そのななっ 「とうがらし」
「やっぱ夏はつけ麺だねー」
「いやいやラーメンでしょう。暑い中食べるのが良いんじゃない」
「いやいやいや夏だからこそ食べれるつけ麺、夏限定、食べなきゃ損じゃないか」
「限定、お得、お一人様限り、そんな言葉に乗せられる日本人の悲しき性ね」
初夏、私はせっちゃんとお馴染みのラーメン屋さんに来たのですが、
どうも数日前から店の前に新たな看板が追加されたようなのです。
そう、初夏に現れ、真夏にはその居場所を「冷やし中華 はじめました」に奪われる、
冷麺の主役(当社調べ)『つけ麺』です。
せっちゃんは『つけ麺』に目がないので、店員さんに嬉しそうにその名を告げていました。
季節限定メニューは、券売機に名前が載らないのです。
通常券を渡すだけで良いため、ラーメン屋での店員さんとの会話は限りなく0に近いはずなのですが、つけ麺!と告げるせっちゃんよりも、「ほうれん草とキクラゲ抜きで」と告げる私の台詞の方が長いのがどこかもの悲しい。
「そんな悲しき日本人のチカちゃん、これ食べる?2個しかないけど、1個あげるよ?」
「なになに!?」
たった2個しかないトッピングを分けてくれるなんて、せっちゃんは太っ腹です。
私は絶対に4個乗っている角煮も、3枚乗っている海苔も分けてあげないのに、なんて優しいのでしょう。
「とうがらし」
「これ?うわほんとだ、とうがらしだ」
「これねー、カリカリしてて美味しいんだよぉ」
何を隠そう、この店にはちまたで話題の「食べるラー油」もありますし、
私はとうがらしの辛さが大好きのため、悲しき日本人に成り下がり、1つ頂くことと相成りました。
ひゃっほい儲け儲け-!
「いただっきまーす!」
カリッ
パリパリ
むしゃむ・・・・しゃ・・?
「からっ!から!からぁぁ!ちょ、水!水!水!」
「ばっ、本気で食うヤツがあるか!それ薬味だぞ!冗談だったのに!」
「水!水!水!」
「ほら水!だいじょぶか!?」
「っ・・喉灼けるかと思った!からっ!痛い!ばかっ!ばかばかばか!」
「ばかはおまえだっつの!なんで食うんだよ、食うもんなわけねーだろ、こんな見るからーに飾りの唐辛子!」
「だってせっちゃんが美味しいよっていったもん!」
「信じるなよ!おまえ騙され安すぎだろ!」
「う、うあーん、辛いよ痛いよー心が痛いよー騙されたよ-」
「嘘泣きはいいから水飲みなさい」
「うー」
心が痛いのは本当よ?
店員さんの哀れみの目線が、私のガラスのハートに突き刺さりっぱなしなんですもの。
「まったく、バカなんだから、少しは疑いなよ」
「うん・・」
恐らく心中大爆笑の店員さんはみなかったことにして、「くそっ!もうせっちゃんの言うことなんて信じねぇ!」そう心に誓った私なのでした。
そしてお察しの通り、この誓いの存在が忘れ去られるのは、そう遠い未来では・・ないのでしょう。
それはまた、別のお話。
もちろん実話です。
辛かったです。
喉が禿げるかと思いました。
おっと、最初からだった。
つけ麺は美味しいですよね。でもラーメン派。