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【完結】--新生--生まれ変わって山へ、宇宙へ  作者: 浅間 数馬
第二章 山へ
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2. 目覚め

二代目夫さんが目覚めました。少し様子を見てみましょう。

=====



天井が見える。天井の模様もはっきり見える。眼鏡をかけたまま寝ているのか? いや、違うな。眼鏡のフレームが見えない。眼鏡をかけていないのによく見える。ああ、目が良くなったんだな。期待通りだ。

手の指は… 動くな。足の指も… 動く。腕は… 右腕に点滴か。左腕は動くな。足は… う! 締め付けてくる。ふくらはぎの辺りに何か装着されているな。ポンプのような音がする。空気が抜ける音がして締め付けが緩んだ。と思ったらまた締め付けてくる。エアーマッサージでもされているのかな。

喉が渇いた。ナースコールはどこだろう。

左側と足側はカーテンで仕切られている。右は壁か。足側のカーテンの向こうははスペースがあって、その右に少しだけ扉が見える。さらに向こうにもベッドがあるようだ。どうやら数人が入る大部屋で、入口側の入って左手に寝ているようだ。




「留浦さん、気がつきましたか?」

「ええ、喉が渇きました」

「そうですね。すぐに水を持って来ますね」


男性看護師さんが来てくれた。30分ぐらい待っただろうか。退屈だし、喉が渇いて苦しいし、なんだか体がだるい。


「ただの水ですけど、どうぞ」


水差しで少しずつ口に水を流し込んでくれた。


「ありがとう。楽になりました」

「それは良かったです。今、足にエコノミー症候群予防のためのマッサージャーを付けています。ちょっと苦しいと思いますけどもうしばらく我慢してください」

「はい、解りました」

「点滴はまだ3日ほど続けます。それと医師から車椅子移動の許可が下りるまで導尿します。あと、頭にいろいろセンサーが付いていますから取らないでくださいね。

それと…… 食事の前に医師が診察に来ます。食事は今夜から出ます。最初は重湯ですけど、明日の朝にはおかゆになります。異常がなければ明日のお昼から徐々に普通食になりますよ。こちらの紙に説明がありますから、あとでゆっくり読んでください」


体温や血圧を測りながら慣れた様子でどんどん説明する。なんとか頭には入ってくるが、ちょっと早すぎるぞ。


「今何時ですか?」

「11時です。夕食は6時だから、ちょっと辛いですね」

「暇なのでPDAを使いたいのですが」

「はい、お預かりしていますよ。少し待っていてください」




「はい、こちらが留浦さんのお荷物です。PDAは……」

「外側のポケットに入れたはずです」

「あ、これですね。はい、どうぞ。脳が疲れてしまうので、休み休み使ってくださいね。お荷物はロッカーに入れておきます」

「どうもありがとう」


看護師さんが去ったところでPDAの電源を入れる。フルチャージしてからシャットダウンしたからバッテリーは十分ある。起動が完了して表示された日時に驚く。


「37日も経ったのか」


ニューロンパターンのコピーに約1ヶ月と掛かるとは聞いていたが、私は少し長めだったようだ。もう5月の中旬だ。


カーテンの隙間から同室の人が歩いて外に出ていく様子がチラリと見えた。若い! 私も若くなっているのか?

PDAのカメラで鏡のように自分の顔を見よう。だがなかなかPDAを操作できない。PDAを持っている手もなんだか重い。体のコントロールができていないようだ。

やっと顔が見れた。シワがない! シミもない! たるみもない! 目がはっきり開いている! 歯が白い! まるで若い頃の写真を見ているような…… 確かに若返ったんだ! いや、それだけではないぞ。歯並びや子供の頃の傷、生活習慣による顔のゆがみがないから以前よりも見栄えが良いじゃないか!

心の底から熱いものが込み上げてきた。気がつくと柄にもなく泣いていた。そうか、私はそんなに若返りを望んでいたのか。自分の心に今気がついた。




興奮したためだろうか、腕のコントロールで疲れたのだろうか、しばらく眠っていたようだ。


「留浦さん、大丈夫ですか? 診察です」


女性看護師さんに起こされた。


「ああ、大丈夫です。暇なのでちょっとウトウトしていただけです」

「そうですよね。退屈ですよね。もう少し我慢してくださいね。すぐに元気になりますから」


看護師さんに励まされた。

今まで私の枕元の計測機器からデータを読み出していたのだろう。PCを操作していた女性医師が話し出した。


「ご気分はどうですか? データはすべて正常ですね。予定通り夕食を摂っていただいて結構です。明日の朝食後、体を起こす簡単な訓練をして、その後異常がなければトイレのときだけ車イスで移動しても良いですよ」

「異常というのは?」

「そのお体では生まれて初めて食事を摂るので、胃腸がビックリするんですよ。軽い場合は腹痛、重いと発熱することもありますね。留浦さんは以前のお体も胃腸は健康でしたから、確率は低いのでそれほど心配しなくて大丈夫だと思いますよ」

「なるほど」

「看護師が指導しますけど、ゆっくり少しずつ食べて、胃腸の様子に気をつけてください」

「わかりました。ところで私は目覚めるまで時間が掛かったようですね」

「そうですね。ニューロンパターンのコピーに時間が掛かっていますね。おそらく、脳がよく発達しているので、逆に新しい情報の受け入れに時間が掛かったのでしょう。頭脳をよく使う方は往々にして時間が掛かるものです。心配はありません」

「そうですか。安心しました」

「ではお大事に」


まるで病人だな。新生は並の病気よりも大きな医療イベントだから、こうなるのは当たり前か。



=====

「おいおい、私、泣いてるじゃないか」

「かわいいですね」

「見られているんだからもう少しクールにしてもらわないと」

「私たちが見ていることを二代目夫さんは認識できないのですから仕方がないですよ」

「それはそうと、確かに二代目の私は自分のことを私だと自覚しているな」

「そうでしょ。間違いなく夫さんなんですよ」

「複雑な気持ちだなぁ」

「新生された方の初代魂さん達は、皆さん同じ思いでしたよ。最初のうちは。すぐに穏やかな気持ちになりましたけどね」

「私も穏やかに受け入れられるのだろうか」

「夫さんは仕事柄、常に論理的に考えますからね。魂にもその癖が付いているからちょっと時間が掛かるかもしれませんね。でもこの世界の時間なんて……」

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