サウザート領潜入
巨大なロックバードに襲われるもアルの意外な活躍で難を逃れた翌日、俺たちは漸くサウスバレンとサウザートの国境へと辿り着いた。そこには、二日前の戦争の跡がまだ残っていた。
「これはまた……。激しく争ったのか?」
「どうかなぁ? この焼け跡って、どっちかと言うと、昨日のロックバードのせいじゃない?」
確かにミサオの言う通り、この焼け跡は上空から爆撃されたような跡に見える。聞いた話だとサウザート軍にあのロックバードを押し付けたと言うことだったから、これは戦争というよりサウザート軍とロックバードの戦闘の跡というのが、正しいのだろう。
この近くにはサウザート軍の本拠地があるかもしれない。そいつらに見つかったら面倒だな。
「この近くにサウザート軍の本拠地があるかもしれない。気を付けて進もう」
二人共頷くと周囲に注意しながらサウザート領へと入っていった。<感知>や<探知>を使って近くの様子を調べても良いが、逆に感じ取られても厄介だから止めておく。
それにしても、これはまた荒野から一転して、砂、砂、砂。辺り一帯砂だらけの砂漠だ。こんな砂漠だと、水や食料が不足気味なんじゃないだろうか?
「これはまた見事に隠れる所が無いな」
「そうね」
「これならまだサウスバレンの荒野の方がマシなのかな?」
ミサオの言葉に俺は頷く。魔王セドニーは、この砂漠の国を救いたい一心で他の国に戦争を挑んだのだろう。同情はする。同情はするが、手段が良くない。戦争しなくても他に手段はあったんじゃないのか?
「戦争なんかやっている場合じゃ無いだろうに……」
「?、何?」
俺のボソリと呟いた独り言を微かに聞こえたミコトが俺に質問をする。
「いや、何でもないよ。それにしても、サウザート軍の本拠地らしきものが何処にも見当たらないな」
「そうだね。戦争を一昨日までしていたのなら、この辺りに拠点の一つ位あってもいい気がするけど」
ミコトの言う通り、一昨日には戦闘を国境で始めたというのに、その周辺に拠点と思しき建物の一つも無い。そもそも、国境付近に砦なり検問なりあって通行するのが大変なのではと心配していたのが馬鹿と思えるくらい、何も無い。
「ミサオ、本当にここはサウザート領なのか?」
「そうだよ。どういう訳か知らないけど、サウスバレンとサウザートは領土が変わった瞬間に荒野と砂漠に切り替わるって、ブラッド達から聞いてるもん。この砂漠は間違いなくサウザート領に入っているわよ」
そうするとロックバードの襲撃が原因で、砦なり、なんなりの拠点が壊滅したと言うことだ……今更だけど、よく勝てたよな。たった三人で。アルの力のお陰か。
そういうアルは、今は<空納>の中に隠れてもらっている。あいつは一応、救世主と一緒に現れる伝説の子竜と認識されているから、バラトレストまで隠密行動をするには都合が悪い。
「でも、たった一日で拠点を片付けられるのかな?」
ミサオの疑問は皆思っている事だ。
「リスク承知で<感知>を使ってみようか?」
「どうしよっか? <感知>って確か使える人が範囲内にいたら、逆にバレるんじゃなかった?」
「そうだよ。ミコト。だからリスク覚悟なんだ。でも、<感知>を使わずに突然背後から襲われるなんてリスクもあるから、俺も悩んでいるんだ。どうする?」
実は何らかの方法で拠点が隠されていて、気付かずにサウザート軍の真っ只中に入ってしまう、なんて事が無いとも限らない。そのリスクをミコトは理解してくれたみたいだ。
「そうね。<探知>で近場だけ確認っていうのはどう?」
「二人共、何をそんなに悩んでるのよ。そんなのどっちだっていいじゃない。どうせ、見つかったら襲われるのは一緒なんだから」
ミサオが呆れた様子で俺たちの話に入ってきた。お気楽というか、考え無しというか自由というか。でも、ミサオの言う事も一理ある。
「そうだな。どうせ戦闘になるんだったら、向こうの様子が分かった方がこっちとしても動きやすい。よし、<探知>で周辺を確認するぞ」
<探知>で周辺の情報を確認してみる。だが、見た目通りに<探知>で確認出来る範囲には本当に何も無かった。
「まじか。本当に何も無い。拠点も無くて、この砂漠の中を進軍して来てたのか?」
「いいじゃない。そんなこと。とにかく居ないんなら好都合じゃん。とっととバラトレストに向かおうよ。先は長いんだし」
「そうだな。それで、ミサオ。ルートは?」
「うん。ここから北東に進んで、まずは海岸沿いに出るよ。あとは、海岸に沿って北上していけばバラトレストだね」
「砂漠なのに海岸なんてあるの?」
「うん。あたしにだって何で砂漠と海が隣接しているかなんて知らないわよ」
「いや、海があるなら港とかあるんじゃないのか? 寧ろ、そっちに向かったら見つかる確率が高いだろう」
「それは、大丈夫」
「何で?」
「ここ、港なんて無いから。というか、海岸沿いに町や村なんて無いから」
「どういう事だ?」
砂漠で水や食料に苦労していそうなのに、水や魚介類が手に入りそうな海沿いに町や村が無いのはおかしい。
「アスカ、知らないの?」
「何を?」
「ミコトは?」
「ごめんね。ミサオが言いたい事が分からないよ」
「そっか。この世界の中心にある島には凶暴で危険なモンスターで溢れているのは知っているかな。二人共」
「それは聞いたことがあるよ」
ミサオはそれを聞いて頷くと、言葉を続ける。
「その影響で海のモンスターも陸のモンスターより強いのがいっぱい居るのよ。しかも、何故かここの海沿いには、やたらと強いモンスターが集まるらしくて、漁どころじゃないんだってさ」
生活するには危険な地域という事で、海沿いには一般人は近寄りもしない。隠密でバラトレストに向かうには丁度良いという事なのだろうが。
それは、つまり強力なモンスターと遭遇してしまう可能性があると。そういう事を言っているのをミサオは自覚しているのだろうか?
疑問が顔に出ていたのか、ミサオは俺の方を見ると不思議そうな顔をして、質問してきた。
「アスカ、何か言いたい事があるの?」
「いや、海沿いを通ったら強いモンスターに出くわしてしまわないか、心配になっただけだ」
「大丈夫、大丈夫。だって、前にブラッドに連れられて行った時は、モンスターなんて出てこなかったよ。心配し過ぎ」
お前は軽く考え過ぎと口には出さず、心で突っ込む。
「分かった。取り敢えず、今の内に海岸まで行って、バラトレストを目指そう」
「「分かった」よ」
俺たちはミサオの案内で海岸に向かって北東へと足を進めた。




