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【完結】--新生--生まれ変わって山へ、宇宙へ  作者: 浅間 数馬
第一章 生まれ変わる
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2. セミナー

夫が新生制度の説明セミナーにやってきました。新生制度の説明では対面式のセイミナーやコンサルティングが多用されています。この時代は説明や指導の手段として時間と場所を選ばないオンラインセミナーやバーチャル空間を使った疑似体験が主流ですけれど、新生制度では人間が直接説明することが重要視されています。ですから定期的に開催されるリアルセミナーに来たのです。

=====



新生について詳しく説明してくれるセミナーに来た。セミナーは5回も受講しなければならない。しかも予約はいつも次回分だけだ。先の計画が立てられない。なんでこんな制度なんだ。まったく。

初回は土曜の午前を選んだ。新年度が始まって新入生のガイダンスだの、新しい研究室メンバーの受け入れだの、平日は忙しいのだ。


会場は地域のコミュニケーションセンターだ。ホールの受付機にPDAをかざすと画面には『少々お待ちください』と表示された。てっきり部屋番号が表示されると思っていたので、何かトラブルかと思ったら、スーツ姿の男性がにこやかに近づいてきた。


「留浦様ですね。新生制度紹介セミナーへお越しくださいまして誠にありがとうございます。早速ですが会場にご案内いたします。2階の小会議室になっております。こちらへどうぞ」


わざわざ案内してくれるらしい。年寄り扱いしているのか? まだ55歳だぞ。ボケてもいないし、体も衰えていない。そうか、こちらのご機嫌を取りたいから異常に丁寧なのか。ちょっとうさん臭いな。


「こちらがセミナー会場です。本日は15名の受講者様がいらっしゃいます。資料が置いてある席のうち、お好きな場所に着席してください。食事は取れませんが、飲み物は自由にお飲みいただいて結構です。そちらのトイレ近くに飲み物の自動販売機もございます。セミナー開始までにはあと10分ほどお時間がありますのでご準備をお願いいたします」


丁寧だがマニュアル的な説明をすると男性は1階に戻っていった。

小会議室はシンプルな作りだった。正面には今では珍しいホワイトボードがあった。3人掛けの長テーブルが横に2列、縦に4列並んでいて、各テーブルの両脇に資料が置いてあった。出入り口近くの1席を除いて。

既に5人着席して資料を見ていた。2人並んで座っている男女もいる。ご夫婦かな。私は窓側の一番後ろの席に荷物を置いて、トイレと飲み物の調達に行った。


会議室に戻るとさらに人が増えていた。既に講師らしき人も入室していて、私を見ると軽く会釈してきた。私も会釈を返して着席して、まずは周囲の観察をする。ホワイトボードの前は少しスペースが取られていて、一番前の人も隅までよく見えるようになっている。そのスペースの窓側には講演者用のテーブルがあってPCと紙資料らしきものが置かれていた。紙があるなんて今どき珍しいな。

講師の操作で天井のプロジェクターからスライド資料の投影が始まった。投影サイズとピントを調整している。私が大学で授業するときは小さなスタジオで収録したり、生配信がほとんどだ。このスタイルは入学式直後のガイダンスの時ぐらいだ。講堂に新入生が全員集まると、このスタイル以外やりようがないからな。


「それではお時間になりましたのでセミナーを開始させていただきます。まだお一方到着が遅れているようですが、係の者がフォローいたしますので先に進めさせていただきます」


音楽が流れて短いビデオが投影された。一般に公開されている見飽きたビデオだが、いよいよ自分の番だと思うと集中してしまう。だが、何度も見ているので新しい情報は無い。

ビデオが終わると再び講師が話し出した。


「皆さん、生まれ変わることに期待と不安を抱かれていると思います。この制度が始まって20年以上経ちましたが、まだ時々トラブルが発生します」


受講者がざわめく。


「ああ、ご心配なく。技術的には問題ありません。トラブルの原因は対象者の方にあります。その原因も、たいていの場合はちょっとした注意で取り除くことができます。本日はまず、その点について詳しくお話しいたしますのでご安心ください」


