サウザート軍の災難
ヒデオ達がブラッド軍の登場により撤退した後、俺はミコトの<ヒール>で漸く動けるまで回復出来た。
「ミコト、助かったよ。ありがとう」
「アスカ、大丈夫? 服がボロボロだよ。何があったの? 大きな爆発みたいなのが聞こえたけど」
ミコトはバンダナと靴以外、ボロボロになった俺の服を見て尋ねる。
「ヒデオの攻撃でね。あいつ、銃だけじゃなくて、爆弾も使ってきた」
「爆弾っ。何それ。あいつ、どんだけ危ない奴なのよ」
ミサオは呆れた表情で俺の方へと歩いて来る。
「俺もまさか爆弾を使うなんて思っていなかったからな、死ぬかと思ったよ。それより、これはどういう状況なんだ?」
俺が質問するとアルが俺の肩に止まり答えた。
「僕がブラッドに援軍を頼んだんだよぉ。もう、大変だったんだからぁ」
「そうか。アル、ありがとうな」
ブラッド軍の方へと目を向ければ、こちらに一人の男が歩いて来る。かなり豪華な服を来ているが、あれがブラッドなのか?
「どうやらセドニー軍は完全に撤退したようですね」
話し方が丁寧だ。俺が想像していたブラッドとはイメージがだいぶ違うな。ミサオに魔具を渡さなかったとか、戦争を仕掛けたとか話しを聞いていたから、もっと威厳のある男を想像していたんだけど。
「はい。お陰で助かりました」
「それは結構です」
「それにしても、よく全軍でこっちに向かえましたね」
「そうよ。ブラッドはどうしたのよ?」
え? ミサオの言葉に驚きキョトンとしていると、男がミサオの質問に答えた。
「ブラッド様は殿を務めていますよ。何せ、見たこともない巨大なロックバードから逃げながら、こちらに向かったので」
「「「ロックバード?」」」
俺達三人の声がハモる。意味が分からないと顔に出ていたようで、男が説明を続ける。
「はい。ロックバードです。そこの子竜がセドニー軍の挟撃部隊の報告に来る途中にどうやら狙われたようでして。あれは、狙った獲物を執拗に追い掛けますから」
「そうだよぉ。本当に大変だったんだからぁ」
あぁ。分かった。要は、アルが移動中にロックバードに襲われて、ブラッド達の所まで逃げたもんだから、戦争どころじゃなくなったということか。
「アルが迷惑をかけたみたいですね。すみません」
「アスカぁ。どういうことぉ。僕が悪いのぉ?」
「いえ、迷惑だなどと。寧ろ、お陰様で挟撃されることもなく今回は我等の勝利で終わりましたから」
「え? ロックバードが来て大変だったんじゃないんですか?」
俺の質問に男は首を横に振る。
「いえいえ、そのロックバードをあいつらに押し付けてやったので、向こうは大打撃を受けています」
成程。ブラッドはそのロックバードがこっちに来ないように、殿を務めているということか。それって、ブラッドクラスの実力が無いと戦えない程、強力なモンスターって事か。
「アル、よく生き延びたな」
「えっへん!」
ミコトがアルの頭を優しく撫でながら声をかける。
「頑張ったね」
「ありがとう」
アルは気持ち良さそうに静かに撫でられていた。
「で、ブラッドとは会えたのか?」
「うん。会えたけど、挟撃部隊の話しか出来てないよぉ」
「そうか。じゃあ、また話に行かないといけないな」
「取り敢えず、城で話すと良いんじゃないの?」
ミサオが城へ帰還するのはどうかと提案してきた。それはブラッド次第じゃないのか?
「そうですね。今日はもうこちらとしても退くのが良いと思われるので、城へ戻りましょうか」
男もミサオの提案に賛成するから、俺達はブラッド城へと戻ることになった。
一方、思わぬ事態に撤退したヒデオ達はセドニー軍本隊に問い詰めに合流すると、本隊が巨大な鳥のモンスターに襲われていた。
「何だ、あれは!?」
「本隊がモンスターに襲われていますね」
「あれのせいか。落とすぞっ」
ヒデオは魔銃を狙撃用のライフルの形状に変化させると、ロックバードに狙いを定める。
「<スナイプバレット>。邪魔をしてくれた礼だ。死ね」
ヒデオの放った一撃は真っすぐロックバードへ向かって飛んでいく。だが、ロックバードの野生の勘が鋭かったのか、魔弾が届く前に急上昇をして魔弾を躱した。
「何だと。あのデカ物、俺の狙撃を避けたぞ。何なんだ、今日は。あの召喚者達といい、あいつといい、俺の狙撃がこんなに簡単に避けられるなんて。今日は厄日なんじゃないのか?」
ロックバードは狙撃してきたヒデオのいる方向に目を向ける。ヒデオが再び自身に狙いを付けている姿を確認すると火球をヒデオのいる方向へと吐き出した。
「攻撃してきたぞ。散れっ」
ヒデオは周りの兵達に指示を出しながら、自身もその場から離れる。そして、火球が着弾し、地面が吹き飛んだ。
「俺ならまだ耐えられるだろうが、他の奴らはひとたまりもないんじゃないのか、この火球は」
「そうですね。この場に居る者ならば、ヒデオ様と私位でしょう。尤も、当たればただでは済まないでしょうが」
「ちっ。距離が遠い。もっと近付いて撃つしかない」
ヒデオは本隊へと走り出す。ロックバードは、走り出したヒデオ目掛けて次々と火球を吐き出す。火球を躱しながら、本隊の兵達の下へと足を進める。
「邪魔だ! 退け、退きやがれ!」
本隊の兵達の間を掻き分けながら、ロックバードの真下へ移動する。
「ここからなら。喰らいやがれ!」
ヒデオの魔銃から魔弾が放たれる。放たれた魔弾は、ロックバードの翼を貫き、ロックバードが大きな悲鳴を上げる。
「ギャァアアアアッ」
「良しっ」
撃たれたロックバードは、真下へ特大の火球を吐き出すと、そのまま飛び去って行った。
「ちっ、あれをどうにかしないと本隊の被害が大きいか」
ヒデオは、魔銃を通常形態に戻し火球に照準を合わせる。
「<アイスバレット>」
魔銃から氷の魔弾が放たれ、火球とぶつかる。氷の魔弾が蒸発し、辺りが水蒸気で包まれ、何も見えなくなった。
「何も見えない。奴は何処だ!?」
水蒸気が無くなり、視界が回復した時には、ロックバードの姿は見えなかった。
「逃げたか。また止めを刺し損ねたぞ。本当に今日は厄日だ」
「ここの責任者はどこですか? 被害状況を教えて下さい」
アゲートが本隊の状況を確認するのに責任者を探し始めた。ヒデオは、今日の戦闘が不満で堪らず、地面に拳を打ち付ける。
「今度こそ、あいつらの息の根を止めてやる。救世主はこの俺、一人で十分だ」




