三人対千人
ヒデオの狙撃を受け、警戒を強めたが、次弾が来る様子は無かった。
「次の狙撃は無さそうだな」
「アスカ、助かったよ」
「それよりも弾の飛んできた方向が気になる」
「どういう事?」
俺の言葉にミコトが尋ねてきた。
「今、ブラッド軍が進軍しているのはサウザートとサウスバレンの国境だろ。弾が飛んできたのはその反対、ゴス村がある方向なんだ」
「だから?」
ミサオが聞き返してくる。ここまで言って分からないのか? ミコトは……。うん。ミコトもか。
「セドニー軍も国境に進軍しているんだろ。だったら、何で背後から俺たちは狙撃された?」
「そりゃ、ヒデオがゴス村の方に……」
「あっ」
ミコトはどうやら気が付いたようだ。
「ヒデオは背後に居るんだ。あいつは、転送のスキルを持っていたから可能なんだろうけど、この戦争が始まるという時に、ヒデオが一人で敵軍の背後に回るとは思えない。更に、何で俺たちを狙い撃つ必要がある?」
「さあ?」
「私達が邪魔だから?」
「たぶん。あいつは俺たちが昨日ダンジョンからこっちに帰って行くのを見たんだ。そして、自分たちの作戦の邪魔になると思ったんじゃないか」
「作戦?」
「ああ。セドニー軍は、ブラッド軍を挟撃しようとしているんだと思う。だから、背後の軍隊の行動がバレないように俺たちを先に始末しようとしたんだろう」
「でも、それじゃあ、あたし達に自分たちが居るというのを教えてしまうじゃない。そんな事する?」
「狙撃に絶対の自信があったんだろうさ」
俺の言葉に納得したのかミサオはうんうんと頷いていた。
「さて、そういう事で今からブラッドの所に向かえば、ヒデオ達とぶつかる可能性が出てきた訳だけど」
二人の顔を交互に見ながら質問する。
「俺は行く。二人はどうする? ヒデオ達と遭遇すれば、モンスターじゃない。人との戦闘になる。しかも、戦争だ。間違いなくこっちを殺そうとしてくるだろうな」
「私はアスカと行くよ」
「あたしだって」
「いいのか?」
「「うん」」
「分かった。それじゃあ、アル!」
俺の呼び掛けにアルが<空納>から出てくる。
「ふぁあああ。なぁにぃ。僕、なんかやたらと眠いんだけどぉ」
「アル、お前空を飛んで先にブラッドの所に行ってくれないか?」
「うん? 良いけどぉ。何でぇ?」
「俺たちはきっとヒデオ達と戦闘になる。挟撃の話をブラッドに伝えて欲しいんだ」
「分かったぁ。じゃあ行ってくるねぇ」
パタパタと翼を動かすと、アルはブラッド達のいる方向へ飛び立って行った。
「よし、じゃあ俺たちも行こう」
すぐに攻撃が来なかったということは、恐らくこの先で直接殺しに来るつもりだと思って間違いないだろう。ただ一つ分からないのは、まだかなり後方にいる筈のヒデオ達が俺たちに追い付くのか?
普通に考えれば、俺たちがブラッドの軍隊に追い付く方が早いはず。いや、俺たちよりも進軍の速度が速いから狙撃したのか。
常に<感知>を発動しながらブラッド達の所へ行くべきかな。あとは敵の数か。ブラッド軍は、城下町、ブラッド城の大きさから考えても、多くて五千、たぶん三千強だろう。
セドニーの軍隊も似たような数なんだと思う。そうでもしないと戦争なんてしようと思わないだろう。それを挟撃しようとすれば、千から二千は居るだろう。
それをたった三人で対応しないといけないとなると、戦闘する場所も気にしながら進まないといけないな。
アルは……まだ<感知>の範囲内から抜けないな。頼むぞ。俺たちの運命はお前に掛かっているんだからな。
ブラッド軍に向かって進んでいると、<感知>の範囲にヒデオ達と思われる大勢の人が入ってきたのを感じ取る。
「思っていたより速いな……」
「どうしたの?」
俺の呟きを聞いたミコトが質問してきた。
「ああ、ヒデオ達との距離がかなり縮まったみたいだ。<感知>に反応があった」
「ちょっと、急がないと」
「そうだな。この辺りじゃ多勢に無勢だ。あっという間にやられてしまうな」
予想は合っていたみたいだ。数は千人か。これは言うべきか、言わざるべきか。言えば、パニックになるかもしれない。でも、言わないでいたとしても追いつかれた時にパニックになるよりかは、今言った方が良いかもしれない。
「どうやら敵は千人みたいだ」
「は!?」
「そんなにいるの?」
「ああ。参ったよな。でも、何とかするしかない」
異世界で戦争に巻き込まれて死んでしまうなんて勘弁だ。前方を見ているといくつかの丘が並んだ場所を見付けた。あそこならまだこの何も無い平らな場所よりかは幾分かマシか。
「よし、あの丘の所で待ち受けよう」
「あそこ?」
「ああ、こんな何も無い荒れ地で戦闘するよりかはマシだろ?」
「まあ、確かに。丘の陰から攻撃とか出来るか」
「という事で、少し急ぐぞ」
俺たちは少し先にある丘の方へと早足で向かった。
「ヒデオ様、異世界人と思われる三人の移動速度が上がりました」
「俺たちに気付いたか?」
「恐らく」
「まあいい。たかが三人。ブラッド軍に追い付く前に仕留めてしまえば問題無いさ」
そもそも、人の足で軍馬の足から逃げられる筈も無い。すぐに追いついて片付けてやるよ。そして、この世界を救って、元の世界に……。
「あぁ、疲れた!」
「ミサオ、休んでいる暇は無いぞ。どんどん追い付かれている」
「あの丘、まだなの?」
「もう着くんじゃないの?」
早足で丘に向かっていたが、少し距離があったこともあり、ミサオが疲れたと文句を言い出した。今は数ある丘の中から一番高い丘から見下されても死角になる丘へと移動中だ。
「でも、千人となんて本当に戦えるのかな?」
ミコトの疑問も尤もだ。数の暴力で本来ならあっという間に負けるんだろうけど、何とかなるような気がしてならないんだよな。
「何とかなるさ。きっと」
「アスカ、妙に自信ありそうだけど本当に大丈夫?」
ミサオも心配そうに俺を見ているので、俺は大きく頷いた。
「ああ、これがきっと鍵になる」
そう言って、キマイラブロウとストレンジナックルを見せる。
「こっちのボスのアイテムから作った武器はともかく、これって攻撃力がほとんど無いって言ってなかった?」
「そうだよ。このストレンジナックルは攻撃力が一しかない。だから、兵士を殺すような事は無いな。戦争とはいえ、やっぱりなるべくなら人殺しは避けたいし。殺さずに済むに越したことはないだろ?」
「そりゃそうだけど、じゃあ、ボスの武器は?」
「これは装備したら<雷迅>ってアーツが使えるようになるんだ」
「あ、そうか。雷で相手を麻痺させるんだね」
ミコトの言葉に俺は静かに頷く。ストレンジナックルを装備した左で牽制、キマイラブロウを装備した右で麻痺。これともう一つ。俺の予想が正しければ……。
「来た!」
ヒデオ率いるセドニー軍の足音が聞こえてきた。
「よし、先制攻撃でこっちのペースに誘い込むぞ」
三人対千人の戦闘が始まる。




