20. 地球
紗綾香「私達はあれから5年後に来ました」
光2「喜界カルデラの破局的噴火から8年ですね」
留浦2「L1-BJの完成の翌年にL2-J1の建設が開始されたね」
光2「資源小惑星の到着2年前ですから、随分頑張りましたね」
留浦1「それだけ政府が本気だってことだ」
留浦2「でも、堺夫人、ちょっと強引すぎましたかね」
光2「そうね。L2-J1の建設開始と平行して新生制度の改革にも手を着けていましたからね」
留浦2「その結果、新生制度は厳格化されたけど、堺夫人は与党内の勢力争いに敗れて失脚しちゃったね」
光2「堺夫人は一息ついた感じね。元社長の旦那さんが過労死されたのもショックよね」
留浦2「そうだね。新生制度の厳格化を推進してたから、労災での新生適用はできなかったしね」
留浦1「そうだな。いろいろなことが一段落付いた感じだな。皆揃っての3代目の見守りはこの辺りで終わりにしよう」
紗綾香「そうですね。では、夫さん。いつのどこに行きますか?」
留浦1「やはり、宇宙の始まりから終わりまでをざっと見てみたいな」
紗綾香「そうですね。では、時間の始まりの少し手前に行きましょう。あなたたちはどうしますか?」
留浦2「俺はもうちょっと3代目を見守ります」
光2「私はいつでも孝と一緒に居ます」
紗綾香「そうですか。では、一旦ここでお別れですね。またいつか会いましょう」
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地球寒冷化は決定的だ。ものすごく暑い年もあるが、寒い年が多い。寒いときはあの東京ですら夏が感じられないという。『冬がなければ亜熱帯』と言われたあの東京がだ。
日本はもう四季がある国とは言えない。大変な事態だ。
オホーツク海は凍り付いている。シベリアや樺太から動物が氷の上を渡って来ているそうだ。時々間違えてホッキョクグマが来ちゃうみたいで大騒ぎになる。
そして、R国から良からぬ人々もやってくるそうで、国境警備が難しくなっている。
俺と光は新生後40歳になった。俺は通年で119歳、光は140歳だ。今でもL1-BJに住んでいる。
L1-BJでは使わない建物が撤去されたり、区画整備が行われて農場が広がった。すっかり地方の街のようだ。プランターは大分減ったが、稲作が面白くて続けている人も少なくない。
人工林は植樹が増えて当初計画の7割ぐらいになった。その分、無理に作った畑は大分減った。
農作物の生産は、質、量、種類が増えて、地球に対してそれなりの供給源として機能している。
だが、一番の成果は観光業だ。
こちらの情報が周辺コロニー漏れて、他のコロニーでも人工林が増え始めたが、BJほど良い林はできていない。だから相変わらず観光客が大勢やってくる。お陰で当初計画の3,4倍の速さで建設資金が回収できている。
その回収した資金がL2-J1とB1の建設に回されている。素晴らしいぞ。
さて、俺の家族だが、乾は15歳。ケンだぞ。カンじゃない。
大分大人っぽくなってきた。子供の頃からL1-BJで暮らしているので大勢の人間と接したことがない。歴史にも触れたことがない。そこで京都の全寮制の高校に進学させることにした。
勧めたのは俺だが、もちろん本人がその気になったんだ。強制じゃない。
でも15歳で150万kmも離れたところに1人だなんて、とても心配なので未来に監督を頼んだ。光も納得だ。
未来は今55歳。相変わらずパートナーと2人でのんびりやっている。子供は産まなかったし、新生する気も無いそうだ。
その話を聞いたとき、なんだか俺の人生が全否定されているような気がして落ち込んだよ。だけど光に諭された。ただ単に個性の違いなのだと。
サクラは8歳、大地は6歳。まだまだ子供だ。当分俺たちの手元で育てていく。
樹は53歳だ。もう新生すると決めている。今のままだとL2-J1の建設初期段階で引退になってしまう。L1-BJの建設では終盤からの参加だったからな、最初から最後まで参加したいと強く希望している。
新生制度はそういう人にこそ使ってもらうものだ。だから宇宙関係者は利用する人が多い。
孫のソラは25歳になった。L1-BJでの暮らしが影響したのか、日本で農大を卒業して農業法人に就職した。今は小笠原諸島沖のメガフロート農場で働いている。
ジクウは19歳。大学生だ。地球物理学を学んでいる。喜界カルデラの破局的噴火は、幼かった彼に大きなショックを与えたんだな。
