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【完結】--新生--生まれ変わって山へ、宇宙へ  作者: 浅間 数馬
第一章 生まれ変わる
5/43

4. 出逢い

年齢を修正しております。新生した歳に18歳になります。

新生の準備を始めて1年半。夫は56歳半ばになりました。今日は4回目のセミナーの日です。

あらあら、あなたはもうセミナーに飽きたんですか? もう少しお付き合いください。今回はちょっとした出逢いがあるんですよ。

=====



4回目のセミナーはオフラインで新生体験者との懇談会だ。

何しろ、新生者が差別の対象になる恐れもあるため、新生したかどうか公表していない。本気で調べれば解ることだが、一つの個人情報だ。門地や信条ぐらいデリケートなので一般には尋ねることもない。そのため、映像では見たことがあるが、新生者を直接見るのは初めてだ。この会場でも新生者と対話したことがある人はいないようで、皆興味津々だ。

プライバシー保護のため、体験者側の名札にはアルファベットが表示されている。受講者側の名札は数字だ。

司会者が出てきた。始まるようだ。


「本日は実際に新生された方と直接お話しすることで、皆様の疑問や不安にお答えします。

AさんからEさんまで、5人の方が協力してくださいます。ありがとうございます。

受講者の皆様にも1番から12番まで番号を振らせていただきました。プライバシー保護の観点から、本日はアルファベットと番号でお呼びいたしますので何卒ご容赦ください。

それでは、体験者の方に現在の年齢とご職業などの自己紹介をお願いいたします。Aさんから順にお願い致します」

「はい、Aです。私は現在27歳で、生まれ変わって11年目です。現在は市役所に勤めています」

「Bです。23歳です。昨年大学を卒業して広告業界に入りまして、就職して2年目です」

「Cです。20歳です。アニメーターになりたいので専門学校に通っています」

「Dです。19歳です。私は宮大工になりたかったので大学には行かず、無所属の親方に弟子入りして修行中です」

「Eです。今は18歳です。もうすぐ19歳になります。昨年生まれ変わりました。大学に入るつもりで受験しましたが、……浪人中です。今日は日当がいただけるということで来ました」

「えっと、Eさん、最後のところはちょっと…」

「あ、済みません」


会場に笑いが起こった。なるほど。謝礼が出るんだな。それはそうだろう。誰も責めたりしないから気にしなくて良いよ。

おっと、あちらの方が年上だった。若く見えるからな。学生を見ている気になっていたぞ。

わざわざ性別を言ってはくれないが、容姿や声の感じからするとAさんとEさんが女性で、あとは男性か。


「それでは受講者の皆さんから質問をお受けいたします。質問したい方は挙手をお願いします。はい、では3番の方」

「皆さんにお聞きします。生まれ変わることに不安はなかったですか?」

「Aさんから順番に答えてください」

「はい。私は制度が始まってすぐでしたから、本当に不安で。今日のような対談の機会もなくて…… でも、このまま年老いて死んでいくのなら…… そう思って清水の舞台から飛び降りるつもりで生まれ変わりました。今は生まれ変わって良かったと思っています」

「私も不安でした。私の場合、新生してこの体を培養している最中の63歳の時に新生者と対話する機会がもらえました。なので、準備期間の後半は気分が少し楽になって準備ができました」

「僕の場合は前世がつまらなくて不満ばかりだったので、生まれ変わりは不安よりも希望の方が大きかったです。何もためらわずに夢だったアニメーターを目指して邁進しています」

「僕も同じです。前世で子育てが終わってから夫婦で各地を旅行したんですが、そこで見た神社仏閣に魅せられて、自分でもこんな千年も二千年も残るものを作りたい、って思いまして。夢とか希望とか持っていると何も怖くないですよ」

「私の場合は…… なんというか前世の記憶の後半がはっきりしなくって、ちょっと皆さんの参考にはならないと思います。ごめんなさい」

「ちょっと補足させていただくと、Eさんはご事情があってニューロンパターンを少々補正されています。そのために若干記憶の混乱がおありですが、日常生活には支障がありません。詳しくはお話しできませんが、技術的な問題ではありませんので受講者の皆さんには心配ありません」


心配ないと言われても気になるぞ。一応私も学者だ。ニューロンパターンは情報工学も関係しているから全くの門外漢というわけではない。後で調べてみよう。


「次に質問のある方は…… はい、9番の方、どうぞ」

「今のお仕事、これから就こうとしているお仕事はいつ決めたんですか?」

「では今度はEさんから逆順にお願いします」

「あ、はい。えっと、私の前世の記憶は後半がはっきりしないんですけど、確実に覚えているところでは大学の講師をしていました。新生してから自分の論文を調べたんですけど、やっぱり記憶がない辺りから数年経った頃から論文が書かれていないんです。なので、大学に行き直して、そのまま大学に残って研究生活を取り戻そうと思います。まだ大学入れてないですけど」


同情する人がたくさんいる中、失笑している人もいる。ちょっと無礼だぞ。研究生活、良いじゃないか。


「Dさん、お願いします」

「はい。先ほどお話ししたとおり、前世で神社仏閣を作りたいと思ったので、どうしたら宮大工になれるのか新生前に調べました。そして、今の親方のことを知りまして、新生前に弟子入りをお願いしていました」

「それは良いのですか?」

「はい、制度上、お勧めはしませんが、禁止もしていません。自分が新生者だということを伏せたい方はしない方が良いでしょうし、気にされない方は事前に準備することも問題ありません」

