表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】--新生--生まれ変わって山へ、宇宙へ  作者: 浅間 数馬
第三章 宇宙へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/43

18. 食料

喜界カルデラの破局的噴火から3日後。首相会見があった。堺夫人の演説だ。

並の首相ならば、会見なんて下を向いて役人が書いた原稿を間違えないように読むものだ。だが、堺首相は違う。被災者への見舞いの挨拶の後、カメラ目線で堂々と国民に訴えてきた。


『喜界カルデラの破局的噴火はすさまじいものでした。有史以来、最大の噴火と言えます。7X00年前に比べると50%も規模が小さいということですが、極めて多くの方が亡くなられたり、行方不明になりました。また、避難を余儀なくされている方々も空前絶後の人数になっています。

日本では20世紀の後半から火山の監視を行っています。多くの噴火は予兆を探知して避難することで人的被害を免れてきました。しかし、まれに予兆を捉えることができずに突然噴火を迎えて大きな被害を出すことも何度かありました。

ましてや、喜界カルデラは海底にあり、センサーの設置も限定的でまったく予知することができませんでした。

繰り返しになりますが、逃げることができなかった被害者の皆様には、深く、心よりお悔やみを申し上げます。また、今現在、苦しい生活を強いられている国民の皆様には、…… 国民の皆様には……』


言葉が詰まった。少々の沈黙。だが、目にさらなる力がみなぎった。


『人類はこのX00年、地球温暖化を食い止めようと努力してきました。

私は新生者です。前世では林業を営んでいましたが、地球全体の環境を改善する使命を受け、新生して農林水産省を経て政治家となりました。入省してから30年。初当選から22年。一定の成果はあったと自負しています。

しかし、そんな私を、私たち人類をあざ笑うかのように、地球はラカギガル火山、喜界カルデラと立て続けに私たちに牙を向けてきました。

ですが、この程度でへこたれてはいけません。我々は生きるべきです! 生きていかなければなりません。

自然に、地球に、宇宙に対して人類はあまりにも無力です。科学技術の進歩でうぬぼれていましたが、たった1度か2度の噴火で絶望させられてしまうような弱い存在だったのです。

でも皆さん、人類はまだ滅んでいません。日本も滅んでいません。日本政府は機能しています。日本人はたくさん生き残っています。我々はもう一度立ち上がり、さらなる発展を目指すべきです。

子を産み、育て、人を増やし、産業と文化を発展させるのです。

そのためには、常には自然と共存し、時には自然に抗う必要があります。

共存するにも抗うにも、相手を知る必要があります。私たちはもっと自然を知らなければなりません。

今後、我が国は自然科学、地球物理学、宇宙科学の発展と教育に力を入れていきます。国民の皆様にも可能な限り理解していただきます。

その成果を持って国土を復興し、迫る地球寒冷化に対応し、なおかつ繰り返す地震と火山噴火に備えていきます。そして、バックアップとしてスペースコロニーを拡充していきます。

………

すべての国民の皆様にお願いします。

避難を余儀なくされている方々以外にも、これからの人生、いろいろなところに移り住むかも知れません。ですが、常にしっかり大地を踏みしめ、背筋を伸ばしてご自分が住む地域を見渡してください。地形や気候を肌で感じて、自然が私たちに与えてくれる恩恵とその陰に隠れた牙を認識してください。

外国に行っても同じです。その地の恩恵と牙を認識してください。

そして、大空を見上げて未来を見据えてください。空の向こうのスペースコロニーにも同胞が居ます。コロニーでも人工の大地を作り、自然が生み出した木々や作物の子孫を育ててその恩恵を受けています。コロニーの皆さんは常に地球のことを考えてくれています。

