魔王ブラッド
ブラッド軍の男とミサオの提案でブラッド城へと戻った俺達は謁見の間でブラッドの帰りを待っていた。
「遅いなぁ」
「しょうがないだろ」
ミサオが痺れを切らして文句を言っている。自分を召喚した相手だからか、ミサオの性格からかブラッドに対して態度がデカいというか、何と言うか。敬うということを知らないよな。
暫くして謁見の間の奥の扉が開き、男が二人入って来た。一人はさっき城への帰還を提案した男だ。ということは、もう一人がブラッドなのか? 黒い豪華なローブに身を包んだ男が、玉座に座る。
「待たせたな」
「ブラッド、遅い。ほら、これ見てよ」
「ミサオ、その前にそこに居る二人を紹介しろ。お前はいつも落ち着きが無さ過ぎるぞ」
「あ、ごめん、ごめん」
「ミサオがすまない。私がブラッドだ。宜しく頼む」
ブラッドが頭を下げる。魔王が頭を下げるとは思ってもいなかった。プリメラが話が分かるとは言っていたけど、こういうことか。
「俺はアスカです」
「私はミコトです」
「アスカにミコトか。今日は、助かった。恩に着る。ロックバードによって、向こうは戦争どころじゃないだろう。今日はゆっくりしていくといい」
「「ありがとうございます」」
「それで、ミサオ。何を見ろと?」
「これよ。これ。どうよ。魔器手に入れたわよ」
「確かに、それは魔器だな。その二人と共に挑戦したのか」
「何よ。悪い?」
「いや、悪くない。寧ろ、それが当然だ」
「むぅ。でも、一人でクリアしろって言ったじゃない」
ブラッドが大きな溜め息をつく。
「はぁ……。お前、人の話を聞いていないだろう。自分でとは言ったが、一人でとは言っていない」
「くっ」
二人のやり取りを見て思わず吹き出しそうになる。ミサオ一人でというのは勘違いだったようだ。
「そうだ。魔器で思い出した。ブラッド様、ミコトが魔器を入手出来なかったのですが」
俺はミコトが魔器を入手出来なかった事をブラッドに伝える。
「うん? 魔器を入手出来なかっただと?」
「はい。私が手を翳したら、全身を光が包んだのですが、装備品は出ませんでした」
「全身を光が包み込んだだと?」
ブラッドはミコトをジッと見つめると何か納得した様子で頷き始めた。
「そうか。成程。お前は中々珍しい物を手に入れたようだな」
「えっ? 何も貰えていないと思いますが」
「いや、確かにお前は力を手に入れている。ただ、まだ実力が伴っていないようだ。実力が伴った時、お前は新たな力に目覚めるだろう」
ミコトは装備品じゃなくて、力を手に入れたということか。
「そうなんですか? 分かりました。ブラッド様が嘘を吐くとも思えませんし、その力が早く目覚めるように頑張ります」
「ああ。そうすると良い」
一通り話を終えて、ブラッドが戻ろうとした時、アルが<空納>から出て来た。
「ちょっと待ったぁ」
「何だ? お前はあの時の子竜か。全く、とんでもない物を連れて来てくれたものだ」
「そんな事より、僕の本体が君に話があるんだよぉ」
「本体?」
ブラッドがアルに聞き返したその直後、アルから放たれた光が辺り一面を包み込む。
「……ッド、ブ……ッド、聞……ますか?」
「誰だ!?」
「ブラッド、あなたにお願いがあります。私が分け与えた力、その一部を私に返して貰えませんか?」
「何を言っている? そんな記憶は無い。さっきも質問したはず。お前は誰だ?」
「私はあなたの目の前にいる子竜の本体。かつて、あなた達に力を与えた者です」
ブラッドは考えるが思い当たらない。大体、魔王である自分に力を与えたとはどうなのだ?
「魔王に堕ちたあなた達はやはりあの者の力の影響が強いのでしょうね」
「あの者?」
何も思い出せないが、ただ俺が神から魔王堕ちしたという事を知っているとは。
「あの者を再び世に放たないため、力をどうか」
「ふむ。分かった。良いだろう。お前の言う通りにしよう」
「ありがとう」
ブラッドから力がアルの方へと流れていく。
「くぅぅ。これは思った以上に力が抜ける」
力が声の主へと戻った時、ブラッドは声の主が誰であったかを思い出す。
「そうか、あなただったのか……」
ブラッドが小さな声で呟くの同時に光が消える。
「アルよ。お前の事よく分かった。お前の本体には、力を返したが、ふむ。お前、プリメラから力を与えられたな」
「そうだよぉ。ブラッドもくれるの?」
「ああ、こっちに来なさい」
アルがブラッドの下へ近付くと、ブラッドはアルの頭に手を置く。アルの体が黒い光に包まれた。
「これで良いはずだ」
「よく分からないけど、ありがとぉ」
「さて、これで話は終わりだな。では、明日も忙しい。早く休むといい」
「あ、その前に最後に一つ」
ブラッドが話を終わろうとした所に、俺は最後の質問、いや、お願いと言った方が良いか、をブラッドに投げかける。
「アルの本体と話をして記憶が戻ったと思って良いんですよね?」
「そうだな。戻ったというよりは、開放されたと言うべきか」
「でしたら、この戦争、止められませんか?」
「何故だ?」
「この世界は、邪神の脅威が迫っているのに、戦争なんてしていてどうするんですか?」
俺は少し語尾を強くして問いかける。ブラッドは俺の質問に暫く黙っていたが、答えを言った。
「確かに、私の力があの方に戻った事で、世界の理が一つ変わった。邪神の存在が伝承程度には語られるように認識されているだろう。だが、セドニーは己の国を豊かにするためだけに、隣国の我らの地を荒らしたのだ。その報いは受けねばならない」
やはり戦争を止める事は出来ないのか……。ブラッドの表情を見る限り決意は固そうだ。
「どうしても止められませんか?」
「ああ。止められない。だが、心配するな。記憶が戻ったからな、報いは受けて貰うが、奴が必要であるということは理解している。だから、殺しはしない」
「セドニーを殺さなくても、兵達の命は……」
「それは戦争なのだ。致し方あるまい。だが、なるべく被害は最低限にするように心掛ける事を誓おう」
「そう、ですか……」
ブラッドを説得するのは無理そうだ。だったら、セドニーにも直接戦争を止めるように言うだけだ。次はヒデオを必ずぶっ飛ばす。
そして、謁見の間から出た俺達はミサオの部屋でその日は休み、次の日の朝を迎えた。