日本は火山が多い。もうしばらくしたらまた富士山が噴火するかもしれない。プレートテクトニクスに起因する大地震も来るだろう。少しでも予兆が把握できるようにしたいと意気込んでいる。
ところで、破局的噴火の翌年から日本の出生率が改善傾向にある。きっかけは破局的噴火直後の境首相の談話だ。
『でも皆さん、人類はまだ滅んでいません。日本も滅んでいません。日本政府は機能しています。日本人はたくさん生き残っています。我々はもう一度立ち上がり、さらなる発展を目指すべきです。子を産み、育て、人を増やし、産業と文化を発展させるのです』
この言葉がいろいろな角度から考察された。そして、人のあるべき姿というものを考えるようになったんだな。やっぱり新生で同じ人が何度も若返るより、子供を産んで育てる方が自然であるべき姿だと。
そんな折りに大地誕生のニュースが日本にも流れたんだ。まだ暗かった日本社会にちょっと希望が沸いた。そんな感じかな。
逆に新生希望者は減少傾向が見られる。人々が自然を意識したせいかも知れないな。
境元首相も喜んでいた。『あんたのお陰だよ』なんてメッセージが届いたよ。俺としては気恥ずかしかったな。
昨年、その堺元首相に対して暗殺未遂事件が起きた。
犯人はテロリストではなく一般人だった。背景はちょっと複雑だ。
喜界カルデラの破局的噴火で多くの方が亡くなった。その中には新生制度によってDNAの採取とニューロンパターンのスキャンが行われていた人も大勢含まれていた。そして、それらのデータは被災地から遠く離れた場所で多重にバックアップされていて無事だった。
当然、そのバックアップを使って新生させてくれ、という声は上がる。人口も急激に減ったしね。
だが、被災直後は救援と復興で手一杯だ。被災者の新生は後回しになった。それは仕方が無いよね。犯人もそこまでは納得していた。
ところがだ。世の中が落ち着いてきたというのに、被災者の新生は一向に始まらなかった。それどころか新生制度の厳格化が国会で議論され始めた。
犯人はヤキモキして成り行きを見守っていたようだが、ついに新生制度の厳格化が決まり、本人の意思が明確でない場合は、家族が望んでも新生できなくなった。
このため、労災保険でスキャンしていた人は新たに意思確認を求められることになった。そして、明確な意思がない場合はニューロンパターンとDNAのデータを一旦破棄することになった。
もちろん、労災保険で新生を望まない人も、その後の年金制度での新生を改めて申し込むことはできる。
ところで、堺夫人を暗殺した犯人の親族、奥さんだそうだが、その人は地方公務員で労災保険でのスキャンされた人だった。俺と丸かぶりの状況だな。そして、噴火の時、犯人は東京に出張していたそうで、奥さんと離れ離れになってしまったんだな。
改めて本人の意思確認ができないため、犯人の奥さんのデータは自動的に削除された。
その削除完了通知を受け取ったとき、犯人は犯行を決意したという。データが残っている間はいつか新生できるという希望があった。だが、削除されればすべてが終わりだ。
新生制度の厳格化を強く主導していたのは堺夫人だ。失脚したからといって許すことはできなかったという。
世論の中には犯人に同情したり、擁護するようなものもある。被災者が多かったからな。同じような立場の人も大勢居たんだ。
堺夫人は一命を取り留めたが、日常生活にも支障をきたすような障害を負ってしまった。
退院後は政治家は完全に引退し、執筆活動などを行っている。俺と時々メッセージ交換もしている。
『命をかけて仕事をしていたから、こういうことは覚悟していた。犯人のことは恨んでいない。むしろ命拾いした』だそうだ。強い人だね。
サカイ林業元社長の旦那さんは4年前に過労で亡くなっていた。1人で寂しいと思うが、そんなそぶりも見せやしない。
先月、河内がL1-BJにやってきた。研修だそうだ。L1-BJについて根掘り葉掘り聞かれたよ。
河内は樹の部下になったそうだ。
『昔の知識が全然役に立たない』と河内は言っていたが、あとで樹に聞いてみると『細かいところによく気がつく。慎重さって言うか、入念に検討するところに前世の経験が活きてるんじゃないかな。良い先輩で良い部下だよ』だそうだ。
何にしても仲良く宇宙開発が進むと良いな。
地球環境はメチャクチャだ。
氷期に入ったことは確実だ。毎年の年間平均気温が乱高下している。
