吟子さんの復讐ざまぁ話
錆びついた壁に、今にも倒れそうな誰も住んでいないアパート。ガレージには雑草がぼうぼうと生えている。過去に私はここで孤独死して、幽霊として棲みついた。名前は吟子と言うわ。
こういうどんよりした場所って、霊力が高まりやすくて良いのよね。姿をはっきりと現せるし、言葉も話せる。
(くくく。この能力で、生きている人間をこっちへと誘ってやろうじゃない。私だけ不幸なんて、うらめしや~)
――――ギィッ。
(!?)
ととと、扉が開いた!
ここは誰も住んでないはずなのに! 誰! 勝手に私のアパートに入ってきたのは!?
「おぉー。よし、サラ。ここでキャンプしようぜ!」
「ムッ君とキャンプ、キャンプ♪」
え、カップル!?
というか、勝手にガレージにテントを張り始めるな! むむむむ、これは懲らしめる必要がありそうね。
私は、二人の前に立った。長い髪を前に垂らし、恨めしそうな声で、
「うらめしや~」
そう言った。
二人は、私を見ると、
「あ、食べます? お肉」
と言って、グリルの肉を差し出してきた。
(勝手にバーベキューすんな!)
私はこぶしを握りながら唇を噛む。おいしそうに肉にかぶりつく二人を見て、私はどうでもよくなった。
(ふん、勝手にしてろ! べー!)
本当に二人は勝手にしていた。雑草と木の枝を集めて、キャンプファイアー……ってあぁ!
(ガレージが燃えてる!)
「あちゃー。サラ。燃えてるよー」
「どうしようムッ君~」
どうしようじゃないのよ。何とかしようとしなさいよ! 私は、チカラを使って、風を起こし火を消した。拍手の音が聴こえる。
「おぉ~火が消えたぞ、サラ!」
「ムッ君。これで完璧だね♪」
(?)
はて、何のことだか。
しばらく二人の話を聴いてみた。
「昔、親父がこのアパートの管理人をやっている時に、吟子っていう人が孤独死したんだ。でもそれじゃ、アパートの価値が下がるからって、死体をガレージに隠したんだって。ま、今じゃ寂れて売りにも出せないけどな」
「なにそれウケる~」
ウケないです。
この子があの大家の子孫だったのね。よし、決めた。二人を懲らしめて成仏しよう。でもどうやって……もう少し話を聴いてみるか。
「親父によると、吟子って人の死体と一緒に光物も隠したらしい」
「ムッ君とサラはお宝ハンターになるのね♪」
「そういうこと」
光物なんてないわよ、なんなの!
でも良いわ。お出でなさい。たっぷり怖がらせてあげる。その邪な考えを改めるまでね!
二人は「雑草を抜く手間が省けた」と言って、土の見えたガレージを探り始める。そうはさせるものですか。うーん、そうねぇ。ここはベタに。
(ネズミたち。あの女性に噛みつきなさい)
チューチュー。
群れを成したネズミたちは、一斉に女性を取り囲むと、噛みついた。
「きゃー! ムッ君! たすけてー!」
「ちょっ、寄るんじゃねえよ。感染症になったらどうするんだ!」
「は? なにそれ!」
あ。喧嘩を始めたみたい。観ていてとても愉快。
じゃあ次は、男の番ね。
「うおっ!?」
私は霊力で、男をアパートの集合トイレ(ぼっとん)の中に、放り込んだ。
「だ、出してくれ~!」
(さぁ。あんな言葉を吐いた後で、女の子が助けてくれるとは思わなけどねぇ)
「無理。アンタとは別れる! じゃあね!」
全身噛み傷だらけの女性が車の方へと向かう。そりゃ当然の反応よねぇ。でもこのまま帰して良い物か。うーん。どうしようか……とりあえず、タイヤに穴をあけておこう♪
――――ブロロロロロ……!
車が荒く地面を削りながら走っていく。しばらくして、けたたましいサイレンの音がしたけれど、私は何も知らないわ。べーだ。
さて、スッキリしたことだし。成仏するか。
私は自分の躯をガレージから見つけ出し、念仏を唱えた。きっと私の躯は、交通事故を発見した警察たちによって供養されると思う。あぁ、最後に好き勝手出来て楽しかったわ。