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【完結】--新生--生まれ変わって山へ、宇宙へ  作者: 浅間 数馬
第三章 宇宙へ

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6. アイデンティティー

合宿所を出て長野の自宅に戻った。リハビリ中、ハウスキーピングサービスを利用したそうなので埃も溜まっていない。約10年前とは少し様子が違うが、見慣れた景色と匂いだ。使い慣れた家具も居心地が良い。観葉植物がほぼ入れ替わっているが、枯らしたな。サボテンまで。気が付かないフリをしておこう。それが夫婦円満のコツだ。


今後の生活について光と話し合っているが、なかなか結論が出ない。唯一出た結論が入籍だ。拒否できる雰囲気じゃない。拒否する理由もないが、まだ18歳だっていうのに。前回は20歳だったから記録更新だな。


仕事だが、光は樹の話に乗り気だ。自分も宇宙に行く気になっている。大学に行って宇宙で役立つ学問を修めるつもりだ。どの分野が良いか、夢中になって調べている。

俺はと言うと、自分の居場所を探していた。県庁も付き合いのある林業業者も俺を必要としていない。必要とされていないのに8年、俺の記憶的には10年近いブランク付きで新生させられた。居場所なんかないよな、この家以外。どうすりゃ良いんだ?

相変わらず日本の人口は減少している。国としては働いて税金納めてくれれば良いんだろうけどな。産ませるより新生させた方が養育費が安いし、初等教育は要らないし、早く就労するからって、こっちの身にもなってほしいよ。まったく。


俺の死亡保険金は手つかずで残っていたが、新生する場合は減額だそうで微々たるものだった。その反面、大企業の重役だった光の財産は、子供達にも相続したがまだ十分ある。贅沢しなければ10年は生活できる。先のことはゆっくり考えることにした。




俺の部屋には弓と矢が置いてあった。四段になったときに買った竹製のものだ。8年以上手入れをしていない。いきなり引いたら壊れるかもしれないな。弓具店に持って行って見てもらうか? 買い換えになるかな…

そう言えば、今、この時代にも弓師と矢師はいるのだろうか? どんどん減ってる気がするが…… あ、そっちに弟子入りするのも良いかもな。


弓と矢をいつもの弓具店に持って行くと、以前からお世話になっている店主さんがいた。


「お久しぶりです。ちょっと道具を見てもらいたいんですけど」


俺的には半年ぶりだが、店主さんには8年ぶりだ。こんな挨拶にしてみた。店主さんはちょっとキョトンとした表情だ。

俺から弓を受け取って弓袋をほどいて弓を見る。


「あれ? この弓はあの人のじゃないかな? どこで手に入れたんですか?」

「いや、私ですよ。留浦です」


店主さんフリーズ。俺の顔を直視したまま動かない。動けない?

しばらく待っていると、ようやく金縛りが解けたようだ。


「生きてたんですか? 亡くなった聞きましたよ! それに…… 確かに似てるけど、若い!」

「労災なんでね、制度上、自動的に新生させられたんですよ。ちょっと記憶が古いから、自分が死んだっていう実感もないんですけどね」

「そうなんですか。いや、私の周りで新生する人は事前に言ってくれるからこんなに驚いたりしないんですけどね。まさか死んだ人が若返って帰ってくるなんて、思ってもみなかった。あ、済みません。失礼なことを…」


ちょっと時間が掛かったが、店主さんはようやく納得してくれた。

それから新生について根掘り葉掘り聞かれた。興味があるようだ。この人もそろそろ案内が来る歳なのかな。


「実は2回目です」


って言ったらものすごくビックリしてた。


「え!? 何歳ですか?」

「最初に生まれてから105年経ちましたね。途中9年以上意識がなかったんで、記憶的には通算95歳です」

「!!! 私より若く見えるのに!」


そろそろ話を戻そうよ、って顔に出ちゃったかな。ようやく話が弓に戻った。


「そうですね。ちょっと反りが狂ってますね。弓師に出しますよ。半年ぐらいかかるかも知れませんけど、良いですか?」

「やっぱり時間掛かりますか?」

「ええ。弓の要所要所に補助材を添えてひもで縛り上げて数日間置いておくんです。それを何回も繰り返して少しずつ補正していくので、作業量はともかく、時間はかかりますね」

「なるほどね。ところで、弓師さんて今、どのくらいいるんですか?」

「人数は解らないけど、ここ数十年変わってないんじゃないですかね。ずっと同じ人と取引してますよ。最近は弓師さんも矢師さんも新生するから後継者にも困っていないみたいですね。もっとも、需要が伸びないから事業も拡大できないんで、妙にバランス取れてるみたいですよ」

「あ、そうなんですか。それは良かった」


全然良くない。後継者不足を期待していたのに。弓師になるのは難しそうだな。ビジネス的にも。儲けたいわけじゃないが、困窮はしたくない。

ガッカリしたが、取りあえず弓と矢を預けて補正をお願いした。それと、修理中の練習と、その後の予備としてカーボン弓とジュラルミン矢を購入した。




市の弓道会に再加入した。顔見知りの人はみんな弓具店の店主さんと同じような反応だ。すぐに慣れてくれたが。

他にやることもないので練習日はいつも行く。それ以外は毎日をだらだら過ごしている。そうするとやるせない気持ちがさらに重くなっていく。瞑想しても弓を引いても心が落ち着くのはその場限りだ。終わるとすぐにやるせなくなる。


