震レイテ島沖海戦
長くなりましたので、サブタイトル変更。震はワザと震としています。
帰還は3月01日に投稿予定。
長門は消火が終わらない。
「痛いわね。誰よ、ぶったの。誰にもぶたれたことないのに」
「長門叔母様。お目覚めですか」
「誰?私を叔母様などと呼ぶのは」
「高雄です」
「貴方。叔母様と呼んではいけませんと以前も言いましたが、忘れましたか」
「叔母様は叔母様ですわよ。戦艦である叔母様を姉妹扱いできませんわ」
「誰?この怪しげなお嬢様は」
「鳥海ですわ。お忘れですか、叔母様。それは良いですが、叔母様の現状はよろしくて?」
「貴方ね。そう。ようやく目が覚めたわ。私の現状?あら嫌だ。燃えてるじゃない」
(惚けてるのか)
「なにか良くないことを言った船がいるようね」
「「「「気のせいです」」」」
「そう?でも次言ったらね」
ガクガクブルブル
「「「「言いません」」」」
「いいわ。それで誰が指揮を執っているのかしら」
「連合艦隊司令長官は愛宕に」
「どうでもいいわ。私たちの指揮は」
「高雄です」
「そう。引き続きお願いね。私は現状把握に努めるから」
長門の火災は、その頃ようやく鎮火した。
1944年10月24日16:00
高雄達栗田艦隊はサンベルナルジノ海峡を抜けた。太平洋だ。
この頃、アメリカ海軍とアメリカ陸軍はパニックに陥っていた。上空に直掩機も無い艦隊が延べ300機の航空攻撃をほぼ無傷でかいくぐり、太平洋に抜けてきた。
他の日本艦隊の行動から目標はレイテ島の上陸部隊と付随の上陸船団だろう事は容易に類推された。後背を絶たれててしまえば、いかにアメリカ陸軍とて苦戦は免れないだろう。
これから日没を迎え航空攻撃は出来ない。
偵察機によると上陸地点まで500kmにいる。巡航速力でも半日後には上陸船団と上陸地点の物資が砲撃に曝される。
ハルゼー部隊から分離した戦艦部隊が戦場を目指すが夜戦になりそうであった。ハルゼーの空母部隊は小沢艦隊を追いかけて遙か北に釣り出されている。
ここでスリガオ海峡待ち伏せ部隊から16インチ砲艦のメリーランド・ウェストバージニアと14インチ砲12門のミシシッピ・ペンシルバニアの4隻を分離。重巡2隻軽巡1隻駆逐艦6隻を伴いサマール島沖でハルゼー部隊から分離した戦艦部隊と合同で栗田部隊を迎撃すべくと向かう。
大和と武蔵の巨大戦艦2隻はあまりにも大きく見えた。
残されたテネシーとカルフォルニアの2隻では若干不安もあるが、多数の魚雷艇と駆逐艦で飽和魚雷攻撃を仕掛ければ旧式戦艦2隻と重巡1隻に数隻の駆逐艦で構成された弱小部隊は簡単に撃退できると考えていた。
「え?合流を急げですって?いいの。高雄」
「はい。ひとかたまりの方が戦力的に不安がないので」
「はっきり言いなさい。扶桑おばさんと山城おばさんが不安なんでしょ」
「はい。先程目覚めたようだと最上から連絡がありました。ですがスリガオ海峡で敵の待ち伏せ必至ですので、不安です」
「那智お姉さんに任せなさい。艦隊速力上げて追いつくわ」
「お願いします」
【艦長から機関室。速力指示出していないぞ】
【機関長です。エンジンテレグラフが第3戦速になっています】
【こちらはテレグラフを動かしていない。どうなっている】
【そう言われましても、困ります】
志摩部隊全艦が慌てていた。
西村部隊も勝手に速力が落とされ混乱の極みである。
【後部見張り。後方より接近する艦影あり】
【敵か】
【艦型不明です。艦影は見えますが艦型までわかりません】
【日没で太陽の位置が悪いなから仕方ない。見張り員、よく見た】
【はっ、ありがとうございます】
【電探、見えないのか】
【太陽の影響でよく見えません】
【こちらも太陽の位置か】
【申し訳ありません】
【機材の能力だ。仕方が無い。夜戦では頼むぞ】
【お任せください】
【後部見張り。後方から接近する艦影よりオルジス】
【読め】
【我、那智】
【何で那智がここに】
【わかりません】
【すまんな。引き続きよく見張れ】
