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【完結】--新生--生まれ変わって山へ、宇宙へ  作者: 浅間 数馬
第三章 宇宙へ

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11. 林

樹が1年間の任期を終えて地球に帰ってきた。2ヶ月もの休暇が貰えたと言うことで、長野の俺達の家に近い貸別荘を借りて家族で滞在している。

光は喜んでいる。樹も元気そうだが、俺には解る。ちょっとメンタルをやられているぞ。


樹と2人だけで話をしてみた。やはり、不健康な森と観葉植物と畑しかないL1-1は心理的に厳しいようだ。元々樹木の少ない土地に住んでいる欧米人は重症化する人が少ないようだが、日本人は結構ダメージを受けているようだ。


「毎日、近くの野山をトレッキングしろ。景色と空気を楽しめ。風の匂いを嗅げ。すぐに楽になる」

「ああ、そうするよ。しかし、もう宇宙には行きたくないな」

「そう言うな。L1-BJではもっと心が安まるスペースを作ってやるよ」

「そうか。父さんがそう言うなら大丈夫かな」


親父から父さんに昇格したようだ。




9ヶ月ほど掛かってようやく土壌が完成したという報告が来た。まだ春になりきっていない。良かった。樹木の活動が活発になる前に植林できる。

コロ開が民間に公募して採用したモグラロボットが能率良く土壌を攪拌している。人工土壌が粉砕されて腐葉土と混じっている。ミミズもオケラもダンゴムシもよく働いている。植林後も攪拌を続ける予定だ。

菌類も大分増えた。既にあっちこっちに苔が生えている。雑草も勝手に芽を出している。雑草は刈らずにそのまま放置するように指示してある。大事にする必要もないので、作業の際に踏んづけても良いとも言ってある。


いよいよ植林だ。既に苗木が選定されて閉塞空間林野研究設備の冷蔵施設に搬入されて2ヶ月寝かせている。なぜかというと、日本を出発してからコロニーに着くまで、冬眠してもらった方がトラブルが少ないからだ。搬送中に目覚めて成長不全を起こされても困るからな。

苗木は広葉樹を多めに多彩な種類を用意してもらった。ドングリとか果樹もある。樹齢は2年生から10年生の間でばらつかせた。ただし、サイズはすべて宇宙エレベーターで運べるものだ。

種類、数、サイズ、樹齢と注文が細かいので手配は大変だったようだ。担当者さん、業者さん、ありがとう。


近隣の林業業者をかき集めて植林してもらう。作業の際は、普段着ている作業着を着用してもらい、樹木と一緒に搬入路から除菌せずに入ってもらう。俺の計画通りだ。

植え方はシミュレーションで決めた。樹木同士、互いに影響を与え合っている。良い影響が強く出る配置をシミュレーションしたんだ。これに従って植林してもらうが、ベテラン作業員の勘で微調整して良いとも言ってある。

いきなり全面に植林してはいない。かなりまばらにした。1年後、2年後、少しずつ増やしていく予定だ。10年後には間伐もして入れ替えていく。20世紀後半からしばらく続いた周囲一帯すべて同じ歳の木々が並ぶ不健康な自然林にはしない。




1ヶ月ほどかけて植林が終わった。

職場復帰した樹は、まだ長野にいてリモートで働いている。出張扱いにしてもらい、一緒に植林が完了した閉塞空間林野研究設備を見学することにした。

どういうわけか、新幹線で東京まで行って、河口湖まで高速バスに乗るのが一番早いという。前回は面白半分でリニアに乗ったが、旧本栖湖に行くには山梨県駅は不便だ。

味気ないので在来線急行で山梨まで行き、そこから観光バスとタクシーで向かった。移動中は親子の親睦を深める。

見た目と言葉遣いが逆だからな。同乗した見知らぬ人の中には不思議そうな顔をしている人もいた。察しが付いている感じの人も少なくない。自身や身近に新生経験者がいるんだろう。


クリーンウェアに着替えてエアシャワーを浴び、設備内部に入った。思ったよりガランとしていた。結構な数の植林を行ったはずだが、やはりこの設備は大きかった。埋め尽くすには10年は掛かるな。って、10年後には本番だぞ。シミュレーション頑張らなきゃな。

土壌に降りて木々を間近で観察する。まだ、根が伸びていない。やや大きな木は添え木で支えている。

足下の表土は自然に見える。下の方は人工土壌が多いはずだが、表土は腐葉土ベースだ。雑草もチラホラ生えている。こいつらはあっという間に広がるからな。来年は一面の草原になってるかも知れん。

よく見るとダンゴムシが歩いている。ミミズもオケラも頑張っているだろう。蟻も歩いているな。意図的に持ち込んでいない生物がいるが、それが狙いだ。カタツムリもナメクジもいるだろう。そのうち蛾とかいろんな羽虫が飛び回るだろう。上手くいっているぞ。

きっと害虫もいるはずだ。ゴキブリは良いが、感染症を媒介する蚊はまずい。予想できたので、あらかじめ市販の家庭用蚊駆除器をあっちこっちに備えてもらっている。この機器は人間の汗に似た成分をうっすら出して蚊をおびき寄せ、そのまま捕獲してしまう装置だ。産卵期の雌だけが捕まる。閉塞空間だから繁殖しなければ良いんだ。草の汁を吸う分には問題ない。


「まだ植えたばかりだからな。根も伸びてないし、元気がない。半年もすれば葉も増えると思うが」

「いや、父さん。これでもL1-1の公園なんかよりずっと良いよ。だってさ、土があるだろ。L1-1の公園はレンガ調のタイル張りだよ。そこに鉢植えがまばらに並んでるだけなんだ。ちっとも気が休まらないよ。森は立ち入り禁止だし…

