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見 ャ ノト 火  作者: 山本大介
4/9

『オクリビト』1

フィクションですが実際体験した事をもとに

書かせていただきました。

良ければ読んでみてください。

残暑の厳しい季節。

もう蝉の声は聞こえない。


風は幾分涼しい。

そして

うっすら感じる風のにおいは

猛暑の頃より少しだけ秋を感じさせた。


だが日差しは相変わらず照り

肌をじりじりと焦がす。

気温が下がる気配は

今のところ全く無い。



『彼』は、駅前の喫茶店で

『依頼主』との待ち合わせをしていた。


小さな喫茶店だ。

彼は依頼が入ると必ずここで顔合わせをする。



「依頼主と待ち合わせかい?」

顔見知りのマスターが声をかけてくる。

「えぇ。」

「今のところ客は君しかいないから、ゆっくり話すと良い。

何時に待ち合わせ?」


狭い店内、確かに客は彼一人しかいなかった。

これなら込み入った話をする場に最適だろう。


「2時ですね。」


アイスコーヒーをブラックのまま味わい、時計を見る。


時計の短針はちょうど2を指していた。

待ち合わせの時刻ちょうど。




カランコロン

ドアベルが鳴る。




「いらっしゃい。好きなお席へどうぞ。」

マスターは来店した客に声をかけた。


その人物は一瞬店内を見回し、少々戸惑いながら彼の座る席の前へ歩み寄った。



「あの、・・・時田さん、ですか?」



店内を流れるパイプオルガンのBGMに消されそうなほど、小さな声で彼女は問う。


時田と呼ばれた男は立ち上がり会釈した。

「はい。大城さんですね。この度はご依頼ありがとうございます。」

そして名刺を差し出す。




『オクリビト  時田ときた 武明たけあき

C県Y市×××町 xxx番地xx o8o-xxx-xxxx』




依頼主・・・ 大城は名刺を受け取りまじまじと見つめる。

まだ疑念が見え隠れする目だ。


彼女は小さく頭を下げた。

「よろしく、お願いします。」


大城は依頼先・・・時田の向かいに座り、クリームソーダを注文した。




大城おおしろ 峰子みねこ


年齢は二十代半ば。

内気な、随分と頼りない印象の女だ。

細身でそこそこ顔立ちは整った方だろう。

だがその目には濃いクマが目立つ。

ボサボサの髪に化粧っけの無い顔は、相当な疲れの蓄積が見て取れた。




時田は依頼された内容について問う。


「お電話で伺ったお話では、お父様が入院中だとか。」

「・・・はい。末期ガンです。

余命一ヶ月と宣告されたのが今月の始め

それから半月経っていますので・・・。」

「あと半月ほど、という事ですか。」


大城・・・ 峰子は小さなため息をついた。

「はい。今はF病院に入院しています。」


「お父様のご様子はいかがですか?」

「つい先日、一般病棟から慢性病棟へ移りました。

それを機に、相当怒りっぽくなっています・・・。」




大城おおしろ 栄則えいそく


年齢は六十代前半。

峰子の父親だ。

がっしりとした体つきの、少々・・・

いや、なかなかに気難しい人物のようだ。

絵に描いたような厳格な父親で

まるで某国民的お茶の間アニメの父親のように

昭和の頑固親父気質らしい。




「さすがに『バッカモーン!!』と怒鳴りはしませんが」

峰子は自嘲気味に苦笑いを浮かべた。

「私はよく怒られていました。あ、過去形じゃないか。今も・・・。」


「ではお父様との仲は、あまりよろしく無いという事ですか?」

時田の問いに、峰子はうつむいていた顔を上げ

「そんな事ないです!」


峰子は大げさに否定し、その直後

少々恥ずかしそうに

だが心底嬉しそうに言った。


「父の、ちょっとお茶目なジョークと、笑顔が好きなんです。

ニッコリ、じゃなくて、なんていうんですか、こう

口の端っこを片方だけ上げて、ニヤリっていうか。」



随分コロコロとテンションが変わる女だ。

過酷な看病に精神が耐えられず、でも耐えなくてはならない。

その果てに

ランナーズ・ハイのような状態にでもなっているのかもしれない。



話をまとめるとこうだ。


大城栄則の娘、峰子は幼少期からどんくさい子だった。


母親、喜子よしこ

峰子がまだ赤ん坊の頃に亡くなり

運動音痴で勉強も苦手、そんな峰子に対し

優しくも厳しく育ててくれたのが父、栄則だった。



栄則は音楽が好きだった。

ビートルズ、ヤードバーズ、ベンチャーズ、エリッククラプトン・・・

主に60年代ブリティッシュ・ロックン・ロールを好む。


峰子も栄則の影響で、ビートルズを聴くのが好きだった。

クラスメイトがアイドルなどにお熱な中

当時では珍しい、ビートルズが好きな小学生だった。



家族構成

祖父母、栄則、栄則の姉(峰子にとって叔母にあたる)、峰子の5人家族。


検察官であった祖父は還暦で退職したが

その後も相談員として法務局で勤め続ける。


祖母は礼儀作法の先生だったようだが

足腰を痛めて以来隠居しているとのこと。


叔母は典型的なバリキャリ。

祖父同様、法務局人事部で働き

仕事一筋で恋愛に興味は無く

気づけば子供を産める年齢を越えていたそうだ。



典型的エリート家系。

それ故に厳しくもあったが、家族仲は非常に良かった。




しかし転機が訪れる。


峰子が二十歳の時。

祖父のガンが発覚し、闘病が始まる。

家族は交代で病室に寝泊まり、終わりがくるまで共に過ごした。


そして終わりを迎えた時

大城家は修復不可能なひとつめの亀裂が入る。


祖父という大黒柱を失い

祖母と叔母は気落ちし、叔母は精神科に通院するようになる。


峰子は高校で知り合った悪い輩にそそのかされ

髪を金色だの赤色だのに染め、チャラチャラした格好で

毎晩コンビニの前でタバコを吸いながら駄弁り

家にいる時間が極端に少なくなった。



『自分だけはしっかりとしていなければ』



そう思った栄則の心には小さな変化が生まれた。

歪んだ家族を正さなければいけない 

そういうプレッシャーと

尊敬し大好きだった父親の死がこたえたのだろう。


『この不良め!我が家の恥さらしだ!!』


以前より増して怒りっぽくなり

顔を真っ赤にして峰子を叱る回数も増えたいう。

表現のおかしいところを少々修正しました。(6/17)



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