ストレス発散には誰かに話を聞いてもらうのが良いと聞いたことがある。とは言え、誰に聞いてもらえば良いんだ? 労災保険での新生に同意した光に話したら傷つくよな。

相談相手が見つからずにモヤモヤしていたが…… 居たよ、居た。忘れてた。河内だ。あいつなら新生制度に詳しいから、俺みたいな事例も知ってるんじゃないかな。なんかきっかけでも掴めれば…

早速通話してみた。


「久しぶり!」

「おう! 奥さんから労災で新生するとは聞いてたよ。いつ目覚めたんだ?」

「んー、5ヶ月前かな」

「なんだよ。目覚めたらすぐに連絡してくれると思ってたのによぅ。遅ぇよ」

「済まん、済まん。忘れてた」

「酷いな、まったく…… で、どうだい? 新しい生活は?」

「それがな…」


以前の仕事を続けられない、急に新ししいことをやれと言われても見つからない。家族は喜んでくれたが、社会から必要とされていない。何のために蘇ったんだか解らん。

そんな気持ちをグダグダと河内に愚痴った。


「前の新生ってさ、案内来てから正式に申し込むまで3年もかけただろ。その上、実際に新生するまで10年も待ったじゃないか。あの時間って必要だったんだな、って思うよ。自分の人生、特に新しい人生についてじっくり考えることができたよな。受験勉強とか、新しい人生の準備も先取りできた。

でもさ、俺、2回目の新生はしないつもりだったんだよ。仕事にも家族にも恵まれて、十分幸せだったんだな。

ところがだ。俺の意思とは関係なく、家族の同意だけで新生させられちゃった。いや、家族を悪く言ってるんじゃない。どこの家だって家族は新生に同意するだろうさ。

問題は俺の心の準備ができていなかったってことだな。それに、俺は死んだ自覚がないんだ。事故の1年以上前の記憶で新生しているからな。スキャンの麻酔から覚めたと思ったら、体が若くなっていて、先週の仕事の続きをしようと思ったら職場から来なくて良いと言われ、昔なじみにも必要ないって言われたんだ。

家族以外、全員俺が死んだものとして話が終わっちゃってるんだよ。エピソード2は要らないんだって。解るか? 要らないと言われたこの気持ち」


河内はちょっと沈黙したが、やがて話し出した。


「確かにな。人から必要とされるっていうことはアイデンティティーの基本だ。アイデンティティーの確立とは社会の中で自分の立ち位置を明確化することに他ならない。社会との時差を持って新生したことでお前は以前の立ち位置を失った。それはとても苦しいことだろう。

だが、現実はこうだ。社会では、お前が死んだものとして時間が流れた。帰ってきたお前は以前のお前とは違う。過去は見るな。体は若い。未来を見て生きろ」

「それは解っているんだが…」

「生きていれば良いってもんじゃない。生き様が大事だよな。

人間は生きていく上で遣り甲斐が必要だと思う。遣り甲斐がないと堕落してくだらない人生を送ることになる。そういう奴はたくさん居る。逆に遣り甲斐を持った人間は自然に実績ができる。周囲が認めるようになる。そうなると社会に立ち位置ができてアイデンティティーの確立になる。

だが、遣り甲斐は人から与えられるものじゃない。自分で探したり、ひょっこり見つかったりするものだ。

だから、残念だが俺がお前に遣り甲斐を与えてやることはできない。苦しいとは思うが、自分でなんとかしろ。俺にできることは愚痴を聞いてやることぐらいだ。仕事が忙しいとき以外ならいつでも聞いてやるからまた通話してこい」

「そうか。そうだよな。うん、話を聞いてもらえて少し楽になったよ。ありがとう。もうちょっと頑張るよ」



=====

留浦1「どうも三代目は優柔不断というか芯が弱そうだな」

留浦2「俺も同じ感想です。大丈夫かな。心配だなぁ」

光2「ごめんなさい。あたしのせいだわ」

留浦2「? どういうこと?」

光2「孝がいつも仕事ばかりしてるから、遺伝子操作して、ちょっとだけ真面目度を下げてくれって培養前に頼んじゃったの。だからあたしの三代目は気にしていないでしょ」

留浦2「何だって? ゲームじゃないんだけどな。大丈夫か?」

紗綾香「大丈夫ですよ。夫さん達は根が真面目ですからね。光さんの言うとおり、ライフワークバランスが良くなりますよ」

留浦1「そんな場面あったかなぁ。見逃したな。もう一度見に行こうか」

紗綾香「ダメです! あえてスルーしてきたのに」

留浦1「妻さんだけ先に見ていたんだろ。我々に見せない方が良いという根拠を教えてもらいたいものだな」

光2「私も見てほしくないです。恥ずかしい…」

留浦1,2「「…… 何が?」」

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