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6、ダークストーカー


「いま、王国は未曾有の危機が覆われようとしているんです」


 フォルティス王子は語った。


「突然、封印の魔物が暴れ出し、さらに魔族による攻撃が行われた……」

「そうなのですか……!?」


 リリーは驚いた。聖女儀式が十日前。それまではこのゲオマリー王国に、封印の魔物とか魔族の襲撃などという話は皆無だった。


 少なくとも、王国内にあるヴェンデラー伯爵領では、噂すら聞かなかった。


 もちろん、リリーは伯爵邸では引きこもりであり、外の情勢にあまり詳しくはない。だが王国の一大事ともなれば、伯爵邸にいる人間がまったく話さないなどあり得ない。後妻であるシアスにしろ、フレサにしろ、メイドたちにしろ、聞けば噂すらしないなど絶対にないのだから。


「ここ最近とは、どれくらい前の話なのですか?」

「七、八日くらい前です。私の領地でも騒ぎになり、封印の魔物の一体が襲撃してきたのです……」

「まあ……」


 リリーは思わず口もとに手を当てた。


「ひょっとして、フォルティス様がそのお召し物をされているのも、魔物と……?」

「ええ、戦いました」


 フォルティス王子は苦笑した。


「空へ逃げようとしたので、剣を突き立てたら一緒に空へ運ばれて……そのままこの森に落ちたのですよ」

「そうだったのですか……。その封印の魔物は?」

「倒しました。ご安心ください」


 一瞬、フォルティス王子は誇らしげな顔をした。


「ですが、黒き呪いをその身に宿している封印の魔物。私はその戦いで体に呪いを受けて……絶体絶命のところをあなたに助けられたのです。本当に、ありがとう、リリーさん」

「いいえ、お気になさらずに」

「いえ、気にしますよ。封印の魔物の呪いは、ひとたび浴びれば、その者を殺すという伝説があります。そしてそれを治すのは高位の神聖魔法か、それこそ聖女くらいしかいませんよ」


 聖女、と聞いて、ドクリと心臓が跳ねた。


「リリーさんはお若いのに、高位の神聖魔法を使えるとは、大したものです。おかげで命拾いしました。お礼をしたいのですが、何か希望はありますか?」


 ザッと草を踏みしめた時、リリーは気配を感じた。後ろにいたフォルティス王子も腰に下げていた剣に手を伸ばす。


「何か……」

「いますね」


 森の草を掻き分けて、黒い装束をまとった人が現れた。姿は人間。しかし黒いオーラをまとったそれは顔がなく、人間とは異なるモノのようで。それが複数!


「ダークストーカー!」


 フォルティス王子はロングソードを抜いた。


「封印の魔物の眷属が……まだ残っていたかッ!」


 囲まれていた。そしてダークストーカーが飛び込んできた。感じるのは黒くモヤモヤとした不快なもの。冷たい死。


「リリーさん!」


 殺意、怨念――迫るダークストーカー。


(十日前の私なら、何もできなかった……)


 聖女儀式で浴びた光は、リリーの中で色々なものを変えた。あれは適性を見るだけではない。その適性に体を作り替えられるのだ。


(だから――)


 ライトニングパイル――リリーの右手に光の槍が一瞬具現化し、魔なるダークストーカーを瞬時に消滅させた。


(こういうこともできる! 私は、勇者なのだから!)

「騎士様!」


 フォルティス王子に向かってきたダークストーカー。しかし王子はロングソードを構えて、一閃。すると闇の眷属の体が上下に分断された。


 これにはリリーも驚いた。


(凄い力だわ……)


 人間の体は、あんな簡単に真っ二つにできないものである。ほっそりしているように見えて、フォルティス王子は実は並の人間の範疇に入らない剛力の持ち主なのではないか。


 よくよく考えてみれば、封印の魔物を倒したと言っていたフォルティス王子である。


 リリーは詳しく知らないが、封印されるほどの魔物など、相当強いはずだ。簡単に倒せないからこそ、封印されたのであって、そういう魔物をフォルティス王子はおそらく単独で倒しているのだ。


(相当お強いのだわ)


 リリーは自分に向かってくるダークストーカーを察知し、刹那の間に光の槍で貫く。燃え滓のように散っていく闇の眷属。勇者の力も大概である。


 周囲にいたダークストーカーは全滅した。


「リリーさん!」

「フォルティス様、ご無事ですね?」


 怪我をしていれば魔法で治癒しようと思っていたが、危なげなかった。


「あ、はい。無事ですが、リリーさん……あなたも無事、そうですね」


 何と言ったらいいかわからないような顔をするフォルティス王子。リリーはニッコリ笑みを返した。


「森にも獣はいますが、今のは初めてでした」


 迷いの森の魔獣も対処できる闇の眷属とも戦えますよ、とと含ませて言ったリリーである。力のない人間が迷いの森を生き抜けるわけがないのだ。


「闇の眷属ですか……。また物騒になりました」

「ここはあなたの庭……。お騒がせしてしまい、申し訳ありません」


 王子様が素直に頭を下げてくるので、リリーは恐縮してしまう。


(いえいえ、そんな。私の庭じゃありませんよ……)


「リリーさんは、お強いのですね。屋敷の騎士すら手こずるダークストーカーを、まさか一撃で倒してしまわれるとは……」


(やっぱり、ダークストーカーってそこらの魔獣とは格が違うのか……)


 勇者の力の覚醒。それは完全素人だったはずのリリーをして、熟練の戦士のそれに対応した反応速度、戦闘技術を会得させた。だから普通なら恐怖に足が竦むような敵を前にしても動じなくなっている。……敵の戦闘力を冷静に分析できるくらいに心と思考も、十日前とは違う。


「フォルティス様も、さすがですね。ダークストーカーですか、あれを一振りで倒してしまうなんて!」

「あ……いえ。力が取り柄だったりしますから……」


 フォルティス王子は照れたように頬が赤くなった。まさか褒め返されるとは思っていなかったのだ。

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