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【完結】--新生--生まれ変わって山へ、宇宙へ  作者: 浅間 数馬
第三章 宇宙へ

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3. それぞれの人生

「私は解ったぞ! 確かに光さんは妻さんとは別人格だ。だが、あの『人を振り回す性格』は元々妻さんが持っていたものだったのだな? 生前、私にその一面を隠していたのだな」

「ホッホッホ。ようやく気がつきましてね。初代夫さん。一生隠せるとは思っていませんでしたけどね。まさか事故死するとは思ってもみませんでしたから。結果的にここまで隠し通してしまいました。まあ、これからもよろしくお願いしますね。さ、さ、続きを見てみましょう」

=====



河内が東京へ帰った後、俺は光に真実を確かめるべきかどうか悩んだ。

考え事をするときは、まず瞑想して頭と心を整理することにしている。ここ10年ぐらい、積極的に瞑想をするようになった。その成果だろうか、二年前、弓道五段に昇段した。心の鍛錬は練度が上がっている。

光の過去について、確かめるべきか否か、何度も考えた。考える前には必ず瞑想した。その結果。


「どうでも良いな」


俺は一つの悟りの境地に到達した。今、ここに光がいる。紗綾香とは別の人格だ。そして一家は幸福だ。それで良い。

多少記憶が操作されているとは言え、それは前世の記憶だ。新生後の記憶にまがい物はない。俺と過ごした時間も作り物じゃない。

そう言えば昔、山の上で光がちょっと混乱していたことがあったな。だが、混濁した意識の中で寝言のように呟いていただけだ。それ以外、何の問題も起きていない。

昔のドラマや小説なら、ここで一悶着あるのだろうが、俺も通算90年以上生きている。小さいことを気にするなんて馬鹿馬鹿しい。過去なんて小さなことだ。そう感じられるようになった。


それよりも樹だ。どうやらスペースコロニー建設に関わりたいと考え出したようだ。今までは自分の成績に合わせて志望校を選んでいたが、BJスペース建設に入社しやすい大学と学部を探し出した。そしてそこへ入学することに目標を変更し勉強方法の見直しを始めた。

良い傾向だ。目つきが変わった。大人の仲間入りだな。俺と光は樹を見守っていくことにした。




春。樹は見事に志望大学に合格した。東京で一人暮らしだ。羽目を外さないようにと言い聞かせたが、必要なかったようだ。樹の目標はBJスペース建設入社だ。大学は通過点でしかない。ここで遊んでいる暇はないのだから。


光と二人暮らしに戻った。22年ぶりだ。最初はちょっとぎこちなかったが、すぐに光のペースで収まった。

収まったと思ったら、初夏に光が昇進した。長野の子会社社長から東京本社役員に。

今までも親会社の東京本社に出張することはよくあったが、今度は本社役員だ。リモートよりもリアル出勤が増えた。光は東京に部屋を借りて二重生活になった。週末は東京か長野かどちらかで一緒に過ごすようにしているが。


どうせ東京に部屋を借りるなら、樹と一緒に暮らせばどうかと提案した。が、樹に拒否された。まあ、そういう年頃だよな。大体、大会社の役員宅だ。控え目にしたと光は言うが、家賃が俺の月給より高い。無駄に豪華だ。樹も勉強に集中できないし、友達には見せたくないかもな。

そうなんだ。この部屋のせいでもある。俺が東京暮らしを窮屈に思うのは。だが、それは光には言えないな。




光が57歳になる年の春。2回目の新生の公式案内が来た。元々新生は1回限りだったのだが、制度変更で何度でも新生できるようになったんだ。そして、培養期間が短くなったので、その分公式案内も遅く来るようになった。だから57歳の年なんだ。

俺の感覚だと、新生する人はやりたいことがある人、今までの人生に悔いがある人が多いと思う。光は成功者だ。そばで見ていても幸せそうに見える。新生しないかもしれないな。


などと考えていたら、さっさとセミナーに申し込んでいた。なぜ? とは聞かない。夫なのだから察してあげなければ。


俺はと言えば、前世は不完全燃焼だったが今世では幸福を感じている。家族にも仕事にも恵まれた。満足だ。正式申し込みの60歳まであと16年あるが、今のところこのまま天命を全うしようと思っている。

