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慈愛(4)

5柱の王の魔法の秘密

 (何でこんなことになったんだろう?)

 アケは、広いお風呂の中で窮屈さと居心地の悪さを感じて肩を萎めていた。

 大きな天窓から差し込む月の明かり、湯気に湿気ることのないように四方に設置されたランタン、大きくて広いペパーミントバードの卵の殻を加工して造ったお風呂に張られたお湯は、生傷と疲労に痛んだ身体に優しく染み込んでいく。アズキが腹ばいになって水面をブイのように浮かんで揺れている。

 とても和やかで落ち着いた空間であるはず。

 それなのにアケは、重々しい空気に挟まれ、逃げるように口までお湯の中に沈めている。

 その原因を作っているのはアケを間に挟むように一緒に湯船に浸かるウグイスと青猿であった。

 ウグイスは、黄緑色の髪と羽毛が濡れないように水を弾く袋で頭と両腕を覆い、発展途上中の線の綺麗な身体をアケに押し付け、両腕をアケの頭と肩に回し、野良犬のように唸りながら青猿を睨む。

 青猿は、絹糸のような青い髪を散らばすように湯船に落とし、豊満で健康的な褐色の身体を惜しげもなく晒し、両手を伸ばてお湯を肌に擦り付け、鼻歌を歌っていた。

 ちなみにアケは、長い黒髪をお団子にし、黒い布の代わりに厚手の手拭いを顔に巻いて、無駄な抵抗だが青猿とウグイスに身体を見られないように身を縮こませて大事な部分を隠していた。誤解のないように言うならアケの身体も女性的なしなやかさと魅力が溢れているのだが、自分に自信がないので2人の健康的な身体を見てどうしても劣等感が湧いてしまっている。

「ウグイス・・・近いよ・・熱いよ・・」

 アケは、ほっぺたがくっつきそうなくらいに間近に迫ったウグイスの綺麗な顔にお湯の熱さとは別の意味で頬を赤く染めながら言う。

 しかし、ウグイスはそんなアケの言葉が耳に入っていないのか、答えずに青猿を睨みつける。

 青猿は、人差し指の先から落ちる雫を見て眉を顰める。

「うーんっ気持ちいいが癒しと疲労を取るにはイマイチか」

 青猿は、人差し指の先をお湯に付ける。水面が小さく波打ち、深緑の魔法陣が描かれる。

 ウグイスの表情が強張り、アケの身体を引っ張って自分の後ろに庇うと水色の魔法陣を展開する。

 アケは、引っ張られた勢いにお湯の中に沈んでしまう。

 深緑の魔法陣が水面と共に大きく揺れ、現れたのは蝶の群れだった。

 赤、白、黄、桃、紫の艶やかな色の蝶が湯気に揺られながら浴場を舞い上がる。

 ウグイスは、黄緑色の目を大きく見開き、驚きに魔法陣が解ける。

 水面から顔を上げたアケも口を丸く開ける。

 アズキは、興味津々に左手を動かして蝶を捕まえようとする。

 よく見るとそれは蝶ではなく、花であり、羽と思われたのは大きな花弁であった。

 蝶を模した花達はゆっくりと舞いながら徐々にお風呂へと近づき、その身を湯船に落としていく。お湯に触れると花弁が大きく開き、甘く、清涼な香りを漂わせる。

 瞬く間にペパーミントバードの風呂が幻想的な風景に変わる。

癒しの蝶花(エーディン)だ」

 青猿は、赤い花弁をお湯と一緒に掬い上げる。

火猪(ひのしし)の癒しの炎のような治癒と同時に解毒、疲労や精神の安定(リラックス)にも効果がある」

 そう言って褐色の肌に花弁ごとお湯を掛ける。

「美肌効果も抜群だ」

 青猿は、悪戯っぽく笑う。

 そう言われてみれば先ほどまで鉛のように重かった身体が少し軽くなった気がするとアケは思った。両手を合わせて器を作り、花弁ごとお湯を掬う。

「これも魔法なんですか?」

 アケの質問に青猿は、頷く。

「そうだ。と言っても精霊ではなく精命(ガイア)だがな」

 ガイアっと言う言葉にアケは、反応する。

 それは邪教の本来の名前だ。

 アケの反応に青猿は、眉を顰める。

「どうかしたのか?」

「いや、今、ガイアって・・・」

 アケの言葉に青猿は「ああっ」と納得する。

「邪教の名前と一緒と思ったのか?」

 青猿の言葉にアケは頷く。

 青猿は、右頬を掻く。

「一緒なのは仕方ない。精命(ガイア)ってのは巨人のことだからな。私達、5柱の王は、巨人の力を魔法に変えてるんだ」

 アケの心に雷に似た衝撃が走る。

 青猿は、赤、黄、白、紫の花を手に取る。

「本来、この世界を構成しているのは4大元素と言われる火、水、風、土の精霊(エレメント)だ。この4つは世界の根元であり、魔法の源だ」

 青猿は、手に取った花をゆらゆらと手でもて遊ぶ。

「精霊には莫大な力があるが意志と肉体が存在しない。だから魔力を生まれ持つもの達は魔法として操る事が出来る。しかし、どんな物にも進化というものが存在する。人間が猿から進化したように。精霊(エレメント)から進化したもの。それが精命(ガイア)だ」