長期天気予報はまったく当たらない。過去のデータがまるで役に立たない。予報用の新しいモデルを研究中だ。
メガフロート農場はまだ本格操業を始めたばかりだが、なかなか上手くいっているようだ。
漁業基地も兼ねているので、小型船での遠洋漁業が可能になっている。食料調達は改善傾向にある。
核融合発電所の建設が増えている。燃料代がただ同然なので電気代も安くなっている。たとえ街が氷河に覆われても、建物の中は十分暖房できる。
核融合で作り出される膨大な熱は発電では使い切れない。余った熱でそのまま近隣都市に温水を供給している。冬はそのまま暖房に使えるからなお安心だ。
電力が十分にあるので、北海道や東北地方では閉塞空間林野研究設備を応用した半閉塞農業工場が建設されている。普通の農業工場は水栽培とか空調とか、不自然極まりないが、閉塞空間林野研究設備を応用しているのでもっと大きな環境で、複数の作物を栽培することで、擬似的な集団として生育している。おそらく、人間がまだ知らない方法で互いに強調しているんだろうな。
さらに、L1-BJを参考にして、10ヶ月周期で四季を作っている。L1-BJよりも多彩な作物を作っているので、食文化の維持ができそうだ。
寒冷化前に比べれば、まだ生産量は微々たるものだが、将来への希望につながっているんだ。
そして、食糧事情が改善する見込みが立ったので、その他の産業も元気が出てきた。経済は回復基調に乗っている。
温暖化対策とかいうネガティブな努力をしなくて済むので、エネルギーをふんだんに使って以前よりも元気が出ているかもしれない。
同じように、世界的に核融合技術が普及しているので、先進国はどこもエネルギー問題は無い。だが、地理的に食料の調達が難しい国もある。温室や工場では規模が小さくて生産量が消費量に届かないんだ。
そんなわけで、なんと日本が食料の輸出を検討している。変われば変わるものだ。
問題は新興国だが、赤道に近い国々は気候変動の影響が少ないので、今のところ大きな騒ぎにはなっていない。だが、先を見据えて核融合発電所などの建設が始まったり検討されたりしている。
ここでもC国が積極的に支援しているが、あぶないぞ。気をつけた方が良いぞ。地下資源とか、尻の毛まで抜かれかねないぞ。
高山の新興国は氷河で覆われる恐れがあるので移住を検討しているが、そこはもめるよね。大きな国際問題になっている。
逆に島国の新興国では、温暖化で沈んだ島が復活するという前提で開発計画を立てていて、先進国に資金援助を申し入れている。しかし、陸地ができても塩害が酷そうだからな。当分農業はできないんじゃなかろうか。岩だらけじゃ観光業も成り立つかどうか。
一番問題なのはEに加盟していない東欧だ。核融合発電所も建設できないし、食料も生産できない。元々、どちらかというと寒い国なのに、真夏以外は凍り付いてしまってどうにもならない。真夏だってツンドラが溶けて泥沼だ。各国の支援だけでなんとかやっているが、中東とココが今、一番焦臭い。
中東も石油の売れ行きが激減した。温暖化対策で年々減少していたが、核融合発電技術の確立で、石油は化学製品の材料などに用途が限られてしまった。
早くから脱石油に取り組んでいた国々は良いが、遅れた国々は焦臭いことになっている。
そんな東欧と中東に対して、日本はB国と共同で閉塞空間林野研究設備をベースにした半閉塞巨大農場建設を支援しようとしている。外が寒かろうが暑かろうが関係ない。必要な作物に適した環境を作れる。
各国が取り組んでいる農業工場と違って、大きな環境を作れるから、作物も元気に育つし、種子もちゃんと採れる。
こんな所に俺の成果が活かされるとは思ってもみなかったぞ。
とは言え、B国はこれらの地域と因縁が深いんでね。売れるところにはすんなり売れるが、売れないところとは敵対しかねない。なかなか難しいね。
そんなこんなで地球では新しい環境に立ち向かっている。宇宙開発と平行して。
人類はまだまだやって行けそうだ。俺の家族も。
え? この先?
まだ考えていないよ。次の新生までまだ10年以上ある。今は幼い子供の養育と、コロニーの人工林や農場をより良くすることに専念したい。
このまま自然に人生を終えるのも良いな。って、前世でもそう思ってたな。
でも、光は何か考えているかもな。おとなしく終焉を迎えさせてくれるかどうか……
完
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