そのろくっ 「かまくら」
「むっちゃん・・ここ、どこ?」
「わかんない」
「鎌倉のどこかであるのは間違いないんだけど」
つまり迷子である。
「そもそもなんで、こんなことになったんだっけ?」
「線路に沿って歩いて行くのが青春っぽいから!」
「そうだった、それで一駅歩けば電車賃も浮いてお得ー♪って話だった」
そして迷子になったわけだ。線路に沿って歩いていたら、途中でトンネルと山にぶつかって、にっちもさっちもいかず、それっぽい方向にあるけどあるけどお寺があるばかり。
果たしていったい今どこにいるのか、そもそも鎌倉なのか、まさか歩きすぎて湘南平塚くらいまでたどり着いていたらどうしようか、なんていう妄想すら生まれて若干の不安が胃のあたりをぐるぐるとかき回す。だけど楽観的なむっちゃんと一緒だから、そんな不安もそぉい!そぉい!とどこかに投げ捨ててしまいたくなる。
「チカちゃん、あっち行ってみようよ。なんか山あるよ。」
「ほんとだ、山があるね。電車も山通ってたし、山超えないといけないっぽいよね」
「この山のぼるー?」
「のぼるかぁ」
何故登山をしているのだろう。おかしい。確かにこれも青春といえば青春だけど。
「はぁ・・はぁ・・もう疲れた帰りたい」
「これ帰り道だよ、チカちゃん」
「駅はどこだあぁあぁあ」
「あれ、あれ、あっちっぽい!」
「ほんとだ!」
看板を見つけた。でかしたむっちゃん。北鎌倉駅まで2000m。あれ、つまり2キロ?ちょっとまってどーいうことなの。もう結構歩いたよね?記憶では2時間は歩いてるよね?あれ、鎌倉駅から北鎌倉駅って電車で10分もかからないよね。おかしいな、何をしているんだったか。とりあえず北鎌倉についたら鳩サブレを食べようそうしよう。なーんて考えてたら無性にお腹がすいてしまった。
「何か食べたいねぇ」
「あそこに甘味屋さんがみえるよ」
「お金あるぅ?」
「ないぃ」
そうだよね。あったら歩こうなんてバカなこと、思いつかないもんね。
「いいんだ、ついたら駅前で鳩サブレ買うんだ・・」
「鳩サブレなら、100円くらいで買えちゃうもんね!」
「鳩サブレかってオレンジジュース飲むんだ・・」
「うんうん、ご褒美は大事だね!」
「むっちゃん元気だねぇ」
「だって楽しいよぅ?」
「あはは、私は疲れました。倒れそうです。」
「運ばないよ!」
「うん、歩くよ」
とぼとぼ。だんだんペースが遅くなる。でも北鎌倉駅に近づくのが分かる。ちらほら見覚えのある風景。あとちょっと。あとちょっとで鳩サブレが!鳩サブレが食べれる!まってろ鳩!
「着いたぁぁあぁあ」
鳩サブレの文字が輝いて見える。あぁ待っていてくれたんだねサブレくん。愛しの鳩サブレ。ぱさぱさして喉が渇くとか思っててごめんよ。今日から評価が変わるだろう。憩いの鳩サブレ!
「むっちゃんむっちゃん鳩サブレ!買ってくる!」
「うん!鳩サブレ食べよう!!」
「せっかく北鎌倉だし!!」
「そーだそーだ!!」
鳩サブレご購入。あぁ美味しい。今まで食べた鳩サブレの中で一番美味しい鳩サブレだ。なんかもう鳩の味がする。鳩食べたことないけど。美味しいなぁ美味しいなぁ、言いながら券売機に向かう。
「えっとー」
「・・・ね、ね、チカちゃん」
「うん、あの・・見なかったことにしようか」
10円すらも変わらない切符の値段に、【無駄足】とか【無意味】とか【徒労】とかいろんな単語が脳内を走馬燈のように駆け抜けたのだった。
「むしろ赤字だよね」
おのれ鳩サブレ。袋をぎゅって握りしめた。鳩サブレの「酷い!言いがかりだ!」という叫び声なんて、あーあー聞こえない聞こえない。
「・・・むっちゃん、あの、切符代・・10円貸して」
あーあー笑えない笑えない。
そして鳩サブレは鎌倉でも、というか地元でも買えるという罠。