二体のデザートドラゴン
疲れ果て、眠りについた二人を見ながらデザートドラゴンの様子を<探知>で確認してみる。すると、これまでずっと追い掛けて来ていたデザートドラゴンの動きが止まっていた。
「おや、動きが止まった。どういう事だろう? でも、休憩に都合がいい。暫くこのままでいてくれると助かるな……」
安心したせいか、一気に眠気がやって来て俺も寝てしまった。二時間ほど経った後、俺はミコト達に起こされた。
「アスカ、起きて」
「う、ん……。はっ。すまない。寝てしまった」
「ううん。大丈夫。それより、デザートドラゴンは?」
「ああ、そうだな。ちょっと待ってくれ」
<探知>を使うとデザートドラゴンは、俺が寝る前に調べた位置から動いていなかった。
「どうやら、デザートドラゴンも寝ているみたいだな。俺が寝る前に調べた時と位置が変わっていない」
「じゃあ、今がチャンスじゃないの?」
「ああ、今の内に距離を稼がせてもらおう。行こう」
俺は松明代わりに<紅蓮>を右手に纏い、走り始めた。二時間程の休憩だったとはいえ、十分に休めた。デザートドラゴンが動かないという安心と、早くここから抜けて逃げ延びたいという一心で、俺たちは走り続けた。
そして、<感知>でもデザートドラゴンの存在が確認出来ない所まで走った所で、日が昇り始めた。
「もう朝だぁ」
「頑張って走ったね」
「そうだな。とりあえず<感知>でもあいつを確認出来ない位には距離を稼げた」
「やったね」
ミサオは喜んでいるが、まだ安心は出来ない。何せ、あいつの索敵範囲がどれ位あるのか分からないからだ。
「まだ安心するのは早いんじゃない?」
ミコトは俺と同じくまだ安心していないようだ。
「そうだな。まだあいつに狙われているかもしれないし、見失ってくれているかもしれない。どっちかは分からないんだ。油断せず、急いでバラトレストへ向かおう」
「分かったよ。でも、夜通し走ったから、少しは休憩しない?」
「そうだな。三十分位休憩するか」
どれ位走ったのか。バラトレストまであとどれ位あるのか。何とか無事に辿り着きたい。そんな事を考えていたら、三十分があっという間に経った。
「よし、出発しようか」
出発前に<感知>を使うと、前方から何かがやって来るのを感じ取った。
「え? ちょっと待った。前から何かが来る!」
「え? 例のデザートドラゴンなの?」
「いや、このサイズ。昨日のよりひと周りくらい小さい。別だ。一直線でこっちに向かって来るぞ」
ミコトもミサオも昨日のデザートドラゴンとは違うと聞くと安心したようにホッとしていた。
「なんだ。違うのか。良かった」
「ミサオ、何言ってる。全然良くないぞ。このサイズひと周り小さいといっても十メートル以上はあるんだぞ」
「でも、あたし達なら勝てるんじゃないの?」
どこから、その自信が出てくるのだろう?
「アスカ、あとどれ位?」
「ちょっと待って。このスピード。俺が<アクセルブースト>を使った時と同じ位か? この場に留まっていれば、一時間、迎え討つのに走っていけば、三十分って所かな」
「じゃあ、昨日のデザートドラゴンの動きが分からないから、この場に留まるのは得策じゃないよね。行こうっ」
「よぉし、ちゃちゃっと片付けて、早いとこバラトレストに向かおう!」
「ミサオは軽く考え過ぎだよ。よし、じゃあ行こう」
前方から向かって来るモンスターが何か分からないが、デザートドラゴン相手にするよりかはまだマシなのかもしれない。俺たちは前方のモンスターに向かって走り始めた。
十分程経ったが、モンスターの姿が見えない。十メートル位の巨体だ。そろそろ姿が見えてもいいと思うのだが。俺の中に一抹の不安が過ぎる。
「……まさか……」
モンスターは<探知>の範囲に入っている。後ろのデザートドラゴンが気になるので今まで<感知>を使っていたが、<探知>に切り替える。
「嘘だろ! 前方のモンスターもデザートドラゴンだ!」
「「えぇっ!?」」
だが、昨日の個体程の危険な感じはしなかった。とはいえ、相手はドラゴンだ。こっちの世界でも、ドラゴン種というのは、他のモンスターと比べて別格という事をアンファ村の冒険者ギルドで聞いた事がある。
デザートドラゴンがどれ程のものかは分からないが、簡単に倒せる相手では無いと思う。
「とにかく、倒せそうなら倒す。無理そうならバラトレストに向かって逃げるぞ」
「分かった」
「二人に会ってから、危険が増えた気がするなぁ」
ミサオのボヤキにツッコミを入れたい所だが、今はそれどころじゃない。
そして会敵に予想した三十分が経った。<探知>を使えば、やはり俺たちのすぐ近くに反応があるが、姿は見えない。やはり砂の中にいるのか。
「来るぞっ! 下だ!」
俺の声にミコトとミサオが後ろに飛ぶのと同時に、砂の中から、デザートドラゴンが勢いよく飛び出して来た。
「うわぁ。アスカに言われなかったら食べられてたね」
その姿は、モグラに似ていた。土竜とはよく言ったものだ。だが、モグラのような可愛らしさは一つもない。
頭は砂の中を進むのに大きな角が一本突き出ており、口は大きく、獲物を砂と一緒に丸呑みするのだろう。
ドラゴンといっても、翼は無かった。手は砂を掻くためか、鋭い爪が長く伸びており、足は短い。足で立ち上がるのは無理そうだな。体は茶色で、鱗に覆われている。頑丈そうなその鱗は、物理は効きそうにない。魔術も期待は薄そうだ。
「これでもくらえ! <ダークアロー>」
ミサオがMDを直ぐ様召喚し<ダークアロー>を唱えさせると、その闇の矢は、デザートドラゴンの鱗に当たると弾けた。
「えぇ。嘘でしょ! 魔術が効かないよ!」
デザートドラゴンは闇の矢が当たった事すら、気にも留めていない様子で、砂の中に再び潜ろうとしていた。
「あいつ、砂に潜って今みたいな攻撃をするつもりか」
「でも、魔術が効かないよ。どうやって邪魔をするの?」
「殴ってみるしかない。ミサオ!」
「分かってるよぉ!」
ミサオがMDをFDに切り替え、俺と左右を挟み込み、デザートドラゴンの横腹に突きを喰らわす。
「硬っ!」
予想通り、俺たちの攻撃力では、鱗に傷一つ付ける事も出来ず、デザートドラゴンは再び砂の中へと潜っていった。
「駄目だ! 俺たちの手に負える相手じゃない。逃げるぞ!」
「うん」
「もう、また走らないといけないのぉ」
ミサオが文句を言っていたが、それは無視して俺たちは走り出した。
「飛べ!」
足下からデザートドラゴンが飛び出して来る。間一髪で避けると俺たちはデザートドラゴンに背を向けて全力で逃げ出した。
そして、デザートドラゴンが砂に潜り込んだ後、位置を掴む為に<感知>を使い、最悪のケースとなった事に俺は言葉を失ってしまった。
もう一体のデザートドラゴン。
いつの間にか、直ぐそこまで近付いていた。




