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【完結】--新生--生まれ変わって山へ、宇宙へ  作者: 浅間 数馬
第一章 生まれ変わる
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5. はじまり

2年間で5回のセミナーを受講した夫は生まれ変わることに決めました。そしてもう1年かけてカウンセリングや各種手続きを終えました。

今日は正式な新生制度適用の申請日です。そしてDNA採取のための細胞サンプリングも行います。

=====



「留浦様。この度は新制度への正式お申し込み誠にありがとうございます。こちらにPDAをかざしてパスコードを入力してください。はい、ありがとうございます。お申し込みはこれで完了です」


3年も準備してきたのに一瞬で手続きが終わった。これならオンラインでも良さそうなものだが。

セミナーの後、仮申し込みをしてカウンセリングを受けた。身体検査をして遺伝的な問題を洗い出してもらった。大きな問題はなかったが、皮膚がかぶれやすいので少し強くしてもらえることになった。


「それではDNAを採取させていただきますので、2階の会場に移動してください」


別の人がエスコートしてくれるので階段で2階に行った。そう。今日はこっちがメインだ。

エスコート係の人がノックして更衣室に入った。中にはロッカーが6台あった。3台は鍵がない。鍵には手首にはめるためのカールコードのようなストラップが付いている。


「私が外に出ましたら中から扉に鍵をかけて、こちらの処置着に着替えてください。眼鏡と靴下とアンダーシャツは身に着たままでも結構ですが、下着は脱いでください。履き物は備え付けのスリッパに替えてください。お着物と履き物は空いているロッカーに入れて鍵をかけてください。お着替えが済みましたらロッカーの鍵を腕に付けて、PDAを持ってロビーのソファーでお待ちください」


ま、人間ドックとかと大体一緒だな。パンツを履かないこと以外は。

季節は春、外はちょっと肌寒いがこの施設は室温が高めだ。寒くはない。

着替えを終えてソファーに座っていると3分ほどで係の人に声をかけられた。


「留浦様ですね。こちらへどうぞ」


通されたところは診察室だ。医師らしき人がPC画面に表示された資料を見ていた。


「PDAをこちらにかざしてください」


小型のリーダーを差し出すのでPDAをかざした。


「ありがとうございます。念のためお名前と生年月日をお願いします」

「はい。留浦孝、20XX年4月XX日です」

「結構です。今日の体調はいかがですか?」


簡単な問診と視診、触診で完了だ。この程度のチェックならばこんなオーソドックスなやり方ではなく、自動診断装置に入って一瞬で終わりそうなものだが…… あれか、老人はこの方が納得するか。まだ58なのだが。


「麻酔で気分が悪くなったことはありませんか?」

「全身麻酔はやったことがないです。部分麻酔は問題ないです」

「解りました。問題ありません。ロビーでお待ちください」

「ありがとうございました」


ロビーに戻るとさっきは居なかった女性が処置着を着てソファーに座っていた。人間ドックほど混んではいないが、それなりに対象者はいるのだな。


PDAでニュースを読みながら5分待った。まだかな、と思ったところで迎えが来た。


「留浦様、お待たせしました。こちらにお願いします」


施設の奥の方にある部屋に通された。部屋の中では白衣を着た男性が立って待っていた。医師と言うよりは技師に見える。

さっきと同じようにPDAと口頭で個人確認すると、カゴを差し出された。


「PDAとロッカーの鍵と眼鏡はこちらのカゴに入れてください。こちらで責任を持ってお預かりします」


技師はカゴを机の上に置くと、男性看護師がやってきた。


「点滴の針を刺させてください」


促されるまま椅子に腰掛けて、スタンド式の腕置き台に左腕を差し出す。お、この看護師さん注射上手いな。全然痛くない。

針を刺したものの、そこから伸びる短いチューブの先には接続コネクタだけが付いている。その先は何も付けない。


技師が部屋の中央にある『ヘ』の字型のベッドのようなものを手で指した。


「こちらの台に伏せてください。頭を向こうにして、角の部分にお腹を当てるように」


への字と言っても頭側はそれほど下がってはいない。頭に血が上るようなことはない。


「腕は前に出してそこの突起を掴むようにしてください。力は入れなくて良いです。では全身麻酔をしていきます」


看護師がさっき刺した針のチューブにいろいろ接続していく。点滴の他にジョイント部分にシリンジを取り付けて薬物を注入した。そして……




気がつくとベッドの上で仰向けに寝ていた。まだ点滴が続いている。手足の指を動かしてみる。特に異常はなさそうだ。

まだ意識がはっきりしないが、周囲の様子を見てみる。それほど大きな部屋ではない。病室ではないようだ。経過観察室といったところか。

左側はカーテンで仕切られていて、もう一台ベットがありそうだ。カーテンが引かれているってことは誰か寝ているのだろう。

壁には時計があった。眼鏡がないのでよく解らないが、あれから1時間ちょっと寝ていたようだ。


しばらくすると女性看護師が様子を見に来た。


「留浦さん、気づかれましたか。問題なくすべて終わりましたよ。あと10分ぐらいで点滴が終わりますから、それまでもうしばらくこのまま横になっていてください」


体には薄手の掛け布団が掛けられている。

待っている間、針の刺さっていない右手であそこをまさぐった。さっきから違和感を感じているが、触ってみるとガーゼが貼り付けられていた。しかし、なんでこんなところから採取するんだろうな。麻酔しないと死ぬほど痛いんだろうな。女性は腹部を少々切開するから一泊入院だと聞いた。それに比べたらずっとマシか。

