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見 ャ ノト 火  作者: 山本大介
3/9

『誰そ彼時、げに美しき』3

あれから翌週の日曜日、僕はまたパソコンに向かい執筆をしていた。

リズミカルにタイピングが続く、今日は脳みその調子が良いようだ。


しかし、それを遮るかのようにインターフォンが鳴る。



ドアを開けると、そこには車椅子に乗りうなだれた良太と、体格のいい男性が立っていた。


この体格のいい男は健康そうに日焼けしており、服装も頭髪も整っている。

さわやかな好青年、といった印象だ。



「山本さんですか?あ、自分は介護士です」

男は首から下げている身分証を僕に見せた。


『〇〇介護ステーション 介護士 川井博之』



僕が唖然としていると良太は

「悪かったよ・・・返す。中身は手を付けてないから・・・」


川井と名乗る介護士は「どうもこれをお返ししたいそうで」と言って、トートバッグから取り出し、財布をすっと目の前に出した。

あの日渡した、僕の財布だ。



良太は完全に力が入らない足で、車いすから前のめりに落ち


「俺が悪かった・・・!!もう一度、あの神社へ連れてってほしい・・・!!そうしたらきっと腕と足治ると思うんだよ!!」


土下座のように額を地面にこすりつけながら、謝罪をしてきた。



僕は驚きのあまり無言で彼の様子を見ていた


すると

「あの神社なら、もう何度もお参りに行ったじゃないですか。用事が済んだならもう帰りましょう」

男性は軽々と良太を抱え、車いすへ座らせた。


「そうじゃない!!変な十字路を何度も曲がって、ババァとかガキの集団とか」


良太はあの時のイキった小僧ではなく、まるで狂人のようだった。


「わかりました、わかりました。夕方ですね~。もう何度も行ってるから、意味ないと思うけどなぁ」

介護士が喚く良太をなだめる。



「あの・・・」

「あ~、何も言わなくて大丈夫ですよ。その財布は山本さんの物で間違いないですよね?」

「あぁ・・・はい」


「一年にいっぺんかなぁ。いるんですよね、こういう・・・。さぁ、帰りましょう」


車イスに乗せられた良太は、もうギターが弾けないんだ!バンドも追い出された!ダチもいなくなって、バイトも・・・などと騒ぎ


最後に

「謝るから!謝るから!!峰子に会わせてくれええええ!!」と、泣きじゃくった。


「すいません、お邪魔しました!」と介護士は会釈し、車椅子を押して去って行った。




僕は、何もお咎めは無しなのだろうか。

無論、何も考えず財布を渡すわけがない。

これを渡せば、良太は確実に周囲を散策しだす。

あの時刻、十字路に立てば一定の確率で異世界へ迷い込み

そして太陽が沈む前に一歩でも踏み出せば、無事では済まされないのだろう。


何故だろう?僕にはそれがわかったから


僕だって、罠にはめた一人なのだ。




そしてかなりの月日が流れたが・・・。



峰子は

あのメールを受信した日から、未だ行方不明のままだ。


__________


「こんにちは、黒島先生から引き継ぎ、僕が今日から担当になります。

ノgァ嗚呼t@タs・・・と言います。よろしくね。

パソコン得意なんだ?タイピング随分早いね」


急に話しかけられた相手は、はぁ、とだけ答えた。


「何を書いてるの?」

・・・小説です。


「そうなんだ。見せてもらってもいい?」

・・・どうぞ。


「ふむふむ・・・すごい!内容が深くて面白いね!!」

・・・ありがとうございます。


「この作中の主人公は君自身?」

はい。


この質問だけ返答が早かった。


「そうなんだ。この助けてあげた峰子という友人は・・・」

黒島医師にひじでつつかれた。


黒島は数回咳払いをした後

「問診が長いと疲れてしまうだろう。話の続きはまた明日に・・・」



「ごめんね、今日の問診はもう終わりだって。

また新しい小説書けたら読ませてほしいなぁ。いいかな?」



・・・いいですよ。



『彼女』は下を向きながら答えた。




白衣姿の二人は病室を出る。


自分を傷つけた相手をモデルに悪役を作り、作中でじわりじわりと苦しめ復讐する。

まぁ、陰険ではあるがよくある話だ。



山本大介は朝食を済ませたのにモーニングセットを二人分頼むのはなぜ?

会社員の出勤時間はおおまか7時が多いのに、早朝から個人経営の喫茶店が開いているのはなぜ?

結果だけで言えば喫茶店で無銭飲食したのに、何も言われず翌日来店できたのはなぜ?

出勤途中に会社に電話して簡単に休みをとれるのはなぜ?

なぜ喫茶店のマスターが、良太と峰子の足止めなどしてくれる?


彼女の小説には矛盾がたくさん転がっている。




「黒島先生、彼女は自分をどう把握してるんです?」

「山本大介だと、思い込んでいるよ。君も言動には注意してほしい」

「過去の男に、つらい目に合わされたんですねぇ・・・」

黒島は答えなかった。



病室の名札を見た。


  201号室 中村峰子   



二人の医師は去り、彼女の病室はまたタイピングの音が規則的に鳴り始めた。

窓の外は、綺麗な夕焼けが広がる。

うーん・・・?

話、わかりづらいですかね?

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