私たち日本人は一丸となってこの豊かで恐ろしい国土で復興、発展、繁栄することを、さらにその発展、繁栄を宇宙にまで広めることをここに誓います』




上手い演説ではなかった。もっと良い言葉もあるだろう。

だが、誠意は伝わった。励ましにもなった。絶望しかけていた国民はなんとなくやる気になった。日本列島の自然とともに生きてきた日本人の国民性でもあるかな。


地球の被害は甚大だが、空ノ島と宇宙エレベーターはほぼ無傷だ。2つの火山の噴出物で多少ケーブルが汚れているようだが、ロボットクリーナーで十分掃除ができている。運行に支障は無い。

空ノ島の倉庫にある物資はコロニーに届けてもらえることになった。日本では『大惨事なんだからすべての物資を本土に集めろ』という暴論もあったが、BJスペースグループとコロ開、JAXA、関係省庁がなんとか押さえ込んでくれた。


L1-BJは未完成とは言え、いま常駐している人数が生活するために必要な物資は大体揃っている。

水は補給できている。空ノ島には核融合発電所があるので非常に安く電気が作れる。その電気を使って海水を真水に変えて送ってくれるんだ。

L1-1では水を節約していたけれど、L1-BJでは人工林を作ることになってから、他のコロニーよりも多くの水が必要だ、ってことになってこういう体制が作られたんだ。

ついでに、抽出された塩も送ってくれる。にがりとかうまみが含まれていて、食材としては結構ありがたい。

コロニーでも太陽光発電で電気は安い。水を分解すれば酸素も取り出せる。水素はコロニーやスペースバスなどの姿勢制御や推進用ロケットエンジンの燃料になる。

水、空気、エネルギーの心配は無い。


不安なもの。それは食料と医薬品だ。

備蓄はあまりない。空ノ島の倉庫に運び込んであるものと、空ノ島産の魚だけが頼りだ。

その魚も、噴火の影響で漁獲量が減るかもしれない。軽石が浮遊しているからね。楽観視はできない。


コロニーで創薬研究もする予定だったが、まだ始まっていないし、量産は計画にもない。医薬品は使用を制限して節約するしかない。




L1-BJでは、各組織のコロニー側代表者が集まって協議した。

その結果、食料は共同で管理して配給制にすることになった。

そして食料を生産する。実験農場の生産を拡大。栄養価が高く、生産性の良い作物を優先する。とは言え、コロニーに苗があるものしか植えられない。優先されたのは大豆とサツマイモ、それとジャガイモだ。

裏作で麦も作るが、B国系の人達にはちょっと辛い選択だ。だが、非常事態だ。了解してもらえた。

ここまでは代表者達が決めてくれた。


そして、食料生産の実施チームにはなぜか俺がいた。拒否権はない。非常事態だからな。できることは協力しよう。

増産にあたり、農地が不足している。そこで、人工林の中のまだ植樹されていないエリアを畑にすることになった。とにかく生き残ることが優先だからな。樹木が多少傷んでも仕方が無い。

さらに俺から提案した。育ちが良くない樹木を間伐して少しでも耕地面積を広げる。伐採した樹木は有機肥料に転換する。


急遽、作物の育成シミュレーションをすることになった。リーダーは俺だ。

コロニーの量子コンピュータで最良の環境を見つける。それだけでなく、より早く育つ条件を導き出した。

その結果、コロニー内の季節は日照時間と気温を調整して10ヶ月周期まで短縮できることがわかった。毎年2ヶ月ずつ季節が早まるってことだ。

ダメ元で代表者会議に提案してみると、あっさり承認された。カレンダーは地球に合わせたままで、コロニー内季節をどんどん進めることになった。そこで、コロニー内季節とカレンダーの対応表を作ることになった。

農業関係者は植え付けと収穫の時期に頭をひねってなんとか対応してくれることになった。


コロニー用のAI搭載農耕機械は大型で広いエリアでないと使えない。元々あった実験農場でだけ使う。急遽作られた人工林の中の小さな畑は、有志を募って伝統的な方法で栽培することになった。

