再戦
アゲートは<シャイニングスティンガー>を避けられ、驚きと共に呆然としていた。何故か避ける事が出来た俺自身も自分が何をしたのか分からず、先程殴り倒した兵士を見ていた。
ドッゴォオオオン!
<シャイニングスティンガー>が離れた位置にある丘に命中し激しい爆発音を立て、丘を消し飛ばす。その音に俺もアゲートも我に返った。
「ま、まさか私の渾身の一撃を躱すとは。これはあなたの評価を見直さなければなりませんね」
「俺だって何が起きたのか分からないんだ。評価を見直されても何も出てこないぞ」
あの距離を一瞬で動ける筈も無い。あるとすれば何かのスキルを俺が無意識に使ったということだ。でも、そんなスキルに心当たりは全く無い。ステータスプレートを確認したいところだが、そんな暇は無いだろう。
「アゲート、俺にやらせてくれ」
「ヒデオ様、あなたでは勝てないと思われますが」
「構わない。第一、お前だって攻撃を躱されているじゃないか」
「ですが……」
「大体、俺よりステータスは上でも、お前だって俺には勝てないだろ?」
(それは、あなたを殺さないように手加減しているからなのですが……)
仕方ないといった表情でアゲートが引き下がる。助かった。正直勝てる気がしなかったからな。
あの男の相手はブラッド達に任せよう。アルはそろそろブラッド達の所に着く頃じゃないか?
「さぁ、俺が相手をしてやる。この間は油断したが、今日は負けねぇ」
「ヒデオ。お前には痛い目にあってもらわないと俺の気が済まない。今もポーラが苦しんでいるかもしれないんだ。俺は絶対にお前を許さない」
「ポーラって誰だ? あぁ。あの時、俺に撃たれたこの世界の女か。そんなこと知るか。殺し合いをしたんだ。それくらい当たり前のことだろう。いちいち気にしていられるか」
争ったのだから確かにこいつの言うとおりかもしれない。でも、俺は絶対に許さない。こいつはボコボコにしてやらないといけないんだ。
ヒデオが魔銃を構える。俺は銃身の方向を注意深く観察しながら、ヒデオが引き金を引く瞬間に射線上から外れる。
「ちっ。本当に面倒な奴だ」
初弾を躱され舌打ちをするヒデオは魔銃をショットガンに切り替えた。距離を詰めるため前に出ていた俺は慌てて足を止め後ろへ下がる。
「遅ぇよ」
ショットガンから発射された魔弾が破裂し、拡がりながら飛んでくる。
「今の俺なら、<空破>」
<空破>の衝撃波に<紅蓮>の炎が合わさり、扇状に拡がって魔弾を相殺する。ヒデオは攻撃を防がれたのが余程悔しかったのか、苛ついた表情で魔銃を構える。
「本当に腹が立つ奴だ。だが、これならっ」
「銃口で射線が分かるんだ。日本にいた頃の俺ならともかく、こっちで強くなった俺には通用しない」
ヒデオはそんなこと知るかと言わんばかりに、引き金を引く。さっきと同じように銃口から射線を見極め、そこから外れ前に出ようとした時、左腕に激痛が走る。
「ぐぅっ。そんな射線上には入っていないのに」
「お前、馬鹿か? レベルアップするのはお前達だけじゃないんだ。俺だってレベル上がっているんだよ。新しいスキルって奴さ」
(もっともMP消費が馬鹿にならないから余り使いたくないんだがな)
撃たれた左腕に<癒やしの光>を使い傷を癒やすが、治りが遅い。
「くそっ。さっきの奴といい、お前といい、俺の左腕が動かなくなったらどうするんだよ」
それよりも射線上から外れた相手に命中させるスキルか。厄介だな。ホーミング、必中。弧を描く弾道。色々なスキルが思い付く。どのスキルだろうと、対策となると難しいだろう。さて、どうしたものか?
一方、ブラッドの下に向かっているアルは全速力で向かいながら、あるものから逃げていた。
「何なんだよぉ。何で追いかけて来るんだよぉ」
遠くから近付いて来ていた何かの正体、それは巨大なロックバード。体は岩のように硬く、狙った獲物は逃さない。肉食の獰猛な鳥型モンスター。ここ、サウスバレンにしか棲息しない。通常は大きくても二メートル程のものが、突然変異なのか六メートルはある。
それがずっとアルの後を追い掛けて来ている。アルのことを獲物として狙いを定めたのだろう。距離もかなり詰まってきている。あと一時間も経てば追い付かれてしまう。そのためアルは必死になって飛んでいた。
「ブラッドまだなのぉ? こんな事になるならアスカの頼みなんて聞くんじゃ無かったよぉ」
文句を言いながら飛んでいると、遠くの方で何やら戦闘をしているような爆発が起きたのに気付いた。
「あ、きっと、あそこだぁ」
再び爆発が起きる。既にブラッド軍とセドニー軍の戦闘が始まっていた。
そして、遂に軍隊の姿が見えて来た。後方の方はまだ戦闘をしている様子はない。ブラッドがいるとしたら危険度の高い最前線ではなく、安全な後方に違いない。
それを確認したアルは下降を始める。それに合わせてロックバードも下降を始める。
「やっぱり付いてくるのかぁ」
このペースならギリギリロックバードが追い付く前にブラッドの下に辿り着けそうだ。かなり疲れてきた。飛ぶ速度も少しずつ落ちて来た。そのせいでロックバードとの距離が詰まっていく。そして、ロックバードの間合いの中にアルが捉えられる。
「ピギャァアアア」
ロックバードは叫び声を上げるとアル目掛けて、口から火炎弾を吐き出す。
「うわぁっ。あんなの当たったら丸焼きになっちゃうぅ」
一発目は躱したというより逸れた。だが、すぐに二発目の火炎弾が飛んでくる。アルは垂直に下降し、二発目は回避する。それを見たロックバードは火炎弾を放つのを止めた。
「あれ? もう撃ってこないのかなぁ?」
アルは不思議に思いながらも諦めてくれたとは思わず、警戒を緩めない。なにせ、自分には戦う力など皆無なのだから。すると、背後から強烈な突風に煽られ、飛び辛くなった。
「うわぁ。追い風どころじゃないぃ。何だよぉ」
後ろを振り向くと、ロックバードの前方に何かの魔術陣が展開していた。突風はその魔術陣から出ているようだ。
「この風を上手く使えば速く飛べるかなぁ?」
アルは風に乗るように翼を広げてみるが、元々移動を阻害するための魔術。上手く乗ることが出来ず、くるくると体が回転してしまった。
「うわぁあ、あぁ、あぁ」
翼を閉じて体が回転するのを防ぐが、翼を閉じれば当然の如く、落下し始めた。
「ひぃいい」
もうだいぶ距離が縮まってしまっている。だが、ブラッド軍の最後尾も近付いては来ている。そこでアルは声が届くかもしれないと、大声でブラッドを呼んだ。
「ブラッドぉおおお、たすけてぇええええっ!」
そして、アルの悲痛な叫び声はブラッドの耳に届く。