受講者たちは不安そうだが、とりあえず静かになって話を聞こうという姿勢になった。なるほどな。話を聞いて動揺する受講者が多いから、その反応をしっかり把握してケアするためのリアルセミナーなのだな。オンラインでマイクとカメラを切られたらまったく反応が解らない。私はオンライン授業で学生の反応が掴めていないから、学生からの人気も無いのかもしれないな。


「皆さんが不安に思うのは最もです。まず、その不安を解消するために事例を一つ紹介しましょう。

この制度では58歳の年度初めに新しい体用のDNAを採取します。それから10年かけて培養して、68歳の年度に生まれ変わります。それまで今から13年間の生活に注意してください」


スクリーンに模式図が表示され、それを指さしながら講師が説明する。


「この事例の方は、『生まれ変わるとまったく新しい体になるのだから、今の体が不健康でも問題ないだろう』と考えられんですね。それで好きなモノを好きなだけ食べたり飲んだり遊んだり、不摂生をしてしまったんです。そのために65歳で心筋梗塞を起こしてしまいました。しかもお一人暮らしで、運悪くウェアラブル機器も外してのご入浴中だったので、自動通報もされなかったのです。ウェアラブル機器からのデータが途絶えたことで、新生センターからケースワーカーが派遣されましたが、発見されたときには既にお亡くなりになっていたのです」


会場が静まりかえった。皆、思うところがあるのだろう。


「他にも事故でお亡くなりになったり、脳卒中や若年性の痴呆症でニューロンパターンに異常をきたしてしまい、生まれ変わりにドクターストップがかかった事例もあります」


受講者は段々納得してきたようだ。


「皆様にお願いしたいことは、今日から生まれ変わるまでの13年間、今まで同様に健康に気をつけていただきたいということです。筋力アップですとか、美しさを増す必要はありません。ニューロンパターンが壊れないように注意していただきたいのです」


講師は全員が納得したことを確認するとさらに続けた。


「まだ生まれ変わるかどうかお決めになる必要はありません。あと4回セミナーがあります。そのセミナーを受講した上で、よく考えてから決めていただくことになりますので、お時間は十分にあります。ただ、先走って不摂生をするようなことだけは今すぐお止めください。

今日からは食生活にご注意ください。軽い運動も習慣化させてください。脳も使うように心がけてください。昔流行った脳トレのようなものですね。こういった健康や痴呆の予防などの情報はちまたに溢れていますので、新生庁としては特別な指導はしておりません。

ただ、次回セミナーで希望される方にはウェアラブル機器を支給いたします。これを身につけていますと、普段の健康状態のモニターができますし、異常時には申請センターから呼びかけや、先ほどの事例にもありましたとおりケースワーカーが派遣されることもあります。

本日の残りの時間は今後のスケジュールと、このウェアラブル機器についてご説明しますので、資料をお持ち帰りになり、次回セミナーまでに使用するかしないかをお決めください」


一拍おいて、


「ここまで一気にお話ししていまいましたが、何かご質問はありますか?」


3人、解りきったことを質問していた。不安な気持ちは察するが、既に説明を受けたことを聞き返しても意味がないだろうに。質問するなら他の人にも参考なることを聞けば良いのに。集合型のセミナーというものはこういうところが無駄だな。



=====

あらあら、夫はセミナーの内容よりもセミナーの形式の方に気を取られていますね。職業病ですね。

でも、深層心理では生まれ変わることに前向きになっています。この先は積極的に行動していくのですね。

セミナーはまだ続きますけど、私たちはここで失礼して、少し先を見に行きましょう。気になるならまた戻ってくれば良いのですから。5次元世界はとても便利でしょ。

年齢を修正しました。

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