表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/16

4、何者ですか?


 室内でフードを被ったままというマナー違反をやらかし、取ったリリーだったが、何故か、フォルティス王子は固まってしまった。


(何故、そんなじっと見つめるの……?)


 リリーも震える。王子がイケメン過ぎて、リリーは別の意味で激しく緊張した。こういう若い異性から凝視される経験が、リリーにはなかった


 自分の顔に何かついているのか――そう思った時、ようやく王子はハッとしたような顔になった。


「し、失礼しました。レディーの顔をそんなマジマジと見つめるものではありませんね」

「え……ああ、はい。そうです、ね」


 まだ胸がドキドキしていた。王子様が素敵過ぎていけない。リリーは料理を指し示しながら、早口になる。


「じっくり煮込んだコーンスープとパン、あと果汁を絞ったジュースになります」


 わなわな……。


「あぁ、これはご丁寧に。……シチューかな? 変わっていますが……ああ、匂いがたまりません。いただいても?」

「ど、どうぞ」


 王子様のお口に合うのか? 不安でたまらない。料理人でもないリリーである。アーカイブで知った料理は美味だが、王子が気に入るかは別問題。身分を隠して騎士と名乗ってはいても、気に入らなければ、首を跳ねられるということもあり得る。


 フォルティス王子は、トロトロに溶けた黄色いスープをスプーンですくう。湯気をたてるそれを一口。


(あ、そういえば、王子様は食べる前に毒味とかしなくてよかったのかしら?)


 なにも言わなかったが。注目していると、フォルティス王子は目を見開いた。


「これは……美味しい。トロリとしていて、温かくて、優しい味ですね」

「あ、ありがとうございます」


 どうやら、お口に合ったようだ。リリーは無意識のうちに息をついた。


 よほどお腹が空いていたのだろう。パンもスープもどんどん食べていく。リリーは王子の食事を見守る。


(いいなぁ、私の用意したものを美味しそうに食べてくれるなんて……)


 ほんわかした気分に浸っていたら、フォルティス王子は食事を終えて、ふぅ、と小さく息をついた。


「大変美味しかった。温かい食事というのは、あまり食べたことがなくて。いいものですね」

「お粗末さまでした」


 リリーは頭を下げるが、フォルティス王子は苦笑した。


「ああ、そこまで畏まらないでください。私は、一騎士ですから」


 あくまで王子ではありませんと白を切るつもりのようだった。


(騎士だろうと、平民からしたら『様』付けで敬うものなんだけど……)


 リリーとて、あまり経験がないので、騎士というものはイメージで語っている部分も大きいが、記憶違いでなければ、農民が『騎士様』と呼んでいたはずだ。


「ところで、リリーさん、よろしいですか?」

「はい、何でしょうか?」


 さん付けをされて、こそばゆいものを感じる。呼び捨てでいいのに、と思うが、身分を隠していても王子様。迂闊なことを言う度胸はなかった。


「単刀直入に言います。あなたは何者ですか?」

(っ……)


 ヴェンデラー伯爵家の娘です、とは答えられなかった。森の外では神官殺しとして手配されている可能性が高い。


 迷いの森とヴェンデラー伯爵領は離れていると記憶しているが、この近辺にも手配書が出回っているかもしれない。


 教会の勢力は国全土に及んでいるから、神官殺しともなれば国中の教会関係者の耳に入るに違いない。


「迷いの森に住んでいる魔術師――」


 フォルティス王子は言った。


「しかも黒き魔の呪いすら解除できてしまう実力者。只者ではないでしょう」

(聖女で、勇者で、賢者です……)


 これも言えない、とリリーは視線を逸らす。


(何と言って誤魔化せばいい……?)


 この森で過ごして、初めて遭遇した人間だ。家にまで招いてしまった以上、さすがにだんまりはできない。


(……どうしよう、何か言わないと怪しまれるぅ)

「わ、私は――」


 焦る心。声が震えないように、何とか踏みとどまる。


「お恥ずかしながら、人の多い場所が苦手でして。……こうして深き森にて隠者をしているのです」


 嘘は言っていない。ここ数年、伯爵邸でも引きこもりだった。


「では、私の身柄はどうなるのでしょうか? リリーさん」

「はい……?」

(身柄……とは?)


 怪訝に思うリリーに、フォルティス王子は言った。


「私はこの森から出られず、呪いで死を待つのみだった。そこを助けたのは、あなたですリリーさん。私はあなたに拾われた。つまり、私を生かすも殺すも、あなた次第ということです。……私をどうするおつもりですか?」


 どうするとは――急に言われても困惑するしかないリリーだった。


(これは彼を助けたお礼に対価を要求していいということかしら……?)


 普通だったならどうだろうか? やはり、助けたのだからお礼しろというのが正しいのか? 外部の人間との経験が少ないリリーには、正直よくわからなかった。


(相手は王子様。困っていたならお助けするのは、当たり前じゃないの?)


 どう答えるのが正解かわからず、リリーは戸惑うしかなかった。だがこのまま黙っていては、心証が悪くなるだけである。痛い腹を探られるのは避けたい。

(ええい、どうにでもなれ!)


 リリーはフードを再び被ると、ニコリとした。


「別に何もしませんよ?」

(笑顔を貼り付けて。家でもシアスやフレサと関わらないように逸らしてきたじゃない。欺け。演じろ。無害を装え!)

「何も……?」

「ええ、私は騎士様に何もしませんよ」


 呪いを解いて、その命を拾いはしたが、対価が欲しくてしたことではない。


「森から出られず困っているのでしたら、森の外までご案内しましょう。繰り返しますが、私はあなたから何かを求めるために、お助けしたわけではないですから」

ブクマ、評価などお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