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見 ャ ノト 火  作者: 山本大介
2/9

『誰そ彼時、げに美しき』2

__________


初老の男は、自分と同じく白衣を着た若者に聞く。

「どうかしましたか?」

若者の見つめる先を、初老の男は見る。

「・・・いや?なんでもありませんよ」

若者はニヤリと笑い、初老の男は怪訝な顔で彼を見た。

__________


空は先ほどよりオレンジ色に染まり、建物は暗く灰色に染まっていく。


「はぁ?お前人の物に何してんの?」


良太は僕を睨みつけ、彼女をつかんでる腕を放し僕の方に突き飛ばした。


彼女を受け止め、背後へ隠す。


「・・・お前が殴ったの?彼女の顔面・・・」

震える声で聞いた。



「だりぃ。めんどくせぇな。Swicch弁償しろよ?いい大人が何やってんだよ」


本心からだるいんだろう。

良太は僕を見下し吐き捨てるように言った。


「そうだね。感情的になって壊して悪かった」

何がどうあっても、人の物を壊すのは良くない。


そして、僕はただ相談を受けただけで・・・彼らの交際は彼らのものだ。

僕が入る問題ではなかったことに、改めて気が付く。



「だっせ。新しいSwicch買いに行くから財布よこせ」


こいつの言いなりになるなら、僕は一体なんのために今ここにいるんだ?

友人のために出来ることは何もないのか。


僕の後ろで、俯く彼女を見た。


彼女の背後には先ほど見た鳥居が、夕日に照らされ更に鮮やかな朱色に見える。



「・・・・?」

「おい、聞こえねーの?財布よこせって言ってんだけど」


友人の背後に、鳥居?


「なぜだ・・・?」


僕は鳥居を背にここまで歩いてきた。


僕は彼らを待つために、十字路の真ん中で振り返り、今歩いてきた来た方向を向いた。

鳥居が見えた。当たり前だ。


そして良太と友人も、鳥居を背に歩いてきた。


友人を僕の後ろに避難させ、良太と睨み合い

僕は今、友人の様子を見るために振り返って・・・



なんで鳥居が見えるんだ?



