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【完結】--新生--生まれ変わって山へ、宇宙へ  作者: 浅間 数馬
第三章 宇宙へ

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7. 必要なもの

3日後。PDAでニュースを読んでいると、労災と新生に関する記事を見つけた。人ごとじゃないと思って読んでみると、ホントに人ごとじゃなかった。記事の末尾には記者の名前が載っていた。河内! 俺の話を記事にしたのか!

個人情報は伏せられているし、俺と河内の関係を知っている人はほとんど居ない。他の人の話も混ぜてあるし問題ないか、と気持ちが落ち着いたところで通話着信だ。


「だ、大臣!?」

「孝、ニュース読んだよ。これ、あんただろ?」

「は、はぃ」

「何落ち込んでんだい。あんたらしくないね。世の中、問題課題は山ほどあるよ。あんたのことだ、どうせもう問題の方から近づいて来てんじゃないのかい?」

「た、確かにそんな感じではあります」

「あたしらはあんたが無用で放り出した訳じゃない。できれば力になってもらいたいと思ってる。だけどあんたは人間関係が上手くない。県庁での噂は聞いてるよ。あんたは新しいことに挑戦すべきだ。だから政治の世界に尾は引きずり込まなかった。そういうことだよ。しっかり気合い入れて生きな」

「はい、ありがとうございます」

「あぁ、それと、あたしらも新生を体験して、いろいろ問題があることはには気づいていたよ。実際、苦しんでいる人も居るだろうとは思っていたけど、あんたのことで実感したよ。制度を改める。あたしらに任せておきな」

「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」


いや、緊張したなぁ。


「大臣って、堺夫人? 何だって?」


おっと、光に聞こえてたか。いかん、河内の記事を読まれたら俺の悩みがばれてしまう。そしたら光が傷ついてしまう。


「ああ、なんか、次の選挙よろしくってさ」


適当にお茶を濁そう。あれ、ばれてるかな。表情が良くない。

と、そこにまた着信だ。ちょうど良い、自分の部屋に逃げ込もう。


「はい、留浦です」

「父さん! 河内さんの記事読んだよ。あれ、父さんのことだろ? 何やってんだよ。新生したら腑抜けになっちゃったのかよ?」

「いや、いや、そういうわけじゃないんだがな。ま、いろいろあってな」

「悩んでないでさっさとうちの会社訪問だけでもしろよ。資料見て、話聞けば気が変わるよ」

「あ、ああ。そうだな」

「じゃ、会社訪問設定しておくから、ちゃんと来てくれよ」

「わかった。行くよ」

「頼んだぜ。じゃ」

「あ、ちょっと待ってくれ。記事の件な、母さんには黙っててくれよ」

「心配すんなよ。俺だって母さんが傷つくかも、って思ってるからさ。じゃあな」


転勤準備で忙しいとは思うが、樹に任せよう。そうだ、光も連れて行こう。ついでに中京圏を観光しよう!




「「ウォーーーーー!!!」」


目の前に宇宙空間が広がる。体が浮いている感じだ。遠くに見えていた点が段々近づいてくる。スペースコロニーだ。

軌道を変えてコロニーの周囲を見て回る。100年以上前の古典アニメで見たコロニーに似ている。円筒形で、側面の一部が花開くように、開いている。太陽光パネルだ。発電するだけでなく、反射光でコロニー内を明るく照らしている。

コロニーの先端は宇宙船の発着港になっている。すでに2隻の大型船が停泊している。その近くに接岸するようだ。


「テーマパークのアトラクションより凄いね」

「比較にならん。ものすごいクオリティだ」


裸眼でこれだけのVR体験ができるとは知らなかった。

光と驚いているとシーンが切り替わった。コロニー内部だ。

主要都市によくある整備されたキレイな街だ。日本語の看板もあるが英語が多い。街ゆく人々も日本人より外国人が多い。

映像の向きが変わると違和感がある。そうだ。円筒の内部にいるからだ。高さ方向を見ると水平に見えるが、円周方向を見ると上り坂に見える。その上り坂がずっと上まで続いて、建物が斜めに立っているように見える。これがコロニーか。


またシーンが変わった。森だ。違うな。ものすごい違和感だ。模造品だ。いや、植物は本物なのだろうが、植え方が不自然だ。密度が高すぎるな。枝振りが良くない。下草がない。やっちまった感のある森だ。


『いかがでしたか? これは現在我々のオフィスがある国際スペースコロニーL1-1の映像です』


照明が灯った。スクリーンを向いていたシートを回転させて後ろを向く。ここは広めの会議室だ。BJスペース建設の

B国人技師長が英語で話している。光も俺も英語は問題ない。


『ええ。本当にコロニーを訪問した気分です』

『すっごく楽しめました』

『それは良かったです。ところで、森はどう思いましたか?』


ああ、やはりそこだよな。まずは意見が聞きたいと言うことか。


『森だけはとても不自然でしたね。枯れにくくて強いとか、酸素の放出量が多いとか、見た目が美しいとか、そういった観点で選定しましたね。その、失礼ですが… 発想がヨーロッパ的ですね。一見、上手くいっているように見えるますが、この状態を維持するのに手こずっているのではありませんか?』


