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【完結】--新生--生まれ変わって山へ、宇宙へ  作者: 浅間 数馬
第三章 宇宙へ

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9. 宇宙国土開発研究機構

光はあっさり承知してくれた。というか、むしろ勧めてくれた。

驚いたことに、光は通信制の大学に入学していた。全然気がつかなかった。しかもB国の大学で途中入学。宇宙工学を学んでいた。やっぱり光も宇宙に行く気満々だ!


そんなわけで、コロ開に有期雇用で入社した。契約期間は3年。期間満了後に延長、または正規雇用への切り替えも可能だが、どうするかはそのときに決めれば良い。

コロ開は、確か、妻さんが死んで落ち込んでいるときに設立されたんだったな。もう60年も前か。本部の場所は以前の大学の近くだった。やっぱり茨城か。

基本はリモート勤務なのだが、我が国の伝統で最初はオフラインの挨拶が必要だ。久しぶりに茨城に来た。

ついでと言っては何だが、妻さんの墓参りにも行った。そういえば昔、ここで妻さんとは別の女性と生きるって宣言したんだったな。ところが結局妻さんとまた一緒にやってるわけだ。笑っちゃうね。仏様の手の内で飛び回っていたようだよ。ま、結果オーライだけどね。


入社手続きを終え、関係者への挨拶回りだ。


「古里さん、こちら今度入社した留浦さんです。留浦さん、こちらはBJコロニー計画の実行リーダーで、BJスペース建設の監督も担当している古里さんです」


どこかで見たことがある人だな、と思ったら、BJスペース建設を訪問したときに怒って出て行った人じゃないか。よく俺の入社を認めたな。


「その節はどうも」

「私は今も君を認めていないがね。チームが、どうしても君が必要だというから渋々承知したに過ぎないよ。それで、何か良いアイディアは浮かんだのかね?」

「いえ、アイディアはないです」


不愉快そうな顔をしているな。職位は上だから、面倒だが少し説明しよう。


「アイディアはありませんが、経験に基づく勘があります。その勘を数値シミュレーションで立証している最中です。立証できたら提案します」

「そうか。ただの勘なら認めんが、経験に基づいているのならば一考の価値はあるな」


そう言って古里さんは自分の仕事に戻っていった。この人と関係改善しないと如何か。面倒だなぁ。




東京経由でリニアに乗って山梨県駅に。初めてリニアに乗ったときはワクワクしたな。1度しか経験していない子供時代だ。あの頃のリニアはまだ開業して間もなかった。

リニアも開業から100年以上経つというのに、いまだに地上最速だ。費用対効果を考えると地上の高速移動はこの辺りが限界なのかも知れないな。

山梨県駅で白丸先生と合流した。シミュレーションとはいえ、共同研究を行うのだから参考に施設を見学しておこうというわけだ。

山梨県駅と施設の間には山がある。路線バスとオンデマンドバス、タクシーを乗り継いで閉塞空間林野研究施設に到着した。やはり移動時間がかかる。

施設の建屋は完成していた。今は駐車場や道路の舗装工事と植栽作業が行われていた。植栽はごく普通だ。林野研究なんだからもうちょっと趣向を凝らしても良さそうなものだが…… 後日提案してみるか。

振り返ると富士山がでかい。前回噴火した火口がこっちを向いている。その火口からこっちに向かって黒っぽい帯のような筋が伸びている。前回流れた溶岩だ。まだ色が周囲に馴染んでいない。なかなかエグいぞ。


受付をすると若い職員がやってきて、まず施設を案内してくれるという。若いと言っても見た目は俺より年上だ。聞けば1回新生しているそうだから通算80歳に近いそうだ。自分で言うのも何だがややこしいな。


まず、外側から物資の搬入口を見せてもらった。これはコロニーを模しているそうだ。宇宙船は無重力部分、つまり円筒形のコロニーの中心軸付近にドッキングして物資を搬入する。それをエレベーターで円周部分の重力エリアまで下ろしてからコロニー内部に運び込む。そのエレベーターで降りてきたところを模しているわけだ。これなら人工重力のある場所から搬入するリハーサルはできそうだ。


