間のことだって、この国のことだって、全部知り尽くしているわけじゃない。


 この世には、まだ人間に知られていない怪異がたくさんいる。そういうことだろ」


 そういうアルは、ちょっと自分の手を空に掲げて、開いた自分の手を見ている。アルの白い指の間から見える、光の差さない曇天。その空模様が、妙に心をざわつかせた。


 そう、たしかに私たちは全部を知っているわけじゃない。アルの、あの力のことも何もわからない。自分たち自身のこともわかっていないんだ。


「ほら、また雨が降る前に果物買って早く帰るぞ」


 アルの言葉に我に返った私は、急いでアルの後を追う。果物屋の前に着くと、ちょうど1人のお客さんが品物を受け取って去って行くところだった。


 それを見送った果物屋の女店主ジャンヌさんが、何か妙なものを見たような顔をして、そのお客さんの後ろ姿を見送っている。ジャンヌさんは近づいてきた私たちに気がつくと、「いらっしゃい」と笑顔で声をかけてくれた。


「メリアちゃん、今日はアルくんも一緒なんだね。何にする?」

「えーっと……」

「これと、これをください」


 さすがはアル。買う予定にないものに目移りする私とは違う。

 果物を包んでくれているジャンヌさんに、さっきの様子について聞いてみることにした。


「ジャンヌさん、さっきのお客さんと何かあったんですか?」

「え?……あー私そんなにわかりやすい顔してたかい?いけないね、客商売なのに」


 ジャンヌさんは困ったように眉を下げ苦笑いをする。


「いや実はね、さっきのお客さん、うちを贔屓にしてくれてよく買いに来てくれるんだけどね……。私の見間違いかもしれないんだけどね、違ったんだよ、目の下の黒子の位置が。


 左目の下だったと思ってたんだけどね?」





 仲間に聞けば、君たちに成ってもいいってやつがいるかもしれないなぁ。






 あのときの、偽物の言葉を思い出し、私は思わず自分の腕をさすった。





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