10分後。点滴が終わるとすぐに男性看護師が現れた。


「針を抜きます。ちょっとチクッとしますよ。はい、抜きました。痺れとか痛みはありませんか? じゃ、体を起こしてください。

ふらつきとか目眩は大丈夫ですかね? スリッパはそこに置いてあります。廊下のベンチでお待ちください」


部屋を出るときにカーテンの隙間から隣の人がチラリと見えた。眼鏡をかけていないのではっきりとは見えないが、やはり同年代の男性が寝ていたようだ。

言われたとおりベンチに腰掛けるとすぐさまスーツ姿の女性事務員が現れた。


「お名前を教えていただけますか? はい、留浦様ですね。こちらが留浦様の眼鏡とPDAとロッカーの鍵です。こちらへどうぞ」


案内されたのは最初に入った更衣室だった。


「お脱ぎになった処置着はこちらのかごに入れてください。処置した場所のガーゼが外れないように注意してください。お着替えが済みましたらロビーのソファーにお掛けになってお待ちください」


丁寧だが事務的に淡々と進んでいく。おっと、パンツを履こうとしたらふらついた。まだ麻酔が残っているのかな。ああ、トイレに行こう。


トイレに寄ってからロビーのソファーに腰掛けて5分ほど経つと麻酔が切れてきたようだ。あそこが少し痛い。お尻をすぼめるようにするとちょっと楽だ。

そんなことを感じていると女性の事務員がやってきた。


「留浦様、こちらへどうぞ」


案内されたのは小部屋だった。カウンセリングルームといった感じか。

中央にテーブルがあり、向こう側にスーツを着た男性が座っていた。男性が立ち上がって着席を促す。言われるままに手前の椅子に腰掛けた。


「お疲れ様でした。DNAの採取は完了しました。正確にはまだ細胞だけで、DNAの抽出はこれからですが…… 簡易検査では問題なくクローニングできるという結果が出ています。処置した場所のガーゼはあと5時間ほど付けておいてください。薬などは特に出ていません。点滴の後のガーゼは1時間ぐらいで外していただいて結構です」

「はい、わかりました」

「今後の予定については既に説明を受けておられると思いますが、簡単におさらいします。

3日以内に最初の細胞が作られます。『ヒト胚』というモノですね。そこから倍速で培養されますので、5ヶ月足らずで新生児になります。

段階的に容器を大きいものに替えながら培養を続けていきます。

この様子は留浦様専用のポータルサイトでいつでも好きなときにモニターできますし、半年ごとにレポートをお送りします」

「わかりました」


「えー、留浦様ご自身のイベントとしては、次回は9年後、20XX年の1月から3月の間に1回目のニューロンパターンのスキャンを行います。これも半日ぐらいかかるイベントです」

「はい、承知しています」

「それまでの間、痴呆症になったり頭部を怪我したりしないようにご注意ください」

「はい」

「ご説明は以上です。ご質問はありますか?」

「大丈夫です…… あ、一つだけ」

「はい、どうぞ」

「なんであんなところから採取するんですかね? 調べたんですけど解らなくて」

「ああ、技術開発の段階でいろいろな細胞からクローニングを実験したんですけど、生殖細胞のDNAが一番成績が良かったんですよ。そういう目的の細胞だからじゃないか、っていう解釈ですが、神のみぞ知るっていうところですかね」

「はあ、そんなものですか」

「はい。他にご質問がなければこちらにPDAをかざして説明を受けたことを承認してください。はい、結構です。お気を付けたお帰りください」



=====

ついに培養が始まりますよ。ここからは新しい体の成長を待たなければなりません。

私たちは少し先に進みましょう。まるでムービーをスキップするみたいに。5次元空間はとても便利でしょ。

4次元世界の皆さん。限定的ではありますが、5次元空間の人々とコミュニケーションをとる方法が発見されました。


1つはこの下にある「いいねで応援」のアイコンをクリックするというもの。

もう1つは星ボタンを押すと言うものです。

さらに「感想を書く」と別世界の人からメッセージが返ってくる可能性もあります。


そして、なんと! 4次元世界の皆さんも時間を遡ることができます。

この下にある「≪前へ」をクリックすると過去に戻れるのです。

ぜひ過去に戻って「いいねで応援」してください。


これらのコミュニケーションによって、別世界の人のモチベーションが上がって展開が広がったり、公開ペースが速くなる可能性があります。ぜひお試しください。

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