光には新生後に新しいパートナーを選んでもらえば良い。

そういえば、光が新生するときに婚姻関係は死別扱いになるのだったな。11年後か。光には新しい人生を送ってもらいたいし、未来と樹にも負担をかけたくない。ピンコロを目指そう。そうなると、もう44だ。健康に気をつけなければならないな。


そんな春の連休に、京都の大学に行っている未来が帰省してきた。就職内定の報告だ。工業デザイン会社に決まったそうだ。どうやら樹の影響を受けて、宇宙関連の製品デザインを希望しているようだ。

姉弟そろって宇宙で活躍するなんて、実に愉快だ。実際に宇宙に行くかどうかは知らないが。




どうもこの麻酔明けは気分が悪いな。

新生する気はないのだが、労災保険の関係で定期的にスキャンが義務付けられている。民間なら拒否しても大きな問題にはならないが、俺は役人だからな。わがままは言えない。


技術の進歩で培養期間は10年から8年に短縮された。ニューロンパターンのスキャンも時間短縮された。短縮されたが、2時間から1時間40分という微妙な短縮だ。1時間40分動くな、とは言えないのでやっぱり全身麻酔だ。

頭にセンサを着けて本でも読んでいればスキャンが終わる、そんな仕組みができないものだろうか。


半独身生活も板に付いた46歳の秋。堺夫人から挨拶状が届いた。驚いた。手書きだ。

内容を読んで納得した。夫婦揃って農林省を退職して与党議員の秘書になるという。いよいよ政治家転身の準備開始だ。なるほど、手書きの挨拶状は人誑しのテクニックに違いない。


夫妻退職の情報はすぐに伝わり、県の林務部が騒然となった。俺のところにも何人か確認に来た。別に秘密じゃないから教えてやった。


「ああ、政治家に転身するんですよ」


それはそれでまた林務部が騒然となった。やっぱり長野から出馬するのか? 林業業界はバックアップするだろう、近頃は農業界と土建業界にも影響力を持っているぞ、県としてはどうしたら良いんだ? といった感じだ。騒ぎは林務部を超えて県庁全体に広がった。知事まで俺を呼び出して話を聞く始末だ。まあ、そうなるか。


そうそう、サカイ林業はあの翔先輩が社長に就任した。去年のことだ。

言っては悪いが、どうしても黒い肌が目立つ。昔は『差別だ!』なんて言っていたが、あの人も随分強かになったものだ。容姿が目立つことを利用して多数のメディアに出ている。それだけじゃない。わざと片言で話したりしている。話題を作って営業しているんだな。たいしたものだ。




また春が来た。樹が大学を卒業して希望通りBJスペース建設に入社した。宇宙業界は志望者が多くて倍率が高いと聞いている。そこを通過したのだから、我が子ながらたいしたものだと思う。

愛知県の工場に配属された。名古屋なら飯田からリニアで2駅だが、長野市から飯田までが結構ある。おまけに工場は名古屋じゃない。やっぱりちょっと遠いな。


そして光の新しい体の培養が始まった。かつて、遺伝子操作は治療以外認められなかったが、昨今は新生者を増やすために美容目的の操作もある程度許されているという。


「期待しててね♡」


何をしたんだ? よくわからんが、新生後も俺と生きるつもりなのか? 新生しないと言ったら怒りそうだな。何か上手い言い訳を考えないと。




地球温暖化は一向に治まらない。その年は過去にないほど海面温度が高くなった。気象庁は春頃から警告を発していたが、ついに超々大型台風が小笠原沖に発生した。予想進路は… 糸魚川静岡構造線に沿って北上! 長野県縦断か! 最悪だ。

直ちに関係各所への連絡、警告、必要物資の手配など、マニュアル通りの指示を出した。

半独身で良かったぞ。しばらく県庁に泊まり込みだ。超々大型だ。無事には済まないだろう。復旧が終わるまで、一体何日かかるのか。取りあえず、家族にはメッセージを送っておく。


いよいよ台風が静岡に上陸した。中心気圧はまだ900hPa! 風速100m超! 雨も凄い。死にそう。

静岡県はもちろん、長野県内でも被害が出始めた。


光から心配する返事が来た。こちらが忙しいことを承知しているからな。通話は控えてくれた。

『俺は管理職だから本庁にいる。危ないことはない』そう返信しておいた。


だが……

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