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【完結】--新生--生まれ変わって山へ、宇宙へ  作者: 浅間 数馬
第二章 山へ
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3. リハビリ

二代目夫さんが目覚めてから5日が経過しました。食事は普通食とはいえ、まだ消化の良い柔らかいものだけです。移動も車椅子を使っています。トイレも…… 座ってしていますね。見ない方が良いのでしょうけど、こちらの世界では隠し事ができないのです。

=====


「今日から歩行訓練ですね」

「はい、よろしくお願いします」

「筋肉は十分ありますから、脳幹がコントロール方法を覚えればすぐに歩けるようになります」

「はい、解りました」


ここはリハビリ室だ。様々な道具が置かれた少し広い部屋だ。周囲には多くの人がいて、それぞれトレーニングしている。

一見すると介護施設のように見える。だが、利用者は全員見た目が18歳だ。スポーツ医療の現場の様にも見える。


最初は病室のベッドの上で、手を使って体を起こして座るところから始めた。座ることができないとトイレにも行けないからな。ただ座るだけでもバランスが取れずにフラフラするのには驚いたが、さすがに体も脳も若いだけあって半日でマスターできた。それで車椅子での移動ができるようになったわけだ。初めのうちは男性看護師に支えてもらわないと乗り降りもできなかったが。


「では、こちらの平行のバーで立ち上がってみましょう。腕で体を支えられますね?」


私は昨日までマットの上で体を起こしたり、座ったりするトレーニングを行った。うつ伏せに寝そべって、腕立て伏せの要領で上半身を起こすトレーニングも行ったので、腕はある程度負荷をかけられるようになった。

車椅子をバーの隅まで押してもらい、ステップを跳ね上げてもらった。両足を床について、手を伸ばしてバーの隅を掴み、一気に引っ張って立ち上がった。


「ああ、ダメです。そんなに勢いを付けると事故の元です。やり直しましょう。ゆっくり座ってください」

「そうですか。どうもすみません」


だが、今の感触だと大丈夫そうだがな。


「では、両足を床に付いて、バーをしっかり掴んで。はい、ではまず足の裏に体重を感じながら重心を前に移動してみましょう。まだ腰は上げないで。しっかり感触を感じてください」

「はい、大丈夫です」

「では腰を浮かせてみましょう。そのままゆっくり膝と腰を伸ばしてください。はい、結構です。異常は感じませんか?」

「はい、大丈夫です」

「では、車椅子を外して小さい椅子に替えますね。まず、立ったり座ったりを繰り返してください。まだ歩かないでくださいね」


言われた通りに立って座ってを繰り返す。離れて見ていた指導者が近づいてきた。


「とても良いですね。では、バーに掴まって歩いてみましょう。一歩ずつゆっくりと」


言われた通りゆっくり歩く。バーの反対端に到着した。


「とても良いですよ。では、そのまま後ろ向きに歩いてください」


向きを変えるのかと思ったらバック歩行か。


「体を起こして、胸を張って」


姿勢を直された。無意識にビビって腰が引けていたようだ。


半日、歩行トレーニングを行ったら昼食と昼寝だ。思ったより疲れていたらしい。ぐっすり寝てしまった。

そして午後は階段昇降のトレーニング。

培養中に適度な刺激を与えられたお陰で筋肉量は十分にある。だが、実際に負荷がかかるとやはり疲労するようだ。マッサージも受けて疲労を回復させる。


この辺りのやり方はあまり進歩しない。介助ロボットとか、アシストスーツとかを利用しても良さそうなモノだが。実際、女性トレーナーはアシストスーツを着ている。だが、新生者側は誰も着ていない。

それで良いのだろうな。全員若くて健康だから。体のコントロールの仕方さえマスターすれば自由に動けるのだから、自力でトレーニングした方が良いのだろう。




こんな生活が2週間続いた。

車椅子から歩行器へ、歩行器から杖へと順次切り替えて、今では補助器具を使わずに手に荷物を持って長距離を歩けるようになった。

食事も完全な普通食になったが、まだカツ丼とかカレーとかラーメンなどは食べていない。食堂に行けば食べられるのだが、内蔵への負担を考えて病院食で我慢している。退院したら好きなモノを少しずつ食べよう。

そう。今日は退院だ。ケースワーカーさんが説明に来た。


「リハビリご苦労様でした。この後、退院ですね。ご存じだと思いますが、今夜から研修施設に入っていただきます。学生時代の合宿のような感じですね。迎えのバスが来ますから、退院手続きが終わったら1階ロビーでお待ちください。他の新生者の皆さんと一緒に移動になります」

「解りました。お世話になりました」




ケースワーカーさんの言うとおり、研修施設は合宿所のようだった。

到着するとすぐに施設の説明があった。体育館、グラウンド、温水プール、大浴場、食堂、売店、喫茶コーナー、コインランドリー、図書室などの設備があり、昼間は自由に利用できる。

売店は2種類ある。1つはコンビニ形式で24時間日用品や軽食を扱っている。もう1つは結構大きくて、衣類と書籍、小型家電などを扱っているが昼間だけの営業だ。


メインは講義室だ。ここで高校卒業程度の知識の復習と、若者から見た50年前との社会の違い、若者文化を8月末まで3ヶ月間で学ぶ。大学受験のためのフォローもある。講義は一部を除いて選択制だが、結構タイトなスケジュールだ。


居室として狭いワンルームが割り当てられた。ベッドと机の他にスペースはあまりないが、バス・トイレとミニキッチンがあるのは良かった。狭いがプライベート空間ができたことは嬉しい。病院も差額を払えば個室にしてもらえたのだが、先々を考えて標準プランを利用したのだ。問題を起こすような人が同室に居なかったので良かった。


早速、食堂に行って夕食を摂ることにした。まずは内臓に負担の少なそうな醤油ラーメンだ。今日のところは餃子とライスは付けなかった。少しずつだ。

勢いよくすすったが、すぐには飲み込まずによく噛んだ。ちょっと面倒な食べ方だが、先は長い。あと50年は生きられるだろう。慌てずにゆっくり体を慣らしていこう。

この考え方が老人くさいのだろうか。



=====

「あのラーメンは美味そうだな」

「ええ、研修施設の食堂はどのメニューもみんなおいしいですよ。利用者さん達は体のコントロールができるようになりましたけど、まだ心がご老人のままですから、クレームが来やすいので配慮していますよ」

「なるほど、この研修施設で心を若返らせるということだな。それは楽しみだ」

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