B国人に社交辞令は無用だろう。ズバリ思うところを言ってみた。ゆっくり周囲を見回してみる。大半の人はうなずいているが、日本人の一部には不快そうな顔をしている人も居る。


『ご推察の通り、この森はコロニー建設中から20年以上かけて育成していますが、多くの木や草が枯れていて、頻繁に植え替えをしています。環境を改善したいのですが、具体的なアイディアはありますか?』

『いえ、ありません』


会場がざわめく。そりゃそうだよな。強気のダメ出ししておいてな。


『それは困りましたね。あなたは森林のエキスパートだとお聞きしたので期待していたのですが』

『確かに森林は私の専門ですが、あくまでも地球の、しかも長野県の人工林が対象です。スペースコロニー内のヨーロッパ風の森林は私の手に余ります。いきなり改善のアイディアを出せと言われましても、回答いたしかねます』

『正直な方ですね。では、質問を変えましょう。あなたがコロニーに森を作るとしたら、どの様にしますか?』

『実験を繰り返さないとできるかどうか解りませんが、なるべく広く、そうですね、コロニー全体を1つの環境として整えることを考えます。街と林を分けるのではなく、街の中にも植栽を作っていきます』

『ほー。具体的には?』

『地球から土を運ぶとき、現在は完全に殺菌してから運んでいるのではありませんか』

『もちろんです。コロニーにはなるべく菌類を持ち込まない様に配慮しています』

『そこをあえて殺菌せずに持ち込みます。環境維持には菌類の多様性も必要だからです』


誰が誰だか解らんが、この会議室にはまあまあ偉い人が揃っているようだ。そのお偉いさん方が大分ザワついている。そりゃそうだ。巨額の建設費を投じたコロニーでパンデミックでも起こったら会社が潰れるぐらいでは済まない。国家が傾くかもしれんからな。


『それと、いわゆる雑草も持ち込みます。あと、昆虫類と鳥と小動物も』

「君は森をまるごと宇宙に持って行く来かね?」


日本人の偉そうな人が日本語で怒り出した。まあ、そうなるよな。だが、喧嘩をしても始まらない。ここは冷静に英語で返す。


『いえ、森ではなく林ですね。健康な人工林とその周囲をなるべく大きく持って行きたいです』

『面積でいうと?』

『最低でも5平方キロメートルぐらいは欲しいですね』

『馬鹿を言ってはいかんよ。コロニーの内面積は、およそ12平方キロメートルだ。太陽光取り入れの用の大きな窓もあるから。使える面積は10平方キロメートルもないんだぞ。半分以上を林になどできるわけがない』

『でも、建物を地下というか、コロニーの薄皮の内部に作るとか、屋上庭園のように屋根を草地にしたり、低中木を植えたり、畑にしても良いですね。工夫のしようはいくらでもあるでしょう。すべての土が繋がっていなくても良いんです。少し離れていても鳥や虫、風が媒介して間接的に繋がります。ところで、コロニー内に雨は降りますか?』

『アニメの見過ぎだ。そんなものはない』

『それは困りましたね。雨なしで自然を模倣しろとは』

「話にならん。面積もだが、持ち込むものも問題が多すぎる。君の夢を聞いているんじゃない。コロニーの環境改善について聞いているんだ。時間の無駄だったな」


ずっと黙っていた日本人のおじさんが立ち上がった。それにつられて数人が立ち上がる。どうやら俺は職を得られなかったようだ。ま、それはそれで良いんだけどな。

隅っこに居る樹の視線が痛い。そうだ、このわからんちんどもにちょっとムカついたので一言お贈りしてやろう。


「あなたが欲しているものと、あなたに必要なものとは、必ずしも一致しませんよ」


罵声を浴びせてやろうと思ったら、ここまで黙っていた光が一撃だ。

俺も情報工学をやっていたから解る。システムはお客の希望通り作っては如何。隠れた真の要望を掘り下げる必要がある。IT業界の基本だ。そしてこれはITに限らん。宇宙の環境問題にだって適用できる。流石は元IT企業重役だ。よく解っている。

偉そうな人はちょっとこっちを見たが、黙って退出していった。会議は終了だ。


「親父、何やってんだよ」


あれ? 樹が俺を親父呼ばわり? 父さんからちょっと格下げか?


「済まんな。宇宙の専門家に、人に必要な環境というものを解らせることは難しいな」

「笑い事じゃないよ」


光は隣でニコニコしてる。あれ、怒らないんだ。



=====

留浦2「だいぶ言いたいこと言ったようだな」

光2「そうね。調和を求めていたあなたとは違うわ」

留浦1「別にこの会社に入らなくても良いが、あの調子ではどこにも就職できないぞ。また学者にでもなるのか?」

紗綾香「それはまたのお楽しみ」

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