人力で耕すための鍬や鋤のような原始的な農具はあっという間に作れる。建設中の建物資材を流用して全自動工作機械にセットするだけだ。

これが意外に好評。なんか楽しんでますね。皆さん。非常事態なんですけど。

参加希望者が殺到して困るくらいだ。


そのほか、大型のプランターが大量に作られて街中に配置された。道路の脇や空き地、建物の屋上など。コロニー自体が完成前だから空き地は結構ある。完成後も将来のために空けてあるところもある。そんなところが即席農場になった。

プランターでは稲を栽培する。実験農場は畑だ。水田への転換は難しい。だが、プランターなら簡単に水稲ができる。プランター栽培の担当は小中学生を含む居住者総動員だ。


そのプランターの土は人工林から提供する。

こうなると人工林の土壌が足りなくなる。人工土壌はまだ作れるが、有機肥料が足りない。そこで導入されたのが人間の排泄物だ。

元々コロニーのトイレは下水に流すものではなく、排泄物をパックにして地球に運んで処分していた。それを高速で発酵させて肥料にして人工土壌に混ぜるんだ。これも俺のアイディアだ。


早速、BJスペース建設のエンジニアによって、高速発酵装置が開発されて試運転が行われた。排泄物を装置に入れて1ヶ月待てばできあがる。

できあがれば匂いは弱くて問題なのだが、セットするときに大変な匂いが発生することが判明した。なかなかの重労働でなり手が少ないため、とても高給な仕事になった。

作業場所も問題になったんだが、そこはコロニーを運営するBJスペースサービスの光が未使用の隔離エリアを融通してくれた。


ところで、樹木や腐葉土に紛れてやってきた雑草の中には食べられるものもあった。キノコも生えている。だが、それはごく少量なのでコロニー全体には配れない。こっそり食べるのは問題だ。気づかないふりをして現状は放置だ。




こうして半年が経過した。収穫だ。

稲、大豆、サツマイモは十分な量が収穫できた。コロニーは人口が少ない。全員が半年間、十分に生きられる量が採れた。裏作も始まった。

限られた食材を美味しくいただくために料理研究も盛んにおこなわれている。


収穫物の精密調査が行われた。他のコロニーでは二代目が作れないからだ。毎年、種や苗を地球から運んで栽培している。BJでも同じことが起きることが懸念されていた。

だが、問題なかった。来年、というか来期も問題なく発芽することが確認された。人工林はまだまばらだが、やっぱり環境が良いからじゃないかな。


自分たちで食べる分と、来期に植える分を除いてもまだわずかだが余剰ができた。

収穫量の集計と、精密調査の結果が発表されて、コロニーの人達はみんな喜んだよ。それで簡素ながら収穫祭を開催した。


一方で、余剰の収穫農作物を救援物資としてB国と日本に送ることになった。

備蓄すべきだという意見もあったが、コロニーは環境が安定している。来期も安定して収穫できることが見込めるので、救援物資にしたんだ。

もちろん、地球の人口に対して送る農作物の量は雀の涙のようなものだが、心理的にはとても大きい。

B国でも日本でも大ニュースになった。コロニーから見守ってくれている同胞がいると。

季節の変化を早めたり、空き地や屋上、道の脇でプランターを使って生産量を増やしていることなども紹介された。子供達が作業している様子も報じられた。


『コロニー開発なんかやめて復興に注力しろ』という乱暴な意見はだいぶトーンダウンした。

堺首相からもコロニーにお礼のメッセージが届いたよ。俺にも個人的に送られてきた。嬉しいものだ。



=====

留浦2「なんだかトンデモナイ天変地異が起きてるな」

光2「ほんと。3代目さん達が気の毒だわ」

紗綾香「被害に遭われた方々は本当に災難でしたけど、これをきっかけに、きっと日本は再生しますよ」

光2「そうでしょうか?」

紗綾香「ええ、大丈夫。3代目さん達も貢献しますよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