ここは公園って感じだね。仕事の合間にちょっと休憩したくなるよ。うん、楽しみだな」


地球に帰ってきた頃に比べると、別人のような顔だ。やはり人間には、特に日本人には林という環境が必要だな。宇宙であっても。


散水の様子も見学した。植えたばかりの木々が倒れないように、今は霧雨にして微風を起こし、1時間ほどかけて水やりする。生育状態を見ながら徐々に雨粒を大きくしたり、風を強くしたり、水をやらない期間を作ったりしてストレスを与えていく予定だ。

照明はすべてLEDだ。季節感を出すために、日本の四季に合わせて日照時間のコントロールを行うが、春から秋にかけてリアルよりも朝晩1時間ずつ昼間を長くして成長を促進させている。冬はリアルと変わらない日照時間だが、冬の期間を前後2週間ぐらい短くなるように設定している。

ストレスを与えるために曇りの日も意図的に作る。朝焼け、夕焼けも模倣する。成長を促進しつつ、なるべく自然と変わらない環境を作ってやるんだ。矛盾していて難しいぞ。




再新生から5年が経過した。俺も光も23歳だ。なんと、意識上は通算102歳だ。産まれてから110年経過している。ものすごい長生きだが、最も早く新生した人で2回新生した人は産まれてから125年ぐらい経過している。自然人だと記憶があやふやになるところだが、新生人はそこはしっかりしている。生きる歴史事典みたいになってるぞ。


少子化傾向は相変わらず減少傾向が止まらない。日本に限らない。先進国は皆一緒だ。新興国--今もこんな呼び方だったかな?--ではたくさん子供が産まれてたくさん亡くなっている。もう何百年も変わらずに続いている。あれも欧米的なやり方では解決できないのだろうな。ま、少々の募金ぐらいしかしていない俺が批判して良いことではないが。


地球温暖化はまだ続いている。温暖化ガスの排出は年々減っていて、それに合わせて温暖化のスピードは減速したが、止まる気配はない。やっぱり人間だけが原因じゃないと思うんだよな。

地球は元々温暖化するのが基本で、時々大きな災害で急激に冷やされる。その繰り返しで長い目で見てバランスが取れている。そんな記事を最近読んだぞ。俺としては直感的に同感だ。賛成できる根拠を持ってないが。

20世紀半ばぐらいが人間にとって理想的な気候だったからって、そこにこだわって対策するのは地球物理学的におかしいよな。『この先千年ぐらいはこのくらいの幅で気温が上下するから、余裕を持ってあらかじめ備えておきましょうね』って言うのが正しい対応だと思う。


昨年、光は大学を卒業して、今年、太平洋宇宙エレベーターに入社した。変な名前だが、BJスペース建設の子会社で、宇宙エレベーターの建設、保守、運営を行っている会社だ。

昔と変わらずリモートで勤務している。仕事内容を聞いてみたら、2機目の建設が始まっているんで、計画と実績のチェック、トラブルの原因究明と対策・再発防止策の検討なんかを行うらしい。テロとか某国の諜報・妨害対策でセキュリティは結構厳しいそうだ。これ以上は教えて貰えなかった。

我が家のネットワークにもなんかセキュリティ機器を追加していた。俺も情報工学をやっていたんだがな。今もやってるか。でも今はシミュレーション中心の理論屋だし、最近のセキュリティ機器や仕組みはさっぱり解らん。

そうそう、コロ開もセキュリティ対策が厳しくなって、俺のPCにもPDAにもよく解らないソフトを入れられて動作が重くなった。困ったもんだ。


コロ開とは1回契約を更新した。4年経ったところで強くお願いされたので正規職員になった。断る理由もないしな。白丸先生とはその後も共同研究を続けている。相変わらずちょっと意見してくれるくらいだけどね。

それでも、結構的を射た意見をくれるんで助かっている。


さて、本業のシミュレーションだが、いろいろ条件を変えて試している。大きな問題はない。俺の直感が正しいことを示している。実際、閉塞空間でも上手くいっている。

閉塞空間林野研究設備の植林は毎年冬の間に実施している。植林開始から5年。施設の全面、密度で予定の半分ぐらいまで樹木が増えた。なかなか良い感じだ。

最近は送風機の最大出力、風速5mの風雨を与えている。時々折れてしまう木もあるが、このくらいのストレスを与えないと強く育たない。もっと強い風を与えたいくらいだ。

時々林業家に枝打ちをしてもらっている。落とした枝は細かく裁断して作業用の小道の舗装に使ったり、落ち葉と一緒に腐葉土にしたりしている。閉塞空間内での循環を目指している。


樹も愛知の工場で頑張って働いている。地球に帰ってきた翌年、第二子が産まれた。帰ってくると子供ができるっていうのは自然の摂理だな。男の子で名前はカタカナでジクウだ。時空? ってビックリしたよ。日本人の名前か? ってね。口には出さないけど。

未来はもうすぐ40歳だが、結婚はしないみたいだな。少子化も自然の摂理なのかな。


そして来年、俺は建設中のL1-BJを見学できることになった。ついに宇宙旅行だ。観光ではなく出張だがな。今からワクワクしてどうする? いい歳なのに浮かれちゃって、光に呆れられてるよ。



=====

留浦1「なかなか順調だな」

留浦2「ええ、順調すぎて退屈ですよ。そろそろイベントとか波乱が欲しいです」

光2「ドラマじゃないんだから、波乱はない方が良いです」

紗綾香「退屈しているのも今のうちですよ」

「「「え!? 何が起きるの」」」

紗綾香「それはそのときのお楽しみ。まずは宇宙旅行の様子を見に行きましょう」

留浦1「ずるいな、妻さんはいつもそれだ」

光2「ええ、あたしから見てもずるいです」

紗綾香「ホ、ホ、ホ」

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