搬入路から少し離れたところに人間用の入り口がある。外側の扉を開くと通路がある。最初の区間がトイレだ。施設内部にはトイレがないのでまず済ませておく。

その先に更衣室がある。ここでクリーンウェアに着替える。着替え終わったら反対側のドアから出るとエアシャワーだ。何だか薬品か半導体の製造工場のようだ。ここでウェアの外側に着いている埃などよく吹き飛ばしてから内側の扉を開くと実験施設内部だ。手荷物はPDAだけだ。

施設に入ると耳がツンとした。天井は強化繊維で作られたドームだ。膨らませるために外部よりも若干気圧が高い。コロニー内部の気圧はどうなってるんだ? 差があったら意味がない。


「気圧がちょっと高いですね」

「ドームですからね。気圧差で膨らませるというやり方は初代の東京ドームから基本変わっていません」

「コロニーの気圧との差は?」

「この場所は標高が高いので元々気圧が少し低いんです。内部の気圧は標高0mと変わらないですよ。つまり、コロニー内部と一緒です」

「なるほど。良く考えてますね」


考えてなかったのは俺の方だった。長野の環境でシミュレーションしてたぞ。モデルの気圧を見直さなきゃな。


施設内部はがらんとしていた。幅100m、奥行き500mの大空間だ。さすがに広いと感じる。だが、これが全部林になったところを想像してみても、林としてはさほど大きいとは言えない。まさに閉塞空間だな。


扉から2mほどで手すりがある。その先は床が10mほど低くなっている。床には排水処理の設備がある。場合によっては逆に栄養分を供給することもできるらしい。ここに土壌を作って苗木を植えて行くわけだ。

100m×500m×10m で 50万㎥ か。ものすごい量の土だな。どこから持ってくるんだ?

所々に床が高くなっている部分がある。たぶん、今俺が立っているところと同じ高さだ。そこから天井近くまで伸びる柱が立っている。その柱が散水設備のようだ。実際、コロニーでも同じように散水するという。

あれ、去年BJスペース建設で聞いたときはコロニー内に雨は降らないって言ってたよな。ひょっとして、あの後慌ててこれ作ったんだな。きっと。


コロニー本体の中心軸辺りから水を撒けば良さそうだが、中心付近は重力が弱いので土壌まで届かず、水の塊が浮いてしまう恐れがあるそうだ。そういうのは機器を壊すから避けなければ。

散水用の柱は送風機も兼ねているそうだ。そよ風から風速5mぐらいのまあまあ強い風が出せるという。嵐は無理だが、ある程度植物にストレスを与えることができそうだ。コロニー全体の空気を撹拌することも兼ねている。よく考えたな。慌てた割に。


見学が終わると隣のビルで打ち合わせだ。コロ開の環境チームと顔合わせする。


「リーダーの氷川です。専門は生物学、特に植物です。あなた方の論文は拝読しました。期待していますよ」


全員の自己紹介が終わるとプロジェクトの概要説明だ。氷川博士が自ら説明してくれた。


「コロニーの完成は15年後です。10年後に植林を開始します。

残念なことに、コロニー計画が始まった頃は環境が軽視されていました。植物はオフィスの観葉植物のように、地球から持ってきて置いておけば良いと考えられていました。実際、昔の宇宙飛行士はそれでも十分だったんですね。彼らは元々精神が強い人の中から選ばれていますし、訓練によって更に強化していましたから。

ところが、コロニー開発が始まって多くの人が宇宙に行くようになると、心の問題が噴出してきました。L1-1建造後半には作業員のメンタルが原因でスケジュール遅延などの重大な障害に繋がりました。

当時、既にL1-BJの建造が始まっていました。コロ開は急いでその原因を調べたのですが、長い時間が掛かってしまいました。

根本的な原因は環境でした。空気清浄機で浄化された空気ではダメなんです。植物が介在していないと。視覚的にも無機物ばかり見ていると心が疲弊します。有機物、できれば生きている生物を目にした方が良い。ペットじゃなくて、植物が必要なんです。しかもある程度広い空間で。観葉植物じゃ間に合わないんです。

