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【完結】--新生--生まれ変わって山へ、宇宙へ  作者: 浅間 数馬
第三章 宇宙へ

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1. 志望

「留浦の最初の妻、紗綾香です。私たちはあれから20年後にやってきました」

「初代留浦孝です。私たちと意識を共有している異世界の4次元空間の方々に、この20年間の流れをご説明すべきだな。それはそうとして、妻さん、『最初の』という言い方は改められないだろうか? 何だか私が何度も妻を替えているようじゃないか。私の妻は妻さんだけだ。あの原光という人は二代目の妻であって私とは無関係だ」

「はいはい、せいぜい気をつけます。では、この20年間の流れをざっとご説明しますね。

まず、留浦・原一家ですけど、二代目夫さんの就職2年目、24歳で第二子が誕生しています。男の子で留浦樹君です。樹木の樹でいつきと読みます。二代目さんのお仕事にも関わっていますね。キラキラネームにしたくなかったので、古いような、新しいような名前にしたのです」

「うん、良い名前だ。彼の将来が楽しみだな」


「二代目夫さんは県庁職員として県内を3カ所と本庁を行ったり来たりの転勤をしています。最初の赴任地は家族で移住していましたけど、長女未来ちゃんの小学校入学に合わせて母子は長野市に、二代目夫さんだけが単身赴任で週末に帰ってくる生活ですね」

「だがそれも通算3年だけだったな」

「はい。今は本庁に勤めています。キャリアを十分積んで、昨年41歳で課長になりました。役所はポストが少ないのでなかなか昇進できないのです。逆に言うと、課長になれたことは凄いことなのです」

「そうだな。よくやっている。しかし二代目の妻の出世は凄いな」


「はい。光さんは37歳で樹君を出産していますが、39歳で課長に昇進しています。その翌年に業界再編で勤務先の会社が4社と合併してグループ社員1万人の大企業になりました。ここで業績が認められて、44歳で部長、47歳で事業部長、50歳で副本部長、52歳で本部長を歴任して、昨年54歳で長野の子会社社長に就任しました」

「子会社と行っても社員は500人以上いるからな。立派な企業だ。たいしたものだ。給料も二代目の5倍近いじゃないか」


「そして、未来ちゃんは昨年、京都の大学に入学しました。芸術系の学部ですね」

「長野は美術館が多いし、環境も良いからな。芸術に目覚めたようだな」

「樹君は今年で高校3年生。受験勉強をしていますが、まだ進路を決めかねていますね」

「成績は良いからどんな道にも進めるだろうが、目標がない、やりたいことが見つからないというのは一番不幸なことだ。何か良い機会があれば良いが……」

「ああ、それは大丈夫です。このあとすぐに」

「妻さん、ずるいよ。一人だけ先を見てるなんて」


「ホホホ。それはさておき、今度はサカイ林業さんを説明しましょう。

サカイ林業さんは二代目夫さんの施策に積極的に協力して事業を拡大。成功事例になっています。経営は順調です。

社長さんと奥さんは無事に新生して、2人とも東大に入りました。そして在学中に多数のコミュニティに積極的に顔を出して交友関係を広めています」

「先輩にも後輩にも声をかけている。アレは将来、国や企業の核になりそうな人物とのコネクションを作ったのだな」

「そうですね。政治家になったとき、あらゆる分野とコネクションがあると言うことは強力な武器になるでしょう。そして、卒業後、林業業界の強烈なバックアップをもって鳴り物入りで農林水産省に入りました。まだ入省5年に満たないですけど、既に省内に確固たる地位を築いています」

「まったくすごいバイタリティーだな。2人が揃って長野に挨拶に行ったときは県庁の林務部がパニック状態だったな」

「はい、そのときに二代目夫さんが堺夫妻と特別な関係にあることが解って一気に地位が向上しましたね。課長になれたのはそれも影響しています」

「本人はあまり喜んでいなかったがな」


「サカイ林業さんは、二代目夫さんが就職した年に日原さんが社長に就任、15年後に倉沢さんが社長になって、現在日原さんは会長になっています。そして、名栗澤翔先輩が専務に就任していますね。そうそう、名栗澤先輩は丹波水希さんとご結婚されています」

「年齢は日原会長が64歳、培養中で4年後に新生予定。倉沢社長が59歳で、新生しないんだな」

「そうですね。倉沢社長の心の中まで見ていませんけど、思うところがあるようです」

「そして、名栗澤専務が46歳。次期社長に内定している」


「あ、お客さんが来たようですよ」

「ご無沙汰してます…… って、時間軸を移動できるのにこの挨拶はないですかね」

「お! 初代河内さん。お久しぶりです…… って、まったくですね。それはさておき、今まで何をしていたんですか」

「宇宙を探求してました。時間を遡って星の一生を見たり。ブラックホールなんかを観察していました。こんなことができるなんて、すごいですね5次元空間は。もっと早く死ねば良かったです」

