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14、シャーロットと談笑


「リリー様、おはようございます!」


 シャーロット姫が訪ねてきた。金髪碧眼の絵に描いたような美少女である。鑑定によれば歳は16歳。


「おはようございます、姫様。お体の具合はいかがですか?」

「ええ、もうすっきりでございますわ!」


 シャーロット姫は大変元気だった。


(とても明るそうな子だ)


 呪いのせいで瀕死だった姿が印象的だったから、これが本来のシャーロット姫なのだろう。


「ご挨拶が遅れまして。昨日は、わたくしにかけられた呪いを解いてくださり、ありがとうございました」


 スカートの裾をつまみ、淑女の礼をとるシャーロット姫。これがまた堂に入っていて、王族なのだと感じさせた。先ほどの元気娘からきちんとお姫様に切り替わるのはさすがだと、リリーは感じた。


「ご回復おめでとうございます、姫様」


 リリーも淑女の礼を以て答える。ここしばらくの引きこもり生活で、すっかり錆び付いているのではないかと思ったが、幼い頃の躾の賜物か、そつなくできたと思う。


「……」

(いや、ダメだったかも……)


 シャーロット姫は、かすかに小首を傾げていた。何か失敗したか――リリーが不安がると、お姫様は軽く自身の手を叩いた。


「堅苦しい挨拶はこれで終わりとしましょう、リリー様。お兄様から伺いましたが、しばらくこちらにいらっしゃるとのこと。どうぞ、仲良くしてくださいませ」

「はい、こちらこそ、お世話になります。申し遅れました、シャーロット姫殿下。リリーと申します。迷いの森で隠者をしております」


 きちんと挨拶をしていなかったのを思い出し、これは失礼なのでリリーは名乗った。本当ならばヴェンデラー伯爵の娘であることも告げるべきなのだが、諸般の事情で省略する。


「シャーロットです。リリー様のお力で、こうして再び歩くこともできるようになりました。改めて御礼申し上げますわ」


 そう頭を下げたところで、シャーロット姫はくすくすと笑い出した。


「いけませんわね。またも堅苦しい挨拶を……。リリー様、どうぞわたくしのことは、シャーロットとお呼びになって」

「はい、シャーロット様」

「様、はいりませんわ。リリー様はわたくしの恩人。何より神の遣い……あ、これは秘密でしたわね」

「え……神の遣い?」


 リリーはキョトンとしてしまう。シャーロット姫は手を前に出した。


「あ、おっしゃらないでくださいまし。わかっております。このシャーロット、絶対にリリー様のお力のこと、城外で他言いたしませんわ!」


 堂々と胸を張ってシャーロット姫は言った。もう16歳なのだが、そうしていると大人ぶる子供が、やはり子供なのを隠しきれないさまを連想させる。


(神の遣いって何だろう?)


 昨日、呪いを解いて回った時から時々聞こえた女神様呼ばわりが、一人歩きを始めたような気がする。もしかしたら、人間ではないと思われているのかもしれない。お姫様ですらそうなのだから末端など、顔を出した途端、跪かれたりなどしないだろうか?


(……これはあまり外に出られないなぁ)


「それで、リリー様?」

「はい、シャーロット」


 様を外せというので外したら、シャーロット姫は目を輝かせて感じ入った。


「……あの、シャーロット?」

「すいません、こう噛みしめておりましたので」


(何を?)


 本当にこのお姫様は、リリーを神の眷属と見ているようだった。恩人だからという大げさな誇張ではなく、本気で思っている節がある。


「朝食ができましたの。それでお呼びに参らせていただいたのですわ」

「あ、シャーロット自ら?」


 メイドにやらせるようなことを、わざわざお姫様がやるとは。


「いち早くお礼が言いたかったのと、森の隠者であらせられるリリー様から、色々とお話を聞きたくてですね――」

(これは私の正体や出身を探りにきたのかしら――?)


 いくら恩人とはいえ、得体の知れない人間であるという自覚はある。家の名前を隠しているような人間が王族に近づくなど、危険と思われて当然だ。


「――あの迷いの森がどんな場所なのか、森の生活なども聞きたいですわ! わたくし、外の世界に触れる機会がほとんどありませんの……」

(あ、これただの好奇心だ)


 自分を守るための引きこもりであったリリーと違い、境遇から引きこもり同然の生活を強いられているお姫様である。外の世界に興味津々なのだろう。



  ・  ・  ・



 朝食は、昨日と同じ王族専用食堂だった。しかしフォルティスはいなかった。


「お兄様は、いまスヤスヤ眠っておられますわ」


 シャーロットは、ふかふかの白パンをちぎりながら言った。


「ここ数日、城を留守にしていたんですもの。色々とお仕事も溜まっていた、というのもあるのですけれど、ここ最近、魔族とか領内で暴れたりと大変なのですわ」

「大変なのですね……」


 ここ十日のあいだ、世間から隔絶された場所にいたら、とんでもないことになっていた王国。偉い人も大変なのだろう、とリリーは思う。


(もし私が男だったら、魔族とか対処するために戦場に動員されていたのかもしれないわね)


「お兄様は封印の魔物を討伐なさったというし、大変だったのでしょう。昨晩もわたくしのお話相手になってくださいましたし」


 聞けば、夕食の時もシャーロットは、リリーたちと同席したかったようだったが、フォルティスから今は部屋でじっと休めと言い渡されていたらしい。部屋で夕食をとったシャーロットは、その後戻ってきたフォルティスが話し相手になったのだそうだ。


「妹思いのよいお兄様ですね」

「ええ、フォルティス兄様は、とてもお優しいのですわ」


 シャーロットは顔をほころばせた。


「でも同時に不器用な方。人前ではすらすらなのに、わたくしや家族の前では、結構口数が少なかったりしますのよ」

「へぇ、そうなのですか」


 なるほど、とリリーは思った。どうもフォルティスと話している時、かなり口調に幅があると感じていた。普通に王族らしいかと思いきや、不自然なほど敬語だったり。


(器用なのか不器用なのか、わからないわね)


 ちょっと注意して見ていこう、とリリーは思った。

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