そのごっ 「ぴえーる」
「まーこ、あのさぁ」
「なに?」
「もしもさー」
「うん」
「金持ちのおっさんがお金くれたらどうする?」
そういう他愛のない妄想、しかも絶対あり得なくて、生産性皆無な想像っていうのはさ、バカらしい。バカらしいけど、だからこそ、良いんだよね。
「お金ってどんくらい?」
「一億とか」
「まずさ、シチュエーションが意味不明なんだけど」
「んー、その辺はおいといて。もっと話を具体的にしようか」
そうだな、おっさんの名前はピエール・トーマスとかそんな感じ。金持ちそうな雰囲気で、多分60歳くらいのジェントルマン。タキシード着てて、アタッシュケースとかもってて、お抱え運転手と執事付きのベンツに乗ってる。年収100億とかの大富豪。
「みたいな」
「あー、ほんとに金持ちだねピエール」
「うん。そんでさ、ピエールが、なんとなくそのへんから現れてさ」
「うん」
「1万円札を差し出して、コーヒーを買ってきてくれないか、お釣りは全部あげるよ、とか言わないかな」
「1万円札とか太っ腹だな!!」
「そりゃピエールだもん」
「9880円も余るね。うわーそしたらPS2のソフト買えるじゃん!」
「2本・・中古なら3本いけるよね!」
「むしろゲーセンで音ゲーが98回も出来る!」
「うまい棒だと988本買えるんじゃない!?」
「うわーピエールえらい」
「ピエール超太っ腹だ」
「あーあのおっさん実はピエールだったりしないかな」
「もうあの電信柱が実はピエールでした、とかでもいいよ」
「ピエールいないかなぁ」
「お金欲しいなぁ」
働け若人、と言われるかもしれぬ。
だがピエールを欲する気持ちは切実なのだ!働かずして大金を持つ・・これは誰もが一度は憧れるシチュエーションに違いない!そしてピエールは、そのシンデレラストーリーのキーマンに他ならないのだ!髪はグレーなピエール。お気に入りのネクタイはルージュのピエール。愛娘に貰ったネクタイピンを愛用しているピエール。先立たれた妻の墓参りはどんなに多忙でも毎年欠かさないピエール。そんな紳士が欲しいのだ!この片田舎にいるはずがないなんて、そんな現実はどうでもいいのだ!私は欲しい、ピエールが欲しい!
「あー。空から降ってこないかなぁ、ピエール」
「降ってくるならお金だけでいいや。」
「あ、うん。それなら別にピエールいらないね」
「うん。ピエールいいからお金欲しいね」
さらば、ピエール
似たような妄想は今でもする。お金欲しいなぁ。