好きな人からの年賀状
わたしには好きな人がいる。それは同じクラスの原田眞君。四年生で初めて同じクラスになった。眞君はクラスのムードメーカーでお調子者。
年に一回、給食のデザートでアイスが出ることがある。その日の何日も前から、眞君は同じクラスの子に、
「何でも言うこと聞くからアイスちょうだい」
と言い回っていた。担任の奥村先生までもが「おい! みんな! 原田にアイスをやれ! そしたら何でも言うこと聞いてくれるらしいぞ」と悪ノリしていた。
結局、誰も眞君にアイスをあげなかった。
隣同士の席になった時、自習の時間に眞君は熱心に二の腕に赤いボールペンで何かを書いていた。しばらくすると
「見て! 花吹雪!」
と、わたしに見せてきた。赤い花が二の腕に数個描かれているだけだったけれど、わたしには眞君の言いたいことがわかった。
おそらく時代劇に登場するお侍さんが着物を半身はいで、見せる、あのやつのつもりなのだろう。
そんな眞君がする突拍子もない行動が私は好きだった。そして、眞君を好きになっていた。
その年の夏、子どもサマーキャンプに参加した私は、同じグループに眞君の妹がいることに気づいた。目元が眞君に似ている。そして眞君と同じように、妹の理加ちゃんも明るい子だった。
私達はあっという間に仲良くなった。
そして、最終日、互いの住所を教え合った。「手紙書くね」と約束し、その後、文通が始まった。
同じ小学校にいるのだから、会うことはできるし、実際に会うこともあった。でも、文通を続けていたのは手紙にしか書けない秘密もあったからだ。
その秘密には好きな人の話もあった。理加ちゃんは同じクラスの男子の中に好きな人がいると教えてくれた。私も同じだと返した。さすがに〈眞君が好きなんだ〉とは打ち明けられなかった。
そして二学期が終わり、冬休みに入った。宿題の合間に私は年賀状を書いていた。そして、ふと思いついたのだ、眞君に年賀状を書いてみようと。
クラスメイトなんだから、何もおかしなことはないはず。自分にそう言い訳しながら、胸をドキドキさせて書いた。
〈あけまして おめでとう 今年もなかよくしてね〉
何てことはない、ありきたりな文章。でも、眞君が読んでくれると思うと幸せな気持ちになった。
年が明けて、我が家にも年賀状が届いた。理加ちゃんからの年賀状を見つけると一番に読んだ。眞君からは届いていない。きっと今頃、わたしからの年賀状を見て、返事を書こうと思ってくれているはずだ、と自分に言い聞かせた。
一月四日。お母さんが「年賀状きてるよ」と私に言った。どきんと胸が跳ね、体がぴくんと反応してしまった。お母さんから年賀状を受け取ると、眞君からだった。
思わず「やったー!」と叫びそうになってしまう。わくわくしながらハガキを裏返した。
〈あけまして しめました〉
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数秒、時が止まる。書かれた内容を理解した後で眞君らしいと声に出して笑ってしまう。
「新年早々、笑顔になれて幸せね」
私の笑い声を聞いたお母さんが、ダイニングテーブルで、コーヒーが入ったマグカップを持ち上げて、優しく微笑んだ。
読んでいただき、ありがとうございました!