「その冗談は置いといて。それは興味深いな。私もいずれ行ってみよう」

「はいはい。こちらの話はこのくらいにして、二代目夫さんの様子を見てみましょう」

=====



「河内。よく来たな。25年ぶりか?」

「正確には24年だ」

「元気そうで何よりだ」

「お互いな」


お盆休みに河内が尋ねてきた。長野を観光すると言うので案内してやることにした。俺もせっかくの夏休みだが、何しろうちは社長と受験生がいるからな。バケーションという感じじゃない。そんなわけで、家に泊めてやることはできずにホテルをとってもらった。河内もその方が気楽だと言ってくれている。


「お前、まだ独身なのか?」

「ああ、縁がないな。前世で結婚生活は経験しているから焦りはないよ。このまま一人も良いかと思ってる。それより課長になったんだって? おめでとう」

「ありがとう。でも嬉しさよりも大変さが身に染みるよ。人間関係とか、人間関係とか、人間関係とか…… とりあえず、今夜は我が家で食事していってくれ。デリバリーで済まんが」

「いやいや、十分さ。ごちそうになるよ。奥さんは大分忙しいようだな」

「ああ。元々AIの研究者なんだが、今では企業や役所の業務システム開発会社で社長だよ。技術的な研究よりも営業の方で成果が出ててな。今も夏休み返上で提案資料作ってるよ」


と、そこに光が顔を出した。


「あらあら、ごめんなさい。でも資料は部下に作らせてるわよ。私は手直しする程度。

河内さん、初めまして。原光です。お噂は兼々夫から聞いています。何のお構いもできずに済みませんけど、明日から夫が観光案内しますから楽しんでくださいね」

「もう仕事は良いのかい?」

「残業はしないわよ。まだ明るいけど、一杯やりましょ」


3人がほろ酔いになった頃に樹が予備校から帰ってきた。

食べるだけ食べたら自室に行くのかと思ったら。


「父から聞いたんですけど、河内さんて以前は宇宙関係の仕事をしていたんですか?」

「ああ、もう50年も前だけどね」

「その、宇宙の仕事ってどうですか?」

「どうって、うーん、独特の世界だね」

「どんな風に?」

「予算とかスケジュールとかも厳しいのに、さらにいろいろ問題も起きるんだよね。予定していた部品が使えないとか、できあがったと思ったら性能が出ないとか。スケジュール後半はいつも残業と休日出勤ばかりだったな。リモート勤務もほとんどできないし。プレッシャーも大きくて辛かったな」

「そんなに酷いんですか?」

「うん? うーん。でも同僚も取引先も、お客さんも、夢を持っている人が多かったね。みんな辛いんだろうけど積極的に働いてたね。私はドクターストップがかかってしまったけれど。戻りたいという気持ちはどこかにあったな」

「そうなんですね」

「やっぱり達成感かな。種子島で打ち上げを見学すると、心の底から感動するよ。大地が震えて大音響が響くんだ。そして初めはゆっくり、すぐに加速してロケットが上がっていく姿を見ると『あの先端に俺の努力の結晶が! マッハ12で飛んでいく!! 行ってこい!』ってね」

「へー」

「あれ、打ち上げ失敗しろって祈ってたんじゃなかったか?」

「茶化すんじゃないの」

「いや、奥さん。そんなこともあったんですよ。あのころはメンタルも少しやられてましたからね」

「え? やっぱりブラックなんですか?」

「いや、大企業だったからね。いろいろフォローはしてくれたよ。ただ、私は他の人よりもメンタルが弱かったというか、ポジション的にも責任を感じやすかったんだね。それで体調不良になってしまったんだよ。別に、誰かが悪いというわけではないよ」

「ふーん」

「宇宙は夢があるよ。今は社会問題を扱っているけど、宇宙に取材に行きたいと思ってる」

「え! 宇宙に行けるんですか?」

「ああ、一般人はまだまだ先だけど、マスコミは時々行けるね。トンガの北、赤道上にBJ宇宙エレベーターがあるだろ。あれに乗れば、途中乗り換えがあるけど、大体10日でコロニー連絡ポートに行ける。そこでスペースバスに乗り換えて2年前に完成したL1-1のスペースコロニーとか、各国のステーションに行けるんだ。ポートからコロニーも片道10日ぐらいだね。そこで宇宙での人間社会を取材したいと思ってる」

「そうなんだ。結構時間が掛かるんですね」

「ロケットが飛行機なら宇宙エレベータは船のようなもんだね。フル稼働できれば週1便で一度に500人乗せた運航ができるんだが、今は貨物優先だから積み下ろしに時間が掛かる。大体10日から2週間ごとに数十人乗せた運行だ。そんな状況だからまだ大金持ち以外の一般人を乗せる余裕はない」