「あのさ、俺もう帰りたいんだけど。早くしろよ」

良太が何か話しかけてくるが、どうでもいい。



何かの視線を感じる。四方八方から。


空も、辺りの建物も、木々もすべて・・・薄暗いオレンジ色に染まっていた。



僕は意を決し財布を出した。

「どうぞ。Swicchを買えるくらいのお金は入ってるはずだよ」


良太は無言で財布を奪うように取り、去って行った。


「良太、待って・・・」

友人は、男の後を追っていった。



彼らの姿が小さくなっていく。


僕はそこから微動だに出来ないでいた。

というより一歩でも動けば・・・。


首だけ動かして右側の道を見る。鳥居が見える。

同じく左側の道を見る。鳥居が見える。


「・・・あいつが言ってた現象・・・?」



僕を囲む視線はどんどん強くなる。


風が吹き、木がざわざわと揺れ

こめかみから、汗が流れ落ちた。


深呼吸を繰り返し・・・

オレンジ色に光る太陽が落ちるのを待った。



そして、日没。

辺りは暗くなると同時に、視線が消える。

気づくと、鳥居は僕が向いている方向にしか見えなくなっていた。


大きく息を吐く。

固まっていた体を無理矢理動かし、一歩ずつゆっくりと歩きだした。


「あいつも追っかけて行っちゃったな・・・。でもそれが望みだったようだし、まぁいいか・・・」



自宅からそう遠くない場所なのに、帰り道が随分と長く感じる。

神社の前を通るが、鳥居からは目を逸らし歩いた。

人通りの多い駅前に出た時、自分はちゃんと現実に帰ってこれたんだと、再び強い安堵がした。


喫茶店はもう閉店していた。

コーヒ代払ってないな…明日払いに来よう。



やっと自宅に着き、ベッドに倒れこんだ。


「夢でも見ていたのかな・・・きっとそうだ。あんなこと、起こるわけない」


しかしなんだかすごく疲れた。

夢ならば僕の手元には財布があるはずだが・・・深く考えるのはやめよう。


食欲は無い。だが体は汗でベタベタする。

シャワーだけは浴びようと、起き上がりふらふらしながら浴室に向かった。


__________


随分タイピングが早い。

だがゲームなどをしている様子ではない。とするならば・・・

何を書いているのか。何を書きたいのか。

それはきっと自身に起こった悲しみ、苦しみ、絶望だ。

__________


翌朝。

アラームの音で目を覚まし、だるい体を起こす。


疲れはあまり取れてないが・・・朝食をとり kミwZ手z 、身支度を整え、家を出る。

いつもと変わらない朝だった。


その時ポケットの中の携帯電話が鳴り、画面を見た僕は驚いた。


「!!」

例の友人からの着信だ。



僕は通話に出て間抜けな挨拶をした。


「あ・・・お、おはよう?」


彼女は元気な口調で返事をしてきた。

「おはよう!!ねぇねぇ聞いて!すっごい体験してきちゃった!」


「すっごい体験って・・・?」

「ねぼけてるの?昨日の夕方のこと、覚えてるよね?」

「まぁ・・・・うん」


「報告したいから、今から会おうよ!」

「今からって、僕はこれから仕事・・・」


「あの喫茶店でモーニング食べよ!また後でね!」

通話は一方的に切れた。


確かに、あの後彼らがどんな体験をしたか気になる。

gkゴNa羅rkt、僕は会社に電話し休む旨を伝え、あの喫茶店に向かった。



喫茶店に入るとすでに彼女は席についており、上機嫌そうにこちらに手を振った。

遅刻魔な彼女にしては、相当珍しいことだ。



僕は彼女の真向いに座り、モーニングセットを kkkkン$藁%、 頼んだ。


「それで・・・・・・どんな体験してきたんだ・・・?」


彼女の顔を見ながら恐る恐る尋ねる。

昨日殴られた部分の青黒い腫れが痛々しい。


「あのね、私と良太だけ、異世界へ行けたの!すっごいよ!どこをどう曲がっても、あの十字路に出ちゃうの!あんなことって本当にあるのね!!」



なんだって?・・・僕はあの十字路にずっと立っていた。しかし彼女らを一度も見かけていない。



「そ・・・それで?」


「最初は良太も楽しそうにしてたんだけど、いつまでたっても帰れないから段々不機嫌になってきちゃって・・・」


こうやって、自分の左の手のひらに右の拳を勢いよく叩きつけて、不機嫌アピールし始めたの。

彼女はそうつぶやく。


「そうしたらね・・・何回くらい十字路を曲がった時かなぁ・・・近くに無人の神社あるでしょ?あそこにたどり着いたの!」

「へぇ・・・。」


僕は当事者ではなかったら、想像力豊かだなぁーくらいに思って聞き流していただろう。


しかし、先日の夕暮れ、あの違和感は忘れない。

彼らのような体験はしていないが、半分当事者のようなものだ。


「あそこって無人なはずなのに・・・人が、いたの。少し不気味だったけど・・・帰り道を聞こうと思って・・・」





ここからは彼女の体験した話をまとめる。


