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9、王子、明かす


 どうして、私を招くのか? ただお礼がしたいだけではないのでは――そう、リリーが指摘したら、フォルティス王子は苦い表情になった。


 逡巡の後、彼は息を吐きながら言った。


「助けてほしい人がいる。黒き呪いを解いたリリーさんなら、助けられると思う」

「どういうことですか?」


 聞けば、封印の魔物は、フォルティス王子の屋敷を襲撃したらしい。領内の集落が襲われたと聞き、準備をしていたら、逆に魔物のほうからやってきたのだという。


「その時、妹が封印の魔物の放った呪いを受けてしまった……」


 王子は唇を噛み締めた。


 何でも、出立前に妹や屋敷に残る者たちに挨拶をしていた時に襲われたらしい。その時、フォルティスを妹は身を挺して庇い、呪いを受けてしまった。


「そこらの治癒魔法では解けない呪いだと魔物は言っていた。事実、呪いを受けた者を治癒術士が助けようとしたが、解除できないと聞こえた。だから――」


 フォルティス王子は俯いた。自分を庇い呪いを受けてしまった妹。死の呪いゆえ、もしかしたらもう――


(ああ、駄目だわ。そんなの絶対によくないわ)


 リリーは、フォルティス王子の苦悶の表情に胸が苦しくなった。助けてあげたい。衝動がリリーを突き動かした。


「行きましょう。早く妹さんを助けないと」

「っ! ありがとうっ! 恩に着る!」


 フォルティス王子は破顔した。よほど嬉しかったのだろう。リリーが応じてくれたことで、彼がこれまでとはまた違った顔を見せる。


「よかった。実は断られるんじゃないかと思っていた」

「そうですか?」


 そんな風に見えたのだろうか、とリリーは複雑な気持ちになる。元が引きこもりだから、周囲にはそう思われてしまうのかもしれない。


「だって、もしかしたら君は森の妖精じゃないかって思ったくらいだから」

「妖精……!?」

(私が……?)


 予想外の言葉に、リリーは表情を引きつらせる。


 入ったら出てこれないと言われる迷いの森に住み、呪いを解く魔法を使い、ダークストーカーを単独で撃退できる能力を持っている。だから普通の人間ではない、とフォルティス王子は考えたらしい。


(そう言われてしまうと……そう見えてしまうかもしれない)


 魔族や敵に見られなかったマシかとも思う。……実は、そう勘ぐられていたことは、リリーも思ってもいなかった。


(でも、そういうことなら、力を使っていいか)


 リリーは、アーカイブを開く。突然、本が現れ、フォルティス王子は目を丸くした。


「!? 何だそれは」

「魔術書ですよ。……妹さんのことも心配ですし、急いで帰りましょう」

(クリエイト・ホース!)


 馬を生成する魔法を使う。青い光と共に、真っ白い毛並みの馬が姿を現した。


「おおっ!?」


 王子様が、口をあんぐりと開けている。リリーは言った。


「さあ、フォルティス様。こちらの馬にどうぞ」

「あ、ああ……どういう魔法なんだこれは。本物? 鞍や鐙はないのか?」


 このままではちょっと乗るのが難しい。


「アーカイブ。この馬に合う馬具を。……クリエイト!」


 魔術書が応え、白馬に鞍、鐙はもちろん手綱もつく。


「君の魔法は凄いな。馬を作るなんて、見たことがない」


 鐙に足をかけ、フォルティス王子は白馬に跨がった。さすが王子様、乗るまでの動作に無駄がなく、華麗だ。


「ところで、リリーさん。君は?」

「私は馬に乗ったことがないので。その代わり――」


 ウイング――私の背中に白い翼が出現する。またもフォルティス王子は驚愕した。


「なっ……!? まさか、君は天使だったのか!?」

「あー、いえ、これも魔法ですよ」


 正確に言うと、勇者能力。この翼で空を自由に飛べるらしい。バサリと羽ばたき、足が地面を離れる。


 聖女儀式で受けた光の中で、リリーは勇者の技能、能力、戦い方などが記憶に刻まれ、体も変化した。だから、勇者能力である飛行、滞空能力を自由に使える。ただし、飛行に対してまだ感覚が追いついておらず、せいぜい森の家の屋根くらいの高さくらいしか飛んだことはない。


「では、道中に話をするとして、フォルティス様のお屋敷まで急ぎましょう」

「あ、ああ……」


 色々聞きたいことがある顔だが、急ぐ必要があるのを思い出し、フォルティスは白馬を走らせた。


(まだ高さを取ると怖いけど、ついていくくらいなら……)


 リリーは背中の翼で、白馬のすぐ横を飛ぶ。フォルティス王子は声を張り上げた。


「この馬は素晴らしいな! こんな速い馬は初めてだ!」

「それはようございました」


 賢者能力の魔法で生み出した馬である。正直、リリーは他の馬をさほど知らないので比較しようがなかったりする。


「リリーさん、君には驚かされたばかりだ。本当に天使じゃない?」

「違いますよ。人よりちょっと変わった魔法が使える隠者です」

「なるほど! 隠れないといけない理由があるわけだ」


 フォルティス王子は笑みを引っ込めた。


「君にひとつ謝らないといけないことがある」

「何ですか、フォルティス様……?」

「俺は、騎士じゃないんだ。俺の名前はフォルティス・ゲオマリー。この国の第二王子なんだ」

「……はい」

(知っていました……鑑定で)

「ひょっとして気づいていたのか?」


 リリーがあまり驚いた様子がなかったから、フォルティス王子は怪訝な表情になった。リリーは考える。この場合は、知っていたと認めたほうがいいのだろうか? それとも知らなかったというべきか? 


(……うん)

「あー、何となくそんな気がしていました。その、物腰が優雅だったので……」

「ふっ、俺などは無骨者とよく言われるんだがな」


 砕けた調子でフォルティス王子は微笑した。完全に敬語口調ではなくなっている。


「名前をそのまま名乗ったのがいけなかったなぁ……」

(いや、鑑定で見たので、偽名でも王子様ってバレてましたよ)


 実のところ、引きこもりでここしばらくパーティーなどの集まりに出ていなかったので貴族や王族の名前がうろ覚えだったり、忘れていたりする。


 ともあれ、今、向かっているフォルティス王子の屋敷。助ける妹というのも、つまりは王女様である。責任重大だ。


(どうか、呪いを解く前に亡くなっていませんように……)


 リリーは静かに祈った。

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