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見 ャ ノト 火  作者: 山本大介
9/9

『オクリビト』6

季節は秋へと変わった。


鮮やかな緑色だった木の葉は

次第に枯れ葉へと変わる。


ずっと高かった最高気温もある程度下がり

残暑の面影も無くした頃


時田は喫茶店で一人、小難しい顔をしていた。

運ばれてきた目の前のコーヒーを、ブラックのまま一口すする。




カランコロン

ドアベルが鳴り、一人の女性が店内に入った。




彼女は時田の姿を見つけ

「その節はお世話になりました。」

一礼し、向かいに座る。


時田は峰子の目をちらと見て、すぐにそらす。


「いや。僕はお手伝いしただけですから。」

時田はむすっとした顔で答えた。


峰子はそんな彼の様子を見て、ちょっと首を傾げたが

「おかげさまで・・・葬儀も無事終わりました。

まだ諸々手続きで忙しいですが。」


「喪主は?栄則さんのお姉さんですか?」

「いえ・・・私がやりました。

叔母さんは、あれからひどく気落ちしてしまって。

気落ちするくらいなら、最期を看取るくらいしたら良かったのに。」



悲しそうな表情を見せる峰子だったが

気を取り直して、と言わんばかりに

時田に対し笑顔を見せた。



「時田さんのおかげで、ちゃんと父に

お別れの挨拶をすることが出来ました。

去り際まであんなあっけらかんと・・・本当に父らしい最期の言葉でした。


昏睡状態の父の声が聞こえるなんて・・・

あれが『オクリビト』の力なんですね。御見それしました」


そして、彼女はバッグから分厚い封筒を取り出し、テーブルに置いた。



「これ、お支払いです。相場の、80ま・・・」

「いらない。」



時田はまたぶすっとした顔をして、封筒を突っ返す。

「早くしまってください。

こんな無造作に置いて、どこの誰に盗まれるかわかりませんよ。」


「す、すいません。でも現金でのお支払いと聞いていたので・・・。」

「報酬は結構。」

「な、なんでですか?」


時田は窓の外を見つめた。


「あんな事は初めてだった。

まさかこの僕が『もうちょっとうまくやってよ』などと言われるなんて。

しかも、最後には依頼主に救われるとはね。」


そう言い終えると、時田は峰子を睨んだ。


「す、すいません・・・?」

峰子は反射的に謝ってしまった。


「それにね

本来なら依頼主・・・今回で言えば大城峰子さん

あなたにも御父上の声が聞こえるなんて事は無いんだ。

あまつさえ、会話をするなんて。前代未聞だよ。」


不機嫌そうに黙りこくっていた時田だが

峰子の言葉に対し一気にまくし立てた。



「僕はまだ未熟だった。

こんなんじゃ、一流の『オクリビト』とは言えない。それに」

「・・・それに?」


相変わらず峰子の目をじっと見つめる・・・いや

睨んでいる。


「僕の見立てでは、あなたは『オクリビト』になれる素質がある。

そして、僕の人生初の好敵手だ。」


「は、はぁ。」

峰子は目を白黒とさせた。


「君も『オクリビト』になるといい。

むしろなりなさい。これは決定事項。

そしてこれが今回の報酬だ。異論は認めん。」



峰子はぽかんとしたまま、何も返答が出来なかった。



常に沈着冷静、自信に満ち溢れる時田。

だが、プライドが高く

こんな子供っぽい一面もあるらしい。



喫茶店のオーナーが、ニヤニヤしながら

峰子の注文したクリームソーダをテーブルに置いた。

「随分と変なのになつかれちゃったねぇ。」


そして笑いながら、またカウンター内へ戻っていった。




ベテランの時田に好敵手と見られた峰子。

彼女は『オクリビト』になったのか。


それはまた別の話。









人生というのは

つらく苦しいものじゃだめなんだね

最期にさ

あー楽しかったなぁ って思えるようにさ

どれだけ楽しんで生きれるかなんだよ













ずっと書きたいなと思いながら、ストーリーを寝かせて熟成させてました。

現実では『耳だけが聞こえる』というのがわからなくて、なんだかよくわからない話を一方的にして帰宅してしまい・・・。

その翌日危篤だと連絡があり、僕が病院に駆けつけている間に息を引き取り死に目に会えませんでした。

それが僕の中でずっと後悔として残っていました。

この話を書けて良かったです。

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