志摩部隊と何故か合流させられてしまった西村部隊は、否応なく合同でスリガオ海峡へ。
隊列を変更して効果が高いと思われる隊列にしたが、もとより艦列を組んでの高度な訓練などやっていない寄せ集め艦隊同士であり練度はかなり不安である。
スリガオ海峡突入時
曙 潮
阿武隈
不知火 潮
山城
扶桑
時雨 山雲
最上
那智
満潮 朝雲
足柄
「首が細いので頭が重いわ」
「そうね。まるで花魁だわ」
「ねえ、山城。撃ち方だけれども、交互撃ち方にするの?それとも12門斉射?」
「全門斉射は拙いと思うの」
「では交互撃ち方ね」
「奇数砲塔と偶数砲塔なの?それとも1番砲と2番砲?」
「砲塔で分けましょう。そうしましょう」
艦橋では全門斉射のつもりでいるので、後で慌てることになる。
海峡手前で艦隊は駆逐艦で魚雷艇掃討をさせることとした。
【22号電探に反応。8000に小型目標多数、高速接近中】
【魚雷艇か】
【撃ち方始め】
【探照灯照射始め】
魚雷艇の遠距離阻止が成功し、敵魚雷艇は魚雷の射程まで近づくことも出来ずに退散していった。
しかし、西村・志摩両部隊はそれどころではなかった。
【勝手に撃っていたぞ】
【勝手に照準が動いた】
【結構当たったな】
大騒ぎだった。
逆に困ったのが、スリガオ海峡で待ち伏せしている艦隊だった。、後方から追随してくる取るに足らない艦隊と各個撃破する簡単なお仕事のはずが、魚雷の飽和攻撃で勝てるはずの前段である魚雷艇部隊の攻撃不成功で、後方から追随してきた小艦隊が合流し規模が大きくなった敵艦隊の阻止は、主力の大半を引き抜かれた艦隊では大損害を覚悟しなければいけなくなった。敵に倍する駆逐艦の魚雷攻撃に頼るしかない。
誤算は日本艦隊の異様な砲撃命中率だった。
【22号に反応。右舷前方より駆逐艦接近中】
【一水戦は迎撃せよ】
【左舷にも注意】
【一水戦より。敵駆逐艦3隻撃退セリ】
【22号電探に反応。左舷より駆逐艦多数接近中】
「左舷からたくさん来たわね」
「バレているからには派手にやりましょう」
「そうね」
「副砲は星弾のようよ」
「最初だけでしょう」
「そのようだけれども、砲室に予備弾を置いているわ」
【撃ち方始め】
【副砲星弾撃て】
「では、いきましょうか」
「そうね」
「全艦撃ち方始め」
「「「「「はい」」」」」
【22号電探に反応。前方左右駆逐艦多数】
【艦隊、右一斉回頭。面舵用意。発動】
「いい?行くわよ。右一斉回頭、用意」
「「「「用意良し」」」」
「発動」
「「「「発動」」」」
後年、生き残ったスリガオ海峡待ち伏せ艦隊の乗員は
「まるで、生き物のような艦隊運動をして、どこに撃てば当たるのかわかっていたような砲撃と雷撃だった」
と語る。
スリガオ海峡を突破した合同部隊はマニラ湾へと向かう。ただ中破した扶桑の速力が上がらず艦隊速力は14ノットしか出ない。
損害
沈没
山城 那智 潮
中大破
扶桑 阿武隈 朝雲
阿武隈は損傷激しく復旧困難で付近の島に座礁させる。
朝雲は後に自沈。
戦果
戦艦 1隻撃沈 1隻撃破
巡洋艦 3隻撃沈 2隻撃破
駆逐艦 6隻撃沈 4隻撃破
西村・志摩合同艦隊がスリガオ海峡を突破する少し前、サマール島沖では激しい夜戦が行われていた。
栗田艦隊とマニラ湾突入阻止のために急行したアメリカ艦隊である。
結局、命令系統で混乱のあったアメリカ艦隊が栗田部隊を挟撃することも出来ず、合流して当たることも出来なかった。
「レーダー射撃なら夜戦と言えども日本海軍に撃ち負けることはない」
「発砲距離はいかがしますか」
「夜間だし1万8000ヤードで行こう。日本のレーダーはたいしたことないという情報だ」
「近すぎないでしょうか」
「いくら奴らが化け物じみた夜戦の名手でも、見えなければどうしようもない。1万8000ヤードまで寄ろう。それはそうとオンデンドルフはまだ来ないのか」
「速力が遅いので間に合わないでしょう」
「命令が出た時点で間に合いそうになかったな。これならマニラ湾で迎撃させた方が良かったのではないのか」