良太は彼女の背を押し「帰り道聞いてきて」とうっとおしそうに言った。


友人は神社の中に立っていた人・・・

もんぺを着た老女に話しかけた。


「私たち、その、えっと、あの、変な世界に迷い込んじゃって・・・あの、その、元の世界に帰りたいんですけど・・・どうしたら帰れるか、わからなくて、あの」



「口下手だな」

少し離れたところから、良太の嫌味が聞こえた。


ふと視線を感じ横を見やると、神社を取り囲むように生い茂ってる雑草の中から子供の顔が見えた。

見えるのは首から上だけ。


顔はまるで蝋人形のように真っ白で、髪の毛は真っ黒。

うつろな目でこちらを見つめていたという。


はっと気づいて周りを見渡すと、知らないうちに数えきれないほどの大勢の子供にぐるりと取り囲まれていることに気づいた。

全員、首から下は見えない。



一人の子供が「あのおねえちゃん、かおにけがしてる。なんで?」と良太に言った。


それに対し、良太は軽く怯えつつも強がり「しらねーよ」と、不機嫌そうに答えたそうだ。



その姿を見て子供は「おまえのみぎて、わるいみぎて!おまえのみぎて、も~らった!」と叫び


それに続き周りの子供たち全員が、おまえのひだりて、おまえのみぎあし、おまえの・・・と


体の部位を次々と「も~らった!」と口々に叫んだ。



それまで黙っていた老女が口を開き


「好きなだけ持ってけ。あんなゴロツキにゃ勿体ない。ろくな事に使いやしねぇ」


話しかけた彼女には一瞥もくれず無愛想に言ったのだった。



すると、それが合図のように

遠くから ザッザッ というまるで行進をしているかのような、複数の規則正しい足音が聞こえてくる。


集団の足音はどんどん近づいてくる。


友人はふと地面を見た。

足音の主の影が地面にうつり、次第に大きくなっていく。


彼女が恐る恐る後ろ振り向くと・・・




  大日本帝国万歳!!!!  




耳元で集団の大きな聞こえ、同時に二人は意識を失った。

気がついた時には現実に戻り、十字路で倒れていたそうだ・・・。


起きた時刻は19時。


良太は「右手が痺れる」と言ったが、一時的なものだろうと1時間ほど放っておいた。


次に左手が痺れだし、やがて右手は感覚が全く無くなった。

慌てて夜間緊急外来へ行き、今は病院で検査中とのこと・・・。






「・・・それは、大変だった、ね・・・」


僕はかすれ声で言った。

彼女の語る話は事実なのだろうか?


彼女はテーブルに置かれた焼きたてのパンにバターとジャムをたっぷりと塗り、にこにこしながら頬張る。


「その、・・・彼氏のこと、心配じゃないの?」

「うん!全然~♪」


あれだけ共依存状態だったのに、たった一夜でなぜここまで変わったんだ?


「ねぇねぇ大介くん」

「うん?」


・・・軍人さんて、かっこいいよね・・・。


彼女はうっとりと惚けた表情でそう呟いた。

何がなんだか・・・いや、少し、何がどうなったのかわかるような気もする・・・・。




それから数日後、彼女から一通の長文メールが届いた。


『大介くん、元気?私はすっごい元気だよ~!


あれからのこと、報告してないよね。

実はさ・・・

良太、右ひじから指先まで麻痺しちゃったんだって。

原因はわかんないみたい。


左手も痺れてて、感覚は多少あってもほとんど力が入らない。

両足も動かしづらくて、歩行も難しくなったみたいよ。


私ね、異世界で振り向いた時・・・先頭に立ってた軍人さんと目が合ったの。

一瞬だけど・・・。


きっと・・・あの軍人さんが助けてくれたんだよ!

すごく優しい目だったし、今思えば少し微笑んでくれたような気もする!


良太の検査入院中、お見舞いに行ったんだけど、怒鳴られた。

全部お前のせいだ!!!って。


でもね、もうなんとも思わないの。

なんでこんな奴の言うこと聞いてたんだろう?って。

私、変だったよね。目が覚めました!


心配かけて、迷惑かけて、ごめんね。

これからはしっかりと地に足を付けて生きていこうと思う。

なんて私らしくないなぁ~笑


今から例の十字路に行って、あの軍人さんと再会して、愛の告白してくる!


あの日から、あの軍人さんの目が頭から離れないの・・・・。

きっとあの軍人さんが私の探してた運命の人だよ・・・。


じゃあ、またね!あの軍人さんと一緒に帰ってくるから、そしたら紹介するね!』




・・・・・。どこが地に足を付けてるんだよ。


良太に関しては、因果応報なのだろうか・・・ご愁傷様、としか思えない。


しかし、一連の流れを思い出すと

随分不思議な体験だった。


十字路で固まって動けなかった僕を見守る無数の視線・・・

あれも彼女の言う、子供たち、だったのだろうか。

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