「大金持ちは特別扱いなんですか?」

「ああ、法外な運賃を取って運営費や建設費を補填しているんだよ。資金繰りの面でかなり助かっているんだ」

「ああ、なるほど。そういうことなんですね」

「それと、20年位前にL1-BJの建設も始まってる。BJスペース建設とかに就職すれば割と簡単に行けるんじゃないのかな」

「え!? 何ですかそれ?」

「L1-BJっていうのは日本とB国が共同開発しているスペースコロニーのことだよ」

「あ、日Bコロニーのことなら知ってます。有名ですよね。英語だとBJなんですね。知らなかった。それでBJスペース建設って何ですか?」

「L1-BJを建設するために作られた日本とB国の合弁会社だよ。完成まであと20年はかかるから、樹君が就職してからも仕事はたっぷりあると思うよ。その代わり、ものすごく一杯勉強しなきゃ入れないよ。あと、社内は全部英語だよ」

「そうなのか。完成は遠い未来だから僕には関係ないことだと思ってたけど… 具体的にはどんな仕事があるんですか? 何を勉強すれば良いんですか?」

「うーん。私も部外者だから詳しくは知らないけれど… そうだ。調べ方を教えてあげよう」


こんなにのめり込んでいる樹は近頃見たことがない。宇宙に行くのか? それも良いな。自分で考えて道を切り開け。



=====

「さて、ここで四次元空間の皆さんのために解説をお願いできますか? 初代河内さん」

「はい。任せてください。

ラグランジュポイントというのは太陽と地球と月の重力バランスが取れる場所のことです。人工物を置くならここに置くと軌道がずれにくいので運用が楽なわけです。実際、観測衛星のいくつかが21世紀初頭からこの宙域で活動しています。

ちなみにあの有名な古典アニメもラグランジュポイントにスペースコロニーを建設していましたが、あれは話の都合上、実際のラグランジュポイントとは違う場所のようですのでお気を付けください。

ラグランジュポイントは5つありますが、私達の二代目が話題にしているL1は地球から見て太陽側に150万Km行ったところにあります。月までおよそ38万4,400kmですから、4倍弱の距離です。

このエリアに国際スペースコロニーのL1-1とL1-2があります。L1-1は2年前に完成、L1-2はあと7年で完成予定です。この2つのコロニー建設には日本も協力していて、L1-1にはBJスペース建設のオフィスもあります。

それとは別に、各国が独自のスペースコロニーを建設し、自国の領土にしようとしています。既にL1-U、L1-C、L1-E、そしてL1-BJの4つがこの順序で建設中です。もちろん、U、C、Eにも日本製パーツを多数供給しています」

「初代河内さん、ありがとうございます。

初代留浦から少し補足させていただくと、B国はE離脱後、徐々に日本と関係を深めて、この時点では日B同盟を結んでいます。

また、日本は遙か昔のバブル崩壊から完全には立ち直れていないというか、政治の迷走が続いたため、単独でスペースコロニーを建設する余裕はなく、B国との同盟は生命線になっています」

「初代留浦の妻から、R国についても少しご説明しておきますね。

宇宙開発の初期に前身の連邦国家が先頭を走っていましたが、その後継のR国は21世紀の初頭に無意味な戦争を起こして国力を大きく下げています。宇宙開発の技術と人材はC国が上手く買い取っていきました。ですから、今、R国は積極的な宇宙開発ができないのです」

「破壊したり奪ったりするよりも、産み出すことの方がはるかに難しく、そして尊いということだな」

「しかし、18世紀の人が考えたことがやっと現実になっている。面白いものだな。」

「この時間界隈ではよく私の名前が出てきますね」

「「「あ! あなたはラグランジュさん!?」」」

「はい。そうです。この5次元空間は意思だけでコミュニケーションが取れるので、外国語を覚える必要がない。便利ですね」

「ラグランジュさん、一度お話を伺ってみたいと思っていたんです。あちらでよろしいですか?」


「あらあら、河内さんたらもう夢中ですね」

「そうか。この世界には亡くなったすべての人の魂が自由に行き交っているんだったな。私もガロアさんに事件の真相を聞いてみたいものだ」

「呼びましたか?」

「「ガ! ガロアさん!?」」


=====

参考

季刊大林「宇宙エレベーター建設構想」

https://www.obayashi.co.jp/kikan_obayashi/detail/kikan_53_idea.html

本文はこの内容を更に盛っています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白いです。作者さま、ありがとうございます! [気になる点] ・"妻さん"っていう呼び方に違和感があります。(まあこの違和感は私個人の感想に過ぎませんです。 ・24話の解説文で「ラグ…
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