「我々が奴らを平らげれば良いだけです」
「それはそうだ」
【22号電探に反応。方位80。大型艦多数接近中】
【大型艦だと】
【反応は戦艦級の大きさです。距離2万8000】
【参謀長、迎撃しよう】
【はっ。艦隊の陣形はどうしましょう】
【訓練不足だ。あまり複雑な陣形はとれん】
【一戦隊は単縦陣で良いかと。金剛と榛名は戦艦同士の撃ち合いでは分が悪いと考えますが、どうされますか】
【金剛と榛名は四戦隊・五戦隊と共に巡洋艦と駆逐艦の阻止。他は水雷戦隊に任す。機会があれば敵戦艦へ雷撃をさせよう】
「戦艦のようね」
「このままでは追いつかれますわ」
「司令長官は迎撃すると言っています」
「まあ、戦艦の相手をさせてくれないのかしら。せっかくお優雅に紅茶を飲みながら砲撃をしたかったのにですわ」
「ここにも変なお嬢様が」
「なんですって」
「まあまあ。金剛は英国生まれだから、紅茶を飲みたいのよ」
「あー。そう言えばひとりだけ金髪でドレスだよね」
「でも皆様の着物も艶やかでいいですわ」
「陽炎級と夕雲級に矢矧達はかわいそうだね」
「終わったら綺麗なべべでも着せて差し上げましょう」
「それは良いですわ」
「「「うんうん」」」
「武蔵は続きなさい。長門姉様も」
「「わかっています」」
「距離2万0000で撃つわよ」
「今は2万2000ですね」
「いきなり全門斉射はしないわよね、大和」
「そこまで驕っていません。長門姉様」
「よろしいです」
【敵の頭を押さえる。一戦隊取舵】
【取舵】
【副砲は星弾用意】
「敵転舵します。頭を押さえられます」
「艦長、取舵。同航戦だ」
「操舵手取舵」
「サー。ポート・サー」
「測敵完了。撃つわよ」
「「いつでも」」
ビー
「撃ー」
ビー ドーーン
【なんだ、発砲命令は出していないぞ。砲術長】
【わかりません。先の対空戦闘と同じで勝手に狙って勝手に撃っています】
【なんだと!】
「弾着。近近遠。前前前。描頭修正後ろ200。遠近良し」
「弾着。近近近。描頭良し。上げ100」
「弾着。遠遠。後後。下げ100。前100」
大和
【弾着。近近遠。前前前】
【なんだ。夜間2万だぞ】
【砲塔長からです。砲側が勝手に微調整していると報告です】
【なんだとー!】
武蔵
【弾着。近近近。描頭良し】
【む。砲術。見事だ】
【艦長。艦が勝手に微調整しております】
【なに?では任せてしまえ。こちらはおよその狙いを付ければ良い】
長門
【弾着。遠遠。後後】
【砲術。何で1番砲塔1番砲と3番砲塔1番砲しか撃たない】
【艦長。こちらで発砲を制御できません】
【巫山戯たことをぬかすな。誰が発砲許可を出すのだ】
【艦が勝手に】
【そう言えば対空戦闘の時もそうだったな】
【同じです】
ドーン
【砲術。またか】
【今度は2番砲塔1番砲と4番砲塔1番砲です】
【弾着。遠近。描頭良し。侠叉です】
【なあ砲術。どういうことだろう】
【わかりません。天佑にしてもおかしすぎます】
【艦の魂がやってくれるのかもしれんな】
【魂ですか】
【艦に従ってみるか】
【よろしいのですか】
【よろしいも何も、我々より成績が良さそうだぞ】
【悔しいです】
【今は艦に従おう】
【わかりました】
大和は4射目、武蔵は3射目で侠叉を出していた。夜間2万とは思えない成績だ。
次回更新 3月01日 05:00予定 3月02日になったらごめんなさい。
次回「帰還」
西村・志摩部隊の主砲命中率は3割から4割くらいでしょうか。
アメリカ側の駆逐艦が多すぎて阻止する前に魚雷が結構命中しました。
武蔵の高角砲12基化について。
ご指摘がありましたので、説明します。
架空戦記創作大会2024冬の条件に
「高雄」型が活躍する切欠となる事象までの歴史改変は、禁ずる。
と有りますので、
高雄型4隻登場以降の事柄なので変更してもいいかなと。
この作戦前に増設されたとしました。
あくまでも、架空戦記創作大会2024冬のお題①として扱っています。