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5、人間か、妖精か?


 フォルティスも困惑していた。


 フードを取ったリリーは、とても美しかった。


 不気味な森に棲む魔女と警戒していたら、若く、自分より年下だろうと思える可憐なる少女だったのだ。


 声は若かったからもしやと思っていたが、素顔を見て驚いてしまった。


 フォルティスが驚き過ぎて、リリーも困った表情を浮かべた。さすがにうら若き乙女に対して失礼と思い自重した。


 だが、動揺は隠せず、本来気をつけなければならない料理も、無警戒でそのまま口に入れてしまった。


 コーンスープというまったりとろみのあるスープは舌に優しく、そして温かかった。王宮や屋敷にいた頃の、すっかり冷めてしまった料理が多かったフォルティスには、この温かさが身に沁みる。胸の奥がホッとした。


 出されたパンも、貴族が食べるような白パンだが、とても柔らかく、その味わいは王子である自分がこれまで食べた中でもっとも美味だった。


(何だ、このフカフカで、もちっとした食感は――)


 気づいた時には、すべてを平らげていた。そしてフレッシュなジュースを飲み干してようやく、毒見のことに気づいた。


 後の祭りである。


 リリーは敵ではない。警戒し過ぎではないかと思えてくるが、そもそも迷いの森にひとりで住んでいるというのが怪しくないはずがない。


 だから、フォルティスは聞いた。助けてくれた恩人ではあるが、安心しきったところで実は罠でした、ではたまらないのだ。


「――あなたは何者ですか?」


 直接的過ぎたかもしれない。リリーはビクリとしていた。答えに窮しているようなので、さらに重ねる。


「私はこの森から出られず、呪いで死を待つのみだった。そこを助けたのは、あなたですリリーさん。私はあなたに拾われた。つまり、私を生かすも殺すも、あなた次第ということです。……私をどうするおつもりですか?」


 そう、命の借りがある。場所がもっと普通だったなら、恩人として屋敷に招き、充分な報酬や、何か欲しいものがあれば贈っただろう。


 だが、どうにも不安が拭えない。最近、王国に跋扈しはじめた魔物と関係があったりしないだろうか? 幼く、美しいリリー……。森の妖精、いや精霊だったりするかもしれない。


 魔物と関係なくても、精霊だったりしたら大変だ。人間を森に連れ去り、外に出さないなど平気で行うとされるのが妖精や精霊だ。


 フォルティスはできれば早く帰りたいし、さらに理想を言えば呪いを解けるリリーを、連れて帰りたかった。


 だが森で妖精らを怒らせたら、永遠に森から出られなくなる! 妖精や精霊は森を出ないから余計に。一歩対応を間違えれば、この温厚な少女が、悪鬼に変貌するかもしれないのだ。


 どうするつもりか、その問いに、リリーは困っていた。これはますます妖精か精霊の類いかもしれない。


 が、唐突に彼女はフードを被った。


(え? 何で今フードを……?)


 混乱するフォルティスだが、リリーはそこでニコリと笑った。


「別に何もしませんよ?」


 リリーは、フォルティスさえよければ、森の外に案内してくれるとさえ言った。


 それが本当なら、どれだけ救われただろう。迷いの森の外に出られる。屋敷に帰ることも。


(でも、できれば、俺と一緒に屋敷にきてほしい……!)


 フォルティスは思う。何故なら、呪いを解く魔法があるリリーに、呪いを解いて欲しい人がいるのだ。


(それを正直に話したら、手を差し伸べてくれるだろうか……?)


 この無害そうな、しかし人間か、はたまた妖精の類いかと判断できない少女は――


 人間ならば、助けてくれるかもしれない。


 だが妖精や精霊は、森の外に一緒にきてほしいと言ったら最後、敵に変わるかもしれない。


 まずは、迷いの森の外まで案内してもらおう。森を出られたところで、リリーに同行をお願いしてみよう――フォルティスは頷いた。


「すいませんでした、リリーさん。助けてくれた恩人なのに、疑うようなことを言って」


 フォルティスは謝罪した。本当に善意で助けてくれていたなら、申し訳ないという気持ちに偽りはない。


 ただし、妖精などだった場合は、敵に回さないように中立ないし良好的な関係であるように演じなければいけない。


 森を出るまでは善良に。そして願わくば、この可憐な少女が人間で、命のお礼をさせてくれないかとフォルティスは心の底から願うのである。


 ただ、もうひとつ彼女にお願いすることがあるのが、同時に心苦しくはあった。……それは、呪いに苦しむ家族の命を助けられるかもしれない事柄だから。



  ・  ・  ・



 森から出たいようなので、リリーは、フォルティスを連れて、森を歩いた。


「すみません。できるだけ急いで帰らないといけないもので」


 頭を下げるフォルティス。前を行くリリーは、手にした杖の導きに従い、歩を進める。


「もう何日も彷徨っていらしたんですよね、フォルティス様。あなたの帰りを待っている方々もいるでしょう」


(何せ王子様だもんね……)


 リリーは道案内と行って前を歩いているが、実は道順など知らない。万能知識書のアーカイブを起動させれば、それを確認しながら行けるが、ここでお別れになる王子様に見られたくはなかった。


 ……便利過ぎると、それを手に入れようとしてくるかもしれない。


(王子様はお優しい方みたいだけれど……。人間の本性なんてわからないものだし)


 そもそも本当の身分すら隠しているフォルティスである。笑顔の裏でリリーを信用していないのか、明かせない理由が他にあるのかもしれない。


(森の外まで案内して、何かしてくるようなら、森に逃げればいい)


 リリーはそう心の中で呟いた。手にある杖――ただの木の棒だが、これにアーカイブの地図機能の一部を複製し刻みつけた。この杖もどきの導きに従えば、森の外に出られるという寸法である。


「ねえ、騎士様。ひとつお伺いしてもよろしいですか?」

「何でしょう、リリーさん」


 フォルティスの声音は優しかった。


「あなた様は、どうしてこの森にいらしたのですか? ここに来なければ、お迷いになることもありませんでしたのに」

「……そのことですか」


 ちらと振り返れば、フォルティスの表情が曇っていた。


「リリーさんは、森の外のことはご存じですか? その、ここ最近の出来事なのですが――」


 最近、と聞いて、リリーの心臓がギュッと縮んだ。もしや、聖女儀式の――

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