 青猿は、手に取った花を両手でぎゅっと握りしめる。そしてゆっくり開くと赤、黄、白、紫の混じり合った大きな花が現れる。

精命(ガイア)は、強大な力と意思を持つ。だから魔法として扱うのは困難だし、その気になれば世界を破滅させることさえ容易い」

 青猿は、色の混じり合った花をお湯に浮かべる。

「力を求め、憧れる邪教が崇めるのも無理はない。まあ、決してコントロールなんて出来はしないがな」

 アケは、色の混じり合った花を蛇の目で追う。

 それではその強大な力を魔法として扱える5柱の王とはなんなのだ?

(そして私は・・・)

 アケは、厚手の布の下に隠れた本来の目の部分を触る。

「心配いらないよ」

 青猿の言葉にアケは、蛇の目を大きく開ける。

 青猿は、深緑の双眸を細めてアケの顔を見る。

「確かに白蛇の紐で封印こそしてるが、どう言うわけか幼妻の身体と百の手の巨人(ヘカトンケイル)の魔力が綺麗に合わさってるんだ。まるで二つに割れたものがくっ付いてるみたいに」

 青猿は、自分の両手の平を合わせて表現する。

「白蛇の奴が強い封印にしなかったのもその辺が理由だな。魔力の均等が崩れたらあんたの身体爆発しちまうからな」

 アケは、自分の身体が温めすぎて割れた茹で卵になったのを想像する。

「まあ、それだけの魔力を身体に納めて何ともないなんてカーバンクルみたいだな」

 アケは、聞いたことのない単語に蛇の目を顰める。

 しかし、その質問を青猿にすることは出来なかった。

 青猿は、アケの横で黄緑色の瞳を激らせて自分を睨むウグイスに目をやる。

「まだ、怒ってんのか?」

「当然!」

 ウグイスは、唸りながら言う。

「例え王と兄様とアケが許しても大切な友達を傷つけたあんたを私は許さない」

 ウグイスの言葉をアケは、純粋に嬉しく感じた。

 しかし、同時に困ってしまう。

 アケ自身は、元々怒っているわけでもないから許すも何もない。しかし、ウグイスは、純粋にアケの身を心配し、アケの為に怒り、アケを傷つけた青猿を恨んでいるのだ。

 それに対してアケは、どう声を掛けていいか分からなかった。

「許してくれなくていいぜ」

 青猿の発した言葉にアケは、蛇の目を大きく開く。

 ウグイスも黄緑色の目を震わせる。

 青猿は、青い髪を両手で纏めてぎゅっと絞る。

「友達を傷つけられたお前の気持ちは最もだ。私だって子ども達を攫って傷つけた奴らを許す気なんてない」

 青猿は、新緑の双眸をアケとウグイスに向ける。

「ただ、せめて事が解決するまで我慢してくれねえか?全てが終わったらどんな形でも償いをする。命を渡せと言うなら幾らでもくれてやる」

 そう言って褐色の乳房を拳で叩く。

「すまないがそれまで我慢してくれ」

 青猿は、水面に顔を沈めて頭を下げる。

 アケは、蛇の目を動かしてウグイスを見る。

 ウグイスは、黄緑色の瞳を細めてじっと青猿を見て、口をへの字に曲げる。

「・・・子どもに罪はないわね」

 ウグイスは、ぼそりっと呟く。

「ちゃんと責任取ってね」

 そう言って顔の半分を湯船に沈めてぶくぶく息を吐く。

 青猿は、水面から顔を上げる。

「ありがとう」

 青猿は、口元に笑みを浮かべてウグイスに礼を言う。そして深緑の双眸をアケに向ける。

「あと、幼妻」

「はいっ」

 アケは、思わず声を上擦らせる。

 幼妻という言われ方にまだ慣れない。

「お前もあんまり気負わなくていい。私に協力すると言った手前もあるだろうが、自分の生まれ育った国が関わることだ。出来ることだけしてくれればいい。それだけで私は満足だ」

 青猿の言葉にアケは、蛇の目を顰める。

「でも、それじゃ貴方の子ども達が・・・」

「確かに心配だ。今、考えるだけで腑が煮え繰り返り、悲しみに潰されそうになる」

 青猿は、奥歯を噛み締める。

「攫われた子ども達の親は、眠る事が出来ず、食事すら喉に通らない」

 青猿の言葉にアケとウグイスは、目を大きく開けてお互いの顔を見合わせる。

「親?」

 2人の反応に青猿は、深緑の双眸を何度も瞬きをする。そしてその理由に思い至り、右手を握って左の手の平を叩く。

「そうか。ちと誤解を与えちまったか」

 青猿は、左の頬を掻く。

「子どもって言うのはうちの国の民のことだ。そして邪教に誘拐されたのはうちの民の子ども達だ」

次回、青猿の過去が話されます

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