「そうなんですね。わかりました」

「ではCさん。お願いします」

「僕は、前世で上手く生きられなくて、いつも不満を抱えて漫画とアニメに逃げていました。新生の話が出てきたところで漫画やアニメの仕事をしようと考えていましたが、漫画家にはとてもなれないし、編集とかもちょっと違うかなって思って、アニメーターにしました。昔はブラックな職場って言われてましたけど、今は大分改善されたって聞いてますし」

「私は…… ちょっと恥ずかしいんですが…… 特に目的なく大学に入って就職まで時間を稼いでいました。いよいよ就職活動しなければならなくなって、いろいろな会社を回って今の会社にしました。決め手はアイドルとかタレントとか有名人が好きでして、広告業界に入ったらそういう人に会えるんじゃないかなって思ったんですけど、今はクライアント回りなので全く会えません」


会場がまた失笑した。ま、この人は受け狙いでもあるんだろう。


「Aさん、お願いします」

「はい、私は前世で自営業の夫の仕事を手伝っていました。生まれ変わったらもっと安定した仕事と暮らしが欲しいと思っていたので、生まれ変わってから公務員になろうと決めました」


司会者が締める。


「仕事に関しては生まれ変わる前に決めている人が多いですが、生まれ変わってから決めても良いでしょう。決まっている方の中にはDさんのように大学や専門学校に行かずに直接仕事に就かれる方も多いです。また、高額な資産をお持ちで、いきなり投資家になった方もいらっしゃいます。いずれにしても今から考えておくと良いでしょう。

では次の質問に…… 7番の方、どうぞ」

「その、答えにくいかもしれませんけど、新生者って差別を受けるのですか?」

「差別が全くないかというと…… そこは人のサガなんでしょうね。いくつか事例は聞いています。お話しできる方だけで結構です。体験者の方で差別を受けた方は挙手をお願いします…… はい、Aさん、お願いします」

「公務員という仕事柄、多くの市民の方とお会いするんですけど、その中には新生者の方もいらっしゃいます。私は新生した方もそうでない方も同じだと思うんですけど、新生していない同僚からは『あなた新生者なんだから新生者の気持ち、解るでしょ。この方の対応お願いね』って言われることがよくあります。その同僚に悪気はないと思いますけど、差別というか、区別されているような気はします」

「あ、それなら。大学に行っているとき、同級生に『お前、大学2回目だろ。ちょっと教えてくれよ』って言われることはよくありましたね。それと、今のクライアント回りの仕事でも、『若いのにマナーがしっかり身についてるね。あ、新生者? それは失礼しました』って言われることがあります。どちらにしても差別と感じるかどうかは受け手である我々の気持ち次第だと思いますから、気持ちに余裕を持っていれば大丈夫だと思いますし、新生者がどんどん増えれば気にならなくなると思います」

「Bさん、ありがとうございます。差別は難しい問題ですが、Bさんのおっしゃるとおり、受け手の気持ちに余裕があれば軽く受け流せるモノも多いです。受講者の皆さんも心を育てることを考えてみても良いかと思います」


差別は人のサガか。そうだな。世の中が発展してもなかなか無くならないものだな。難しい問題だ。


「他に質問のある方はいらっしゃいますか? はい、11番の方」


私が指名された。聞いて良いものかどうかためらっていたが、思い切って聞いてみよう。


「大変失礼とは思いますが、皆さんの自我というかアイデンティティーというか、もしくは人格でしょうか。そういった観念で見て、ご自分が生まれ変わる前と確かに同一人物であるという自覚はお持ちですか?」


会場が凍り付いた。やはりまずいことを聞いたか。いや、受講者側は誰も考えたことがなかった風だな。体験者側は……


「知識、記憶、思考の傾向などが新生前後でまったく同一であることは科学的に証明されています。体験者の方が実際にそう感じているか? というご質問でしょうか?」

「ええ、その解釈で結構です」

「では、体験者の皆さん、挙手でご回答ください。新生前後で同一人物だと感じていらっしゃる方」


A,B,Dの3人が手を挙げた。司会を飛び越して直接質問しよう。


「Cさん、違和感があるのですか?」

「いえ、違和感というか…… 性格が明るくなったように感じます。好きなことに取り組んでいるからなのか、前の人生がひどすぎた反動かもしれません。そういう意味で別人に生まれ変わったような気もしますし、実際、以前の私を知る人は皆『別人のようだ』と言います」

「なるほど。わかりました」


Eさんにも詳しく聞こうと視線を送ると、様子がおかしい。震えているようだ。なんだかひどく動揺しているように見える。


「私は…… 私は……」

「Eさん、大丈夫ですか? 落ち着いてください」

「私は…… 私は……」


司会者が慌ててPDAで連絡を取る。2分ほどで応援が2人やってきて、Eさんを連れて部屋を出て行ってしまった。

何と言うか…… 受講者側の視線が気まずい。

司会者が提案してきた。


「予定にはありませんでしたが、ここでちょっと休憩しましょう。10分後に再開します」


人数が減ったところで司会者のところへ行って謝罪した。


「済みません。とてもまずいことをお聞きしてしまったようで……」

「いえ、ちょっと予想外のご質問でしたが、問題はないと思います。先ほども申しましたが、Eさんにはちょっと個人的な事情があるので、それが関係していると思います。その事情というのも上からそう聞いただけでして、私もよく知らないのですが…… あ、このことは他言無用に願います」

「そうですか。解りました。Eさんには私が謝罪していたとお伝えください」



=====

うふふ、夫さん、やってしまいましたね。でも良いのです。これで。

この先が楽しみになってきましたよ。私の声を感じているあなた、あなたもこの件を忘れないでくださいね。

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