そこで、L1-1では将来のためにとっておいたエリアに急遽森を作りました。人工土壌を搬入して苗木を植えたんです。でも、木々の成長が悪くて、枯れるものも多いんです。

日Bで協議した結果、L1-BJではスペースを大きく割いて人工林を設置することになりました。コロニーの内部設計を大きく変更しただけでなく、地球にも実験施設を建設することにしました。植物の種類も数もB国より日本の方がはるかに多いので、実験施設は日本に建設することになりました。それが10年前です。

どんな設備にすべきかという構想、設計、施工に10年掛かりました。やっと施設が完成したところです。

人が見て安心できる樹木は30年生ぐらい以上です。ところが、10年後にはコロニーに植林を開始する計画になっています。ですから、ここで収集したデータをお二人のシミュレーションで加速して評価していただく必要があるんです」


なるほど。背景はよく解ったし、なぜ今頃実験してるんだという事情も理解した。これは俺の出番だな。

白丸先生も乗り気だ。この1年足らずでこの人の考え方は大体解った。研究を俺に丸投げして連名で成果を得る。そしてコロ開から研究費をもらって研究室を充実させたいんだ。この研究の重要性が高いってことは研究費もいっぱい貰えそうだと算段しているな。この顔は。


こちらの研究状況も説明して、当面の進め方などを相談した。最後に白丸先生が確認した。


「ところで、BJ以外のコロニーでは人工林がないんですね?」

「はい。L1-1の人工林は失敗しました。まだ残っていますが廃棄する可能性が高いです。先行で建造された残りの4基には観葉植物が数多く持ち込まれています。農場も作られていますが、人工林はないです」

「なるほど。じゃ、その5基からBJに大勢の人がバケーションに来ますね」

「え!?」

「だって、心が疲れたら息抜きが必要でしょ。息抜きするためにいちいち地球に帰ってきたら往復で2ヶ月も掛かっちゃいます。コロニー間なら1,2時間で移動できるでしょ。週末はBJで過ごしたいっていう人がいるでしょうね。ホテルはいつも満室だな。別荘とか高く売れそうだ」

「ちょ、ちょっと待ってください。それは考えていなかった。人と物資の移動が想定と全然変わってしまう。いやいや、コロニー運営に関わる重大事項ですよ。エスカレーションしなければ」


すごいぞ! 白丸先生。自分の研究の重要性を高めて更に研究費をふんだくろうって言う算段か。凄いビジネスセンスだ。過去の俺に足りなかったものだな。勉強になる。

すると、更に白丸先生のご発言だ。


「それと、我々が成功したら各国も当然人工林を作ろうとしますよね。でも、きっと上手くいかない。欧米的思考では個々の植物に最適な環境を作ろうとするでしょうからね。ミクロから考えてマクロに発展させる。それが欧米型科学の基本ですから。我々のように先に全体のバランスを取ることを考えるという習慣がないですからね。

自分では気がつかないとなると、どうしてウチが成功しているのか知りたくなるでしょうね」

「セキュリティですね!?」


B国人メンバーが反応した。日本人は惚けている。


「開示して全部のコロニーの環境が良くなれば良いじゃないですか?」

「日本人はお人好しですね。だからいつも損をしているんですよ。ここは我々に任せてください」


B国人は日Bで大儲けしようと考えているようだ。そうだよね。宇宙開発は元手が掛かるんだ。投資した資金を回収できる可能性があるなら、そこに注力すべきだな。それは俺にも理解できるぞ。きれい事じゃない。金という血液で世の中動いているんだ。B国人を見習って日本人の伝統的な血行不良を改善しなきゃならんな。

それにしても白丸先生。あんた凄いね。



=====

留浦2「うーん、勉強になるな」

光2「あら、普通よ。あたしも似たようなことはよくやったわ」

留浦2「ああ。お陰で暮らしは楽だったな。ありがとう」

留浦1「もう金なんて要らんがね。5次元空間では」

紗綾香「初代夫さんは相変わらず一言余計ですね。もう、いい加減